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《The Notable Artist of 2022》
#7

Fred Again..


世界的な大物からのオファーが止まない
英国のプロデューサーが表舞台に立つまで

昨年6月30日に10年近くにわたって聴き続けてきたBBCのラジオ番組が終了した。現地時間で毎週金曜日18時から20時までの放送で、週末の解放感に満ちた最新のダンス・トラックを旬のDJたちのミニ・ミックスを交えながら届けてくれた。その番組を土曜日か日曜日に聴くのが習慣になっていたのだが、様々なダンス・ミュージックの魅力に出会う機会が失われてしまったことは自分にとって大きな損失になったと言っていい。後継の番組も同じコンセプトなのだが、どこか違う。これはいいけど、こっちはうーん、といった具合が続き、いつしか聴くこともやめてしまった。

長きにわたって聴き続けてきたのは、番組のプレゼンターと自分の好みの音の波長がピッタリと合っていたということであり、彼女が番組が終わる1、2年前にアイルランドのクリスタル・クリアーと共に推していたのが、ロンドン出身のフレッド・アゲインだ。ブライアン・イーノにスタジオ・ワークを学び、彼を師と仰いでいる彼のキャリアは2013年にスタートした。イーノとアンダーワールドのカール・ハイドによるコラボレーション・アルバム『Eno – Hyde』の3枚のプロデュースと演奏に参加したことを皮切りに、エリー・ゴールディングやジョージ・エズラ、リタ・オラ、BTS、エド・シーラン、カリード、ストームジーといったトップ・アーティストを次々と手がけるようになる。今現在、英国を代表するプロデューサーのひとりと断言できるのだが、19年まで彼は自身の作品をリリースしてこなかった。イーノに後押しされて自分の音楽を作るようになったそうだが、ヒットを前提にしたプロデュース・ワークとの違いは繊細で内省的という点に尽きる。それでいてダンス・ミュージックのカタルシスを損ねていないところが彼自身の音楽の特徴なのだが、そこに寂寥感やセンチメンタルなフィーリングをにじませているのが自分にとっての最大の魅力であり、彼との波長がぴったりと合っている点でもある。

20年4月に北ロンドン出身のラッパー、ヘディー・ワンとの共作アルバム『Gang』はUKドリル、R&B、ゴスペルなどの要素を織り交ぜながらも、やはりフレッドらしいサウンド・タッチでまとめらている。FKAツイッグス、ジェイミーxx、サンファが参加しているのも、フレッドの人脈に拠るところだろう。さらに同年5月にはカナダのDJ/プロデューサー、ジェイダ・Gの「Both Of Us」も手がけている。ジェイダのフロアライクなアプローチと、フレッドのメランコリックなムードが絶妙なバランスで成立したトラックで、自分にとっての2020年におけるベスト・チューンとなった。

また、同年のロックダウン中には、まるで日記のような『Actual Life』と名付けた音源集を3作発表。21年11月まで続いたこのシリーズは美しくも切なく、喜びもあれば悲しみもあるサウンドで埋め尽くされている。ブレスド・マドンナやバクスター・デューリー、コダック・ブラックたちがフィーチャーされているが、彼がプロデュースするような大物は顔を見せていない。この起用した顔ぶれからも彼のスタンスが見て取れるように思う。

今年に入るとFKAツイッグスのミックス・テープ『CAPRISONGS』収録の「jealousy(feat rema)」をプロデュース。エレガントなアフロビーツに仕立て上げているところも、フレッドらしい手腕が光っている。さらに、1月20日にはフレッドがソロ・デビュー・シングルを手がけたThe xxのロミ、ミュートに所属するオーストラリアのDJ/プロデューサーのHAAiと連名による「Lights Out」をリリース。新型コロナウイルスとの共生を決め、ノーマル・ライフに戻ろうとする英国で必要とされるのは享楽的に踊れるダンス・トラックであり、「Lights Out」もそのニーズに大いに応えることだろう。プロデュースも行いつつ、自らの音楽に軸足を移しつつあるフレッド。自分との波長が合う限り、彼との付き合いは長く続いていきそうだ。(油納将志)

Text By The Notable Artist of 2022Masashi Yuno


【The Notable Artist of 2022】


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