台湾のインディー・ポップ・バンド、老王のプロデュースで進化したサウンド
2021年第12回金音創作奬(台湾のインディー音楽アワード)の最佳新人獎にもノミネートされたインディー・ポップ・バンド緩緩から届いた最新EP『Blue Room Orange Man』。そのノミネートに輝いた2020年リリースのデビュー・アルバム『Water Can Go Anywhere』では、それまでに発表されていたシングル2作品におけるポストロック、シューゲイザー風の世界観も踏まえながら、よりフォーキーな温かみのあるサウンドへの転向を強く感じさせていた。今回の最新作はその延長線上にありつつも、わずかに陰りのある大人びたポップ・サウンドでその進化を聴かせてくれる。
緩緩はヴォーカル・ギター、そして作詞・作曲も担う蕭戎雯(Coco Hsiao)をリーダーに、2020年デビュー・アルバム時はベースの黃柏豪とドラムの彭一珍のスリーピース・バンドだったが、今回のEPではギターとシンセサイザーを担当する張天偉が加わり、ふくよかな音像の実現に貢献している。更にこのサウンドの進化には、プロデューサー老王(王昱辰、Yuchain Wang)の存在も欠かせないだろう。今や世界で活躍する落日飛車や台湾ヒップホップ界を牽引するLeo王、日本でも人気のインディー・ロック・バンドThe Fur.など、数々のプロデュースを務める彼女は台湾インディー・シーン最重要人物の一人。ネオアコ風のリード曲「Greedy Little Love Song」、シンセ・ベースが初めて取り入れられた2曲目「Lights Up」のどこかエキゾチックなトリップ感、クラシック・ギターが誘う郷愁とドラマチックなピアノがラストを盛り上げる3曲目「Blue Night」と、今回のEP全体を支配する少しダークなムードとクラシカルなサウンド演出は彼女の影響だろうか。Cocoの透き通るような歌声を何層にも重ねたコーラスも効果的に用いられており、曲に立体感を与えている。
まるでイタリアの工芸品マーブル紙のように美しい混沌を湛えている印象的なジャケットビジュアルと共にタイトルにもなっている『Blue Room Orange Man』について、Cocoは「青とオレンジの色は、暖かいトーンと冷たいトーンのコントラストを意図しています」と語る。人生における憂鬱と幸福の私的コントラスト。コロナ禍で閉ざされた都市、行動が制限される中で一人過ごす静かな部屋と、誰かとの触れ合いを切望して落ち着かない心のコントラスト。そんな様々な対照的アイデアがベースとなって今回の制作が進んだのだという。実はこのジャケット、絵を描くことが好きなCocoとバンド・メンバー、マネージャーらの手によるものらしい。深く暗い青色とも共存しながら画面を支配する明るいオレンジ色の力強さに他でもない彼ら自身が励まされたのだろう。コロナ禍というほんの少しの陰りをにじませつつも、緩緩というバンド名の通りゆったりとリラックスした癒しを感じられる作品に仕上がっている。(Yo Kurokawa)