Review

Lao: Chapultepec

2024 / NAAFI
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メキシコのアンダーグラウンドを代表するコレクティヴ“N.A.A.F.I”の顔役の1人による待望のフルレングス

28 March 2024 | By tt

2010年にメキシコ国内外で過小評価されているサウンドを紹介するクラブ・ナイトとして誕生したメキシコを拠点に活動しているN.A.A.F.I。エレクトロニック・ダンス・ミュージックとクンビアやローカルなメキシコ音楽のリズムをミックスしたTribal guaracheroなど自国の音楽に再びスポットを当てる一方で、マイアミのNick Leónを始めとする南米やアメリカ、ヨーロッパのDJやアーティストとのコネクションを拡張するなど、メキシコのローカルと各国のアンダーグラウンドを繋ぐ今最もエキサイティングなコレクティヴの1つと言えるだろう。「メキシコ人は自分たちの政治状況や、何世紀にも渡って植民地主義に抵抗しながら外部の影響を吸収してきたことを本当によく理解している」とは、N.A.A.F.Iの初期からのメンバーであるTomas Davoの言葉だが、それはそのままこのコレクティヴの根底にあるだろうアティチュードとリンクしているように思える。

その共同設立者であり中心メンバーの1人が、メキシコ出身のプロデューサー、Laoであり、本作『Chapultepec』は待望のフル・アルバムとなる。

同じくメキシコのプロデューサー、Omaarの2021年作『Drum Temple』を思わせるアフロ・パーカッション、或いはN.A.A.F.Iが広めるのに一役買ったであろうメキシコのローカル・ミュージックとエレクトロニック・ダンス・ミュージック、クンビアをミックスしたTrivalを思わせるビートを使ったトラックからは、このLaoの、ひいてはこのコレクティヴの今までの軌跡を垣間見ることができる。しかし一方でLaoが最も影響を受けたアーティストの1人だというリチャード・D・ジェームスが作り出す荒涼としたエレクトロニック・ミュージックの面影があり、DEMBOWやデジタル・クンビアといった同じカリブ海諸国のリズムすらも取り込んでいる。今日においては最早珍しいことではないのかもしれないが、N.A.A.F.Iにとってもまた、国内外の様々な要素を取り入れてミックスしていく、(今となっては手垢のついたワードな感も否めないが)所謂ジャンル・クロスオーバーは1つの前提であるのだろう。その意味では、Laoのパーソナルをフィーチャーしつつも、N.A.A.F.Iというコレクティヴの1つの集大成的な印象も本作からは受ける。

タイトルにもなっている“チャプルテペック”(ユト=アステカの言語、ナワトル語で「バッタの丘」の意味)は、植民地時代から独立以降に至るまで、かつては政治の重要な拠点や戦場として、近年では経済発展の進むメキシコ・シティに悠然と佇む貴重な環境資源として、時代によって様々に変遷を遂げていった600年以上の歴史を持つ西半球最大の都市公園である。その広大な歴史にLaoはインスパイアされて本作を制作している。例えば近代と雄大な自然との共生という視点は、鳥の囁きとポリリズミックなビートと電子音が溶け合う「Virreyes」のようなトラックに最も顕著にあらわれていると言えるかもしれない。ただ、重厚なコンセプトを持った作品だとは思うが、同時にヴォーカル・サンプルやデジタル・フルート、不協和音なシンセ、何よりも多彩なリズムが飛び交う様々な仕掛けと工夫が凝らされた、聴くものを楽しませる優れたダンス・ミュージックでもあり、そのバランスが本作の魅力でもあるのだろう。

N.A.A.F.Iの拠点もチャプルテペックの片隅に位置しており、Laoにとっても身近な存在であり、同公園と共生している1人と言えるだろう。本作の制作にあたり、チャプルテペックとN.A.A.F.Iを、例えば植民地として、或いはその抵抗の歴史から重ね合わせた部分もあるのかもしれないし、刻々と変化しながら、これからも歴史を刻み続けるだろうその姿から、傍らで時代をともに歩み続けるN.A.A.F.Iの未来に思いを巡らせていたのかもしれない。いずれにしても本作は、どこか集大成的でありながら、これからもあらゆる大陸を横断しながら拡張していくに違いないコレクティヴの、過去と未来を繋ぐ2024年のマスターピースだ。(tt)



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