Review

BUDAMUNK: Maxinputty vol.2

2025 / KING TONE
Back

汚された音響の美しさ

28 March 2025 | By Shin Futatsugi

BUDAMUNKが3月にリリースしたDJミックス作品『Maxinputty vol.2』が掛け値なしにすばらしいので紹介したい。これはいわばDJミックスというアートフォームによる音響実験だ。実験と書くと大仰に思われる人もいるかもしれない。が、本作でこの希代のビートメイカーは複雑なことをやっているわけではない。サウンドが難解なわけでもない。約1時間のあいだ、彼は淡々とヒップホップ、そしてすこしのR&Bをつないでいく。用いるのはすべてアナログ。ただそれだけと言えば、それだけ。そうであるのに、いや、そうであるからこそ、スペシャルなのだ。まるでミックステープをラジカセで聴いているようなくぐもった音像。

この鳴りを他にどのように説明できるだろう。たとえば、こんな風に言えるか。ヒップホップのプロダクション・チーム、ダ・ビートマイナーズが全面的にプロデュースしたブラック・ムーン『Enta Da Stage』(1993年)とスミフン・ウェッスン『Dah Shinin’』(1995年)という、言わずと知れた2枚の名盤のサウンドをDJミックスの方法論で再現し、アップデートしていると。ラリー・ミゼルのメロウで流麗なジャズ・ファンクをサンプリングしつつ、ハードコアなビートに変換していく、そのような煌めく瞬間が随所にある。あるいは、デトロイトのプロデューサー、セオ・パリッシュ『First Floor』(1998年)を思い起こさせる。その3枚はどれもSP-1200というヴィンテージ・サンプラーが重要な役割を果たしている。加えて、BUDAMUNKのEQ使いは、まさにセオ・パリッシュのDJのトレードマークとも言うべき、歪に楽曲を変形させるそれを彷彿とさせる。ハイ、ミッド、ローのEQ使いによってこれだけ創造的な音を生み出せるのかとただただ驚くばかりだ。

そう、かつて私はBUDAMUNK本人に、彼のDJミックスの深みのあるサウンドの秘密が知りたくて、「あの鳴りをどうやって出しているんですか?」と訊いたことがある。おそらく何か特別なマジックがあるにちがいないと思ったからだ。しかし返ってきた答えは意外にもシンプルだった。「EQをいじっているだけ」と。まじか……と驚いた。いや、もちろん録音環境や音を通す機材の影響はあるだろう。が、特別難しいことはしていないと。とにかく、音の汚し方が美しく、かっこいい。

たしかに本作では、90年代の一般的にブーン・バップと呼ばれるヒップホップもセレクトされている。ただ、ここで強調したいのは、この作品が、ブーン・バップ、あるいはブーン・バップ/トラップという暫定的なカテゴライズや二元論が、いかに私たちの聴取体験における想像力を奪っているかを証明しているということだ。90年代ヒップホップやブーン・バップってこういうもんっしょ、という浅慮な思い込みを覆す痛快さがある。

そうなれば、ここで収録曲について書きたい誘惑にも駆られる。その方が本作の魅力をより伝えられるだろうし、どんなミックスなのかもイメージしやすい。しかし、トラックリストはない。その理由も明白だ。そうしたアンダーグラウンドのスタイルは尊重すべきだろう。でも触れ方はあるな。Sick Team(ISSUGI、5lack、BUDAMUNKのグループ)による、ある曲のリミックスが勢いよくカットインでぶち込まれ、JJJがプロデュースしたISSUGI「RAP RUSH」をピッチダウンしてミックスする。あの疾走感が肝の楽曲のBPMを落として魅力的に聴かせるのがすごい。BUDAMUNK自身のビートは勿論、他にもいろいろある。ブラックスプロイテーションへのオマージュが得意のデュオの楽曲とアブストラクトなビートの混ぜ方も気持ち良いし、インストとラップの曲を交互にかけて聴き手を飽きさせない。ファンクが看板のラッパー/プロデューサーの曲があり、後半のメロウな展開もさすがだ。

BUDAMUNKはこれまでに、さまざまなDJミックス作品やそのシリーズを出している。その一部を紹介しておこう。ジャズに焦点を当てたムーディーな『Jazz Lounge』、全曲インストの『Training Wax』、自身の音源をミックスした『BUDA SESSION MIXTAPE』、その他に『FEEL GOOD MIX』、『Mellowed Out Cruisin’』、『Groove Room』などもある。こうして振り返ると、自分がBUDAMUNKのミックス作品のファンであることに改めて気づく。本作をふくめどれもフィジカルのため、現在入手困難なものも多い。だけど、これからもリリースしていくだろうし、見つけたら手に入れることを強くおすすめします。ちなみに、BUDAMUNKは今年はじめに『Green Clouds』というインスト・アルバムをリリースした。緑の雲……言い得て妙である。(二木信)

※ご購入はお近くのレコード店、またはオンラインストアにて。


関連記事
GRINGOOSE
『Melody Thought』
http://turntokyo.com/reviews/melody-thought-gringoose/

More Reviews

1 2 3 76