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史斯宇: 溫室

2024 / Soundscape 在田發行
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台北の小学校で働く英語教師が、00年代R&Bに捧げるオマージュ

05 May 2024 | By Yo Kurokawa

ちょっとゆるいレトロフューチャー風のジャケットデザインに惹かれて、何気なく再生してみた史斯宇 SYAのEP『溫室』。たちまち、そのおしゃれなアーバンソウルの虜になってしまった。音源を一通りチェックしてみると、これまではシングルの発表のみで、今回のEPが初めてまとまった形でリリースされた作品のようだ。台湾国内での様々なコンテストで入賞歴はあるけれど、インタビュー記事のようなしっかりした紹介は見当たらず、どんな人なのかと史斯宇 SYAのInstagramアカウントにアクセスしてみる。何だか様子がおかしい。黒板を背景に、明らかに学校の教室といった雰囲気の室内で撮られた面白リール動画が多数上がっているのだ。よくよく調べてみると実は彼、台北市内の小学校で英語の先生として働きながら、並行して楽曲発表を行っている一風変わった活動スタイルらしい。このEPには収録されていないが、教師になるまでの自らの心境の変化を歌ったという「update」も曲を通してずっと一定に鳴るビートと幻想的なエフェクトのかかった滑らかな歌声が、シンプルながらロマンチックでなかなかいい曲である。

ここ数年のシングルを束ねた本EP収録曲の中で唯一の新曲「Where’s the Flavor」の仕掛けには思わずニヤリとしてしまう人もいるだろう。歌詞に出てくるSalt-n-Pepa、ブラック・アイド・ピーズ、ジニュワインやブランディは、特に本作で重要なモチーフとなっている「食事」に名前がかかっているだけでなく、直接的に歌詞で歌われる「Back to the year 2000」のように、90年代後半から00年代はじめのR&B/ヒップホップ・アーティストへの彼の敬愛の証である。2024年現在、すでに懐かしさすら漂い始めている00年代R&Bスタイルが曲そのものにも貫かれており、本作はまさに歌詞で名指されるMusiqやジル・スコットといったフィリーソウルへの彼なりのオマージュといえる。

トボけた愛らしさのあるMVも史斯宇 SYAの魅力の一つ。2022年に発表された1曲で本EPのオープニングも飾る「泥4我ㄉ龜背BE MY MONSTERA」はモンステラという観葉植物と人間のラヴ・ストーリー(?)を描いている。コロナ禍で行動が制限される息苦しい生活の中では、人の心を癒してくれる植物との間に愛情が生まれてもおかしくないんじゃないかという発想から出発した楽曲だそうだ。もともと台湾は日常的に植物の栽培や園芸に親しむ文化が根付いている背景もあるにはあるけれど……MVのラストでモンステラの葬式をあげて泣く史斯宇 SYAを見ていると、その意図も分かるような、分からないような。妙なユーモラスさが好ましい。

本EPのタイトル《温室》は、史斯宇 SYAが本格的に楽曲を発表し始めたタイミングがコロナ禍到来と歩みを同じくしていることを連想させる。理不尽に閉じ込められていた温室で大事に温めていた自分の音楽に本作で一区切りをつけた史斯宇 SYA。自由な世界へ駆け出していくこの後の展開も見逃せない。(Yo Kurokawa)

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