「You Are My Sunshine」
90年の歴史
あなたは「You Are My Sunshine」と歌っている楽曲を何かご存じだろうか。“あなたは私の太陽”と誰かの事を歌う楽曲は、現在ラヴ・ソング(失恋も含む)において一つの形式となっている。特段目新しさもなくこの歌詞に注目が集まる事もない。ラヴ・ソングの雰囲気を感じさせるワードではあるが、“ありがち”と一蹴されると確かにそうだろう。しかし、“ありがち”であるという事は、パターン化されているという事だ。パターン化されているということは、そこに歴史があるという事でもある。私がこの歌詞に注目したのは、PawPaw Rod「Shining Star」(2022年)を聞いた時だ。“You Are My Shining Star”と冒頭から歌い始めるこの楽曲は、ノスタルジックな加工が施されていることから、このフレーズを使った楽曲って他にどんな曲があるだろうかと何気なく探し始めたのがきっかけだ。ひとたび調査を始めると一つ一つは近視眼的/個人的な視点から作られた楽曲だったとしても、どこか繋がりを感じさせポップ・ミュージック史として浮かび上がってくるようだった。そして、この視点から楽曲を捉え直した時、歴史的な文脈が加味されることで、楽曲に新たな魅力や繋がりが発見できた。
「You Are My Sunshine」と歌っている楽曲(以下頭文字をとって「YAMS楽曲」とする)がどれくらいあるのかハッキリした数はお答えできないが、一定の規模感は示すことが可能だ。Lyrics.comという歌詞検索サイト内で“Sunshine”と検索するとヒットする楽曲は3万8531曲に上る。ここの数字には、再発された商品やYAMS楽曲とは言えない楽曲まで含まれているが、日本語で“あなたは私の太陽”と歌っている楽曲など他言語の楽曲は含まれておらず、そう考えるとYAMS楽曲は10万曲ぐらい数えるかもしれない。
YAMS楽曲を調べる過程において、こうした楽曲を体系的にまとめた論考は見つからなかった上に、こうした楽曲は言語やジャンルといったよく使われてきた分類に関係なく作られていることが分かった。そこで何か1つ視点が必要だろうと考え、本稿では、私がこつこつと楽曲を聴きリストアップしたYAMS楽曲約300曲のデータを元に、R&B/ソウルにおけるYAMS楽曲の歴史を紐解いていくこととした。名曲としてディスクガイドなどでよく紹介される楽曲も多いが、ここではその曲のYAMS楽曲としての側面にフォーカスしている。そうした歴史を踏まえた上で、最終的にはR&B/ソウルにおけるYAMS楽曲最高到達点としてダニエル・シーザー「Best Part (feat. H.E.R.)」を分析していく。(杉山慧)
第一章 You Are My Sunshineとレイ・チャールズ
第二章 You Are My Sunshineとモータウン
第三章 You Are My Sunshineとディスコ
第四章 You Are My Sunshineとヒップホップ
第五章 You Are My SunshineとR&B
第六章 You Are My Sunshineとゴスペル
第七章 ダニエル・シーザー「Best Part (feat.H.E.R.)」とその後
まとめ
Text By Kei Sugiyama