電化した川べりを辿るフリーフォームな運動
既存のエレクトロニカのフォーマットを起点に、オーガニックな要素を縦横無尽に結合させてきたビートメイカー、フォテー。キャリア初期のアルバムである『Photay』(2014年)や、『Onism』(2017年)では、サブベースとウワネタの使い方でビート・ミュージックのマナーを守りつつも、節々で挿入されるクラップや鳥の鳴き声から、ほのかに有機的な魅力を感じた。実際、彼はティーンの頃に経験した西アフリカへの旅をリファレンスに挙げており、その後もフィールド・レコーディングの実践などを通して、DAWソフトの中に止まらないサウンドメイクを成し遂げてきた。
そして2020年の『Walking Hours』では、西海岸のレフトフィールドなジャズ・シーンを牽引するプロデューサーのカルロス・ニーニョと共演。兼ねてから偶発的な演奏体験に重きを置いていた彼の志向は、先述の通りフィールド・レコーディングへの接近を図っていたフォテーのサウンドと美麗に合流し、よりその身体性を増長させた。その共演の延長線上で、ランダル・フィッシャーやネイト・マーセローといった西海岸のミュージシャンを招きながらダブネームで発表されたのが本作なのである。
冒頭の「P R E L U D E」でまず耳に残るのは水流の音。シンセサイザーの不穏な音色とサックスのフレーズが、上方から下方に向かう水の運動のイメージによって、楽器の持つ音色にも明確な流れが付与されていることが実感されるだろう。続く「C U R R E N T」ではサックスのリフレインからミカエラ・デイヴィスのハープが合流し、後半からはシンセサイザーによって堰を切ったかのように音の厚みが増す構成が展開される。ここで特筆したいのは、冒頭で使用されていた実際の水流の音とは異なり、「潮流」と名されたこの楽曲ではシンセサイザーとハープの音色が水流を喚起させる役割として使用されているということだ。この身体的なテクノロジーの用い方、自然への帰属を聴き手に促しながらもビート・ミュージックの快楽性に依拠した感覚こそ、このプロジェクトでしか成し得ない境地であると言えよう。啓示的なポエトリー・リーディングで幕を閉じるラストナンバー「E X I S T E N C E」に至るまで、電化した川べりを辿るようにフリーフォームな運動は続けられる。
また『An Offering』に対し『More Offerings』と題された、今回《rings》からCDリリースされる2枚組のスペシャル・エディションの2枚目では、より両者のエッセンスが強調された楽曲が並ぶ。ニューエイジ〜アンビエントとポエトリー・リーディングという構成だったラストナンバーが、カットアップによって生成されたビートの挿入によってその表情を一変させる「E X I S T E N C E (Photay’s Infinite Mix)」。またトリオ編成のジャムによって展開される「F L O A T I N G T R I O P A R T 3 (Photay Carlos Niño and Randal Fisher)」では、最後のオーディエンスの完成によってそれがライヴ・レコーディングによるものであったと明けられる。スタジオでのレコーディングとライヴの偶発性を再考するのは、マカヤ・マクレイブンや岡田拓郎の最新作でもテーマに挙げられているものの一つでもあり、即興演奏の中で巻き起こる自然の偶発性をテクノロジーとの連関の中で捉え直す本作もまたそのトレンドと並走していることを、この楽曲は如実に示している。絶え間ない水流の中に身を潜めながら、多面的な鑑賞に対して開かれている一作だ。(風間一慶)
【リリース情報】
https://www.ringstokyo.com/items/Photay-with-Carlos-Niño
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