偶然な出会いを求めたエクスネ・ケディの物語
ゆらゆら帝国やOGRE YOU ASSHOLEのプロデュース・ワークでも知られ、先日数十年ぶりのソロ・作品を発表した石原洋プロデュースのもとで作り上げられた作品。前作でのフォーク・テイストから跳躍し、サイケデリックで享楽的なサウンドと、ユーモアとナンセンスが入り混じったリリックに軽やかな遊び心をも感じるアルバムとなった。
コンガと絡み合うファルセット・ボーカルが特徴的な「イエデン」。がなるようなボーカル・スタイルに虚をつかれる「ポルターガイスト」。グラム・ロックの風合いを漂わせたサウンドの「ささやき女将」。軽薄さ漂うスカ・ビートとハード・ギターが並走する「ぼくの灯台」。作品全体を通じて音色は一様ではなく、ゲストに迎えたmmmやmei eharaの歌と井手健介自身の変化と緩急をつけた歌が入れ替わり立ち代わりに登場していく中で生まれ出る混沌としたポップネスに、体も心も意図せず躍る。
本作を聴いて連想したのは鈴木慶一が曽我部恵一との共同制作のもと、ヘイト船長という人物を主人公として作り上げたソロ三部作(2000年代後半〜2010年代にかけてリリース)。架空のラジオcmやスポークン・ワードも交えた多彩な楽曲群、多くのゲスト・ミュージシャンの参加、過去曲のリメイクなどといったアイデアの群体が縦横無尽に三つの作品全体を駆け回っていく。その様はまさに、本作のいい意味で節操のないサウンド・プロダクションと、エクスネ・ケディと名付けられた人物(地球に不時着した異星人という設定らしい……)の断片的な(映像)記録集というコンセプトと結び付く。
「土の中から偶然発見された未開のソロ・アルバム・テープ」という設定の奇書的作品を残しヘイト船長の航海録は幕を閉じていった。それが示すのは、そこに収められた音楽と未来に出会うであろう誰か、うず高く積まれた過去の音楽の山の中から偶然に自らを引き出してくれる誰かを意識してその音楽が作られているということ。現前していない存在との接触(=「コンタクト」)を背景とした本作もまた、偶然的な出会いそれ自体への憧憬と期待に裏付けされた作品だといえるだろう。自らが飄々と鳴らす音楽を信じ、見知らぬ誰かの耳に届いた音の姿を想像しながら、エクスネ・ケディの物語は今日も続いていく。(尾野泰幸)
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石原洋『formula』
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