Review

Soshi Takeda: Floating Mountains

2021 / 100% SILK
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我々をここではないどこかへ連れ去るディープ・ハウス

08 November 2021 | By Tetsuya Sakamoto

新鮮なサウンドを響かせるためには最先端のテクノロジーや演奏技術、流行の手法もたしかに必要なのかもしれないが、先人たちが残してきたサウンド、あるいは古いテクノロジーを参照/利用することでも、それを響かせることが可能だ──と、言葉にしてみると当たり前のように聞こえるかもしれないけれど、決して容易いことではない。過去の財産を着目することがいつのまにか目的にすり替わってしまい、自己満足に陥ってしまう危険性を孕んでいるからだ。だが、先日アマンダ・ブラウンとブリット・ブラウンが運営する《Not Not Fun》のサブ・レーベル=《100% SILK》からリリースされた、東京を拠点にするプロデューサーのSoshi Takedaの新たなEP『Floating Mountains』は、そんな手段の目的化など微塵も感じさせない作品に仕上がっている。そう、本作で彼は、過去に生み出された音楽の幾重もの組み合わせから鮮烈なハウス・サウンドを鳴らしているのだ。

本作は1990年代のシンセサイザーとサンプラーを用いて制作されたとのことだが、そのサウンドの軸となっているのは、冒頭のタイトル曲が象徴するように、都会の喧騒の中でも内省へと誘ってくれるような落ち着いたディープ・ハウス。思わずラリー・ハードのミスター・フィンガーズ名義での『Ammnesia』が脳裏をよぎるが、柔らかくも浮遊感のある繊細なシンセ・ラインはDJスプリンクルズのハウス・トラックと親和性があるように感じる。さらにいえば、丁寧な音作りが印象的だった、愛知県岡崎市在住のプロデューサーのind_frisの『Sink In』と共振しているようでもある。このように彼のシンセでの表現は実に見事で、「Hidden Wave」や「Quarry」の自然のやすらぎをそのままサウンドにしたシンセ・サウンドは吉村弘や尾島由郎のアンビエントをアップデートしたようにも感じられるし、煌びやかな音色が印象的な「Lantern Reflection」はバレアリック・ハウスの最新形といっても過言ではないだろう。また、「Water Reverberation」や「Deep Breath」で登場するマニュエル・ゲッチング風味のギターには驚かされるが、そのギターと柔らかなシンセがイーヴン・キックのビートに絡み合ったサウンドは、どこか遠い異国で密かに鳴らされている音楽のようにも聴こえる(そういえば、マニュエル・ゲッチングはアシュラ名義で『Tropical Heat』というトロピカル気分満載のアルバムを出しているけど、それと関係するのだろうか)。ある意味では、彼は自分のいる場所と音が鳴る場所の距離を曖昧にするようなサウンドを作っているのかもしれない、というのは筆者の思い過ごしだろうか。

それはさておいても、このように過去の音楽からのリファレンスを存分に感じさせつつも、決してノスタルジックな気分に陥らずに、新しい音楽の一つとして作品を提示するSoshi Takedaの才能には驚嘆せざるをえない。「ダンス・ノット・ダンス」を標榜するような《100% SILK》からのリリースというのも納得だ。

なお、彼は11月5日にリリースされる栃木在住のプロデューサー、Masanori Nozawaの新たなEP『Memoir EP』にもシンセで参加している。この『Memoir EP』と『Floating Mountains』を合わせて聴くことで、Soshi Takedaの洗練されたサウンドをより深く感じることができるように思う。(坂本哲哉)

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