歯ごたえがあって、胃袋にずしんと響く
いまやレッド・ホット・チリ・ペッパーズやフー・ファイターズと並んでアメリカを代表する現役のロック・バンドだと言っても過言ではない。ロックという音楽がもはや20世紀の遺産になりつつある状況にあって、デザートロックの始祖的存在であるカイアスからキャリアを始めたジョシュ・オム率いるクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(QOTSA)が、今も快調にサバイヴしていることに改めて驚かされる。
オムはかつて次のように言っている。ロックは男の子にはヘヴィ、女の子にはスイートでなくっちゃ、と。QOTSAの取り組みをいみじくも言い表したこの発言だ。もしもロックがヘヴィかつスイートであるべきならば、ロック・バンドのフロントマンは不敵でセクシーでなければならない、といえる。オムはその役割を十分すぎるほど果たしている。エルヴィス・プレスリー、ジョニー・キャッシュ、ジム・モリソン、イギー・ポップ、デヴィッド・ボウイ、ルー・リード、レミー・キルミスター。ヤンキー的な危うさと色っぽさを放つオムの歌声は先達たちの系譜に連なるものにほかならない。
『In Times New Roman…』はQOTSAの6年ぶりとなるアルバムだ。まずなによりもヴォーカルの色気が半端ではない。むろんオムは常にセクシーなヴォーカリストだったわけだが、当作品においてはいつにもまして艶やかなのだ。表現が円熟の域に達したともいえる。先述のボウイ、あるいはブライアン・フェリーを彷彿させる伊達男っぷりが披露されている。QOTSAは入れ替わりの激しいバンドではあるが、オムがヴォーカルを取る限りQOTSAらしさが失われることはないだろう。
QOTSAの音楽は、ブルー・チアー、ストゥージズ、ヴァニラ・ファッジ、グランド・ファンク・レイルロード、CCR、ブラック・サバス、レッド・ツェッペリン、ZZトップ、モーターヘッド、セックス・ピストルズ、ダムド、デッド・ケネディーズ、クランプスといったバンドを串刺しにしたものである。ヘヴィでワイルド、骨太で頑強なのが売りのバンドだ。しかし大味ではないところがミソである。
彼らのサウンドにおいてもっともユニークな点はどこにあるのだろうか。それは贅肉のないタイトなグルーヴにある。オム本人もロボットの比喩を使用しているように、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、シルバー・アップルズ、スーサイド、あるいはノイ、カン、クラフトワークのような機械仕掛けのミニマルなビートの反復でグルーヴを構築するところにこそ彼らのサウンドのおもしろさがある。
こうしたサウンドの屋台骨となるのはドラムにほかならない。かつて名ドラマーのデイヴ・グロールがその座についていたこともあった。現在、ドラムを務めるのは元マーズ・ヴォルタのジョン・セオドアだ。2013年から参加しているから10年選手となるセオドアである。当作品においても、機械仕掛けの端正なグルーヴの構築には、彼の的確なプレイが寄与している。ドラムのサウンド面でいえば、部屋の反響が微かに聴こえてくるような生っぽいプロダクションも素晴らしい。
マーク・ロンソンがプロデューサーとして参加した前作『Villains』との決定的な差は音像の生々しさにある。前作は全体を通してライトなタッチだった。QOTSAが自らプロデュースを務めた当作品は、おせんべいのように歯ごたえがあって、胃袋にずしんと響くロー・ミッド寄りの歪んだサウンドが特徴だ。QOTSAの肝であるギターにおいては、レンジの棲み分けを意識した音作りおよびアレンジが施されており、ベテランならではの巧さを感じる。
『In Times New Roman…』のなかで、もっとも聴き応えがあるのは「Carnavoeyur」だ。初期ロキシー・ミュージックを連想させるようなギラギラした曲だ。いびつなギター、ベース、オルガン、不穏なストリングス、深いリヴァーブで構成された禍々しい世界は、アルバム・ジャケットのダークなイメージとも響き合っているといえる。楽曲の終盤、オケそのものが歪み、爆音となって幕を閉じるというギミックが鮮烈だ。(鳥居真道)
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