アナログ界のカリスマ、ジャック・ホワイトが様々な活動を通して目指す先とは
フジロックの出演が決まり、コロナ禍にも関わらず2作のアルバムを作り上げるなど、2022年は何かと話題のジャック・ホワイト。その2022年リリースのソロ・アルバム1枚目となるのが『Fear Of The Dawn』だ。今年7月には2枚目の『Entering Heaven Alive』の発売も控えているが、彼がここ数年コロナ禍でただ大人しくしていた訳では無く、水面下で精力的に動いていたことは、彼の運営するレーベルかつレコードショップかつプレス工場でもある《Third Man Records》のSNSを見ていてもよく分かる。
彼のここ数年の活動を見てみると、2018年に地元であるデトロイトにアナログ・レコードのプレス工場を建設、元々治安の悪い地域として有名であったが、彼や彼の仲間が工場やレストランを作って現地に雇用を生み出し、今や観光地のようにすらなっているというのは驚きだ。また2021年には《Third Man Records》ロンドン店をオープンし、ヨーロッパ進出も果たしている。
そのようなアナログ・レコードへの並々ならぬ情熱のみならず、デビュー当時から彼のファッションや機材など全てに共通していることだが、彼の根底には常に”アナログ”への拘りが存在している。現在アメリカではCDの売上よりアナログ・レコードの売上が勝るなど、数年前からアナログ・ブームが起こっている訳だが、彼はそのようなブームよりもずっと前から、時代に逆行し、アナログを守ろうと闘ってきた偉大なミュージシャンだ。
そんなアナログ至上主義である彼だが、ソロ活動ではPro Toolsでの編集を導入し複雑な楽曲構成を実現するなど本人の中で実験的な作品を出してきた。今回4年ぶりの新作である『Fear Of The Dawn』は、これまでソロ活動で出した3作品を踏まえ、よりキレが増されたロックンロール色の強いアルバムであることは、1曲目の「Taking Me Back」を聴いた瞬間に分かるだろう。まずとにかくリフがカッコ良い。彼の音楽で何回同じ感想を抱いたのだろうと思うのだが、やはり彼の作るリフにはマジックがあるのだ。流れるように更なる重厚なリフで始まる2曲目「Fear Of The Dawn」に入っていき、続く3曲目「The White Raven」まで、ハードなギターサウンドに加え奇抜なエフェクト使いが楽曲に彩りを加えているので、気づいたらここまで一瞬で時間が過ぎ去っていく。
4曲目にはア・トライブ・コールド・クエストのQティップが参加した「Hi-De-Ho」。近年、ジャックはドラマーにDaru Jonesを起用するなどHIP HOPで活躍するアーティストと手を組んで来た訳だが、ついに大物ラッパー登場ということである。そんな楽曲は歌詞や曲名からも分かるとおりキャブ・キャロウェイから影響を受けた曲で、スキャットをQティップと共に現代風に構築し直したアイデアマンの彼ららしい1曲だ。
そして、このアルバムで最も異彩を放つのが6曲目「Into The Twilight」。楽曲の1分くらいでおそらくギターにボーカロイド風のエフェクトをかけているのだと思うのだが、それ以外にも多種多様なデジタル・エフェクトを施したギターサウンドが繰り出され、彼の奇抜なアイデアが光る1曲だ。他にもキーボードソロが秀逸な「MORNING, NOON AND NIGHT 」、これまたリフが特徴的でライヴでは既に人気の曲「WHAT’S THE TRICK? 」など、これまでのソロ・アルバムの中でも特にジャックらしさが表れた楽曲群で、今作が今年最もヘビーなアルバムの1枚になることは間違いないだろう。
アナログ至上主義である彼はソロ活動を通して、その豊かな感性で”デジタル”を乗りこなしてきた。それと同じことは実は身近にも起きているのかもしれない。今若い世代がサブスクとアナログ・レコードを両立させて音楽を楽しむように、両者は共存できるということを、彼の作品や活動からも感じ取ることが出来る。そしてもちろん今作はアナログ・レコードでもリリースされており、CDやサブスクとどちらが良いとかではなく、出来れば両方手に入れて楽しんでもらいたい。それがアナログ文化を楽しむ第一歩とならんことを。(水口卓哉)