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《The Notable Artist of 2023》
#3

Leven Kali


ビヨンセ『Renaissance』でグラミー賞にノミネート!
甘い歌声を持つ注目のソングライター

2022年を代表する作品として多くの人が言及したビヨンセ『Renaissance』。ここにソングライター/プロデューサーとして4曲に参加、そのうちグラミー賞の最優秀R&Bパフォーマンス賞に「Virgo’s Groove」が、最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス賞に「Plastic Off The Sofa」がそれぞれノミネートされるなど、その手腕に注目が集まっているミュージシャン/プロデューサー、レヴィン・カリが本稿の主人公である。このカリフォルニア州サンタモニカ出身の彼の楽曲に見られるグルーヴィーでファンキーなサウンドは彼の特徴の一つだが、それは父親譲りとも言えるだろう。なぜならアトランタのファンク・バンド、マザーズ・ファイネストのベーシスト、Jerry “Wyzard” Seayを父に持つからだ。

これまで彼はRed Velvet「Rookie」(2017年)やNCT U「The 7th Sense」(2016年)にコンポーザーとして参加、またドレイク「Do Not Disturb」(2017年)ではスノー・アレグラへの提供曲「Time」(2017年)がサンプリングされるなど注目を集めてきた。また自作としては2枚のアルバムに加え、昨年リリースの「Eek」を含むEP『Let It Rain』が話題を集めている。

このEPを聴いて改めて意識させられたのは、彼の歌声だ。「TEARS OF JOY」は、冒頭やヴァース部分はミゲル「Adorn」を思わせ、サビの入り付近の綺麗な歌声はブルーノ・マーズのようであり、2番のサビ部分で歌詞「eyes」の声が裏返る様はアンダーソン・パークまで想起させる。自分の声色のツボを心得ているかのように心地よいメロディーラインが紡がれていく。特にこの楽曲のサビは、シルク・ソニック「Leave The Door Open」にも通じるスウィートな多幸感を持っている。その他の「Let It Rain」、「Everything I Want」(インタールードも含む)、そして「Eek」と、どこか寂しい質感を残しつつもファンキーな楽曲な部分には、チャイルディッシュ・ガンビーノ『Summer Pack』(2018年)を思わせる所もある。そう思わせるのも、シンセサイザーの音色だけでなく、例えば「Eek」のラスト1分30秒程のコーラスを徐々に重ねていき、だんだんとヒートアップしていく所などがそうさせるのだろう。

彼がポピュラリティを獲得する上で転機となったのが、プロデュースを手がけたジャズミン・サリヴァン「Tragic」(2021年)だろう。彼の代表曲の一つである「Do U Wrong (feat. Syd)」(2019年)などでも見られていた曲調ではあるが、サビ部分などよりドラマチックな盛り上がりが強調されている。ビヨンセやジャズミン・サリヴァンといった圧倒的歌唱力を武器にした大物との仕事が、ソロの楽曲を作る時にも自身の声の魅力を再認識させたのだろう、EP『Let It Rain』を聴いているとそうした影響が良い方向にフィードバックされているように感じる。「Do U Wrong(feat Syd)」や「Made For U(feat.Syd)」(2020年)など初期の代表曲をはじめ、彼はケニー・ギャンブルとレオン・ハフのコンビやベイビーフェイスなどをお手本とするスウィートなR&Bを得意としてきた。少し気が早いかも知れないが、こうした名ソングライターと肩を並べる日がやってくる日も近いのではないだろうか。そして、コンポーザーとしてだけでなく、レヴィン・カリ名義でグラミー賞にノミネートされる日もそう遠くないかもしれない。最新EPにはそうした可能性を感じさせる楽曲が詰まっている。(杉山慧)

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Text By The Notable Artist of 2023Kei Sugiyama


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