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【未来は懐かしい】
Vol.43
アフロ・ポップ全盛時代に聴く、モダン・ハイライフとUKダンス・ミュージックの融合

16 October 2023 | By Yuji Shibasaki

アフロ・ポップ系のリイシュー/発掘リリースの流れは、この10年ほどで大きく変化してきた。およそ2000年代末頃までは、旧来のレア・グルーヴ的な視点によって「再発見」された、1970年代産楽曲のリイシュー/発掘が大勢を占めていたが、2010年代に入ると、そういった「ヴィンテージ」な音源に限られない多様な作品に注目が集まっていった。代表的なレーベルは、ロスアンゼルス拠点の《Awesome Tapes From Africa》だろう。同レーベルは、2011年の発足以来、1980年代〜1990年代にかけてアフリカ各地で制作されたポップ・ミュージックを積極的に紹介していった。シンセサイザーやリズムマシンなどを大幅に導入し、時の欧米産ポップスとローカルな要素が融合した「グローカル」な実践が、次々と国外リスナーの耳に触れることになったのだ。旧来のスクエアな「ワールド・ミュージック」指向やレア・グルーヴ指向からこぼれおちてきた様々な音楽の存在が、徐々に知られるようになっていった。

こうした流れは、既存のアフロ・ポップ系リイシューの名門レーベルへもすくなからず波及していった。2002年発足のイギリスの《Soundway》もそうした例のひとつだ。同レーベルは、2010年代後半から徐々にそのリイシューワークの軸足を1980年代以降のエレクトロニック・ポップへと移してきたのに加え、そうした仕事と関連しながら、新譜作品のリリースにもより一層積極的に取り組むようになった。

今回紹介するレックス・オマーのセルフ・タイトルEP『Rex Omar』も、《Soundway》の新路線をわかりやすく示す1枚といえるだろう。レックス・オマーは、1980年代末からキャリアをスタートさせたガーナのモダン・ハイライフ・ミュージシャンで、現在にわたって国民的な認知度を誇るスター歌手だ。西アフリカに根付くハイライフの伝統を受け継ぎつつ、同時代的なビート〜サウンドを取り入れた楽曲を送り出し、高い人気を得てきた。1992年、ナコレックスというトリオを始動し成功を収めると、その後はソロ歌手として活動を開始し、数多くのヒット曲を発表していった。出世作となったのが、1998年発表のアルバム『Dangerous』だった。1997年にオマーのセルフ・プロデュースによってロンドンで録音された同作は、リリースとともに母国で絶大な支持を受け、30万枚以上を売り上げる大ヒット作となった。本EPは、主にその『Dangerous』から数曲をピックアップし(B-2「Kele Ngele」のみ2004年作『AJALA』に収められていたもの)、ロンドン拠点のプロデューサー、アループ・ロイによるリワークを加えたものだ。

ハイライフは、20世紀初頭の西アフリカ沿岸地域で現地音楽と西洋音楽が混交したことで生まれたもので、時代が進むに連れて、ギターバンド・ハイライフ、ダンスバンド・ハイライフなど、さらなる発展を重ねていった。1980年代には、経済的苦境からドイツに渡ったガーナ人のコミュニティで、R&Bやレゲエを取り入れたボガ・ハイライフと呼ばれる音楽が興った。またガーナ国内でも、1990年代からヒップホップと融合したヒップ・ハイライフが興隆した。かように、今日におけるハイライフは、折々のポップ・ミュージックと混じり合いながら、発展してきたのだ。

本作『Rex Omar』も、そうした視点からごく興味深い内容だといえる。上述した通り、1997年ロンドン録音のトラックがほとんどを占める本作だが、やはりそのサウンドも当時の英クラブシーンの動向と無関係でないように感じられる。ジャマイカの名プロデューサーであるビル・キャンベルと、近年ではイビビオ・サウンド・マシーン等の活動でも知られるガーナ人ギタリスト、カリ・バナーマンが制作協力に名を連ねるそのサウンドは、単なる伝統的なハイライフのポップ化と評するだけでは足りない、すぐれて現場指向的で、(1990年代後半における)同時代的なものだ。UKのダンス・ミュージック史に通じたリスナーなら、そのビートに、グラウンド・ビートからUKガラージへと至るロンドン・クラブシーン、UKストリート・ソウル文化との関連をたやすく嗅ぎ取ることだろう。

よく知られるように、これまでイギリスのクラブミュージック・シーンでは、多様な音楽要素の混交が常に展開してきた。そこでは、いわゆる「ウィンドラッシュ世代」が持ち込んだカリプソやスカ〜レゲエ等のカリブ諸島の音楽はもちろん、アフリカ各地からの影響も甚大だった。特に、1950年代までイギリスの植民地支配を受けていたガーナやナイジェリアの音楽文化は、移民(二世、三世を含む)達による横断的な活動によって、近年より一層重要度を増してきている(アフロビーツ〜アフロスウィング系音楽の興隆はその代表的な例だろう)。

本EPのサウンドにも、そうした背景が色濃く反映されている。ハイライフのリズム/ハーモニーと、レゲエ等カリブ海音楽の融合。ハウスのローカライズとその爆発以降試みられてきた、ダンス・ミュージックの重層的発展。グローバル規模の人的移動と流行(情報)の伝播が各地のローカリティと結びつきながら固有の実践を導き出すという、今現在世界のメインストリームを巻き込みながら様々なシーンで大きな潮流となっているそうしたダイナミズムが、このEP収録の各トラックには先駆的な形で脈打っているのだ。

同様の視点から、上述したアループ・ロイによる「DADA」のリワークも改めて含蓄に富んだものだと感じる。メイン・トラックをややトレブリーな音質に設定し、その上から電子音を加え、大胆なエディットを加えている。いかにもフロア映えのするその仕上がりは、今から四半世紀ほど前に行われたオマーの実践を、現在のクラブシーンへと再び召喚しようとする気概を感じさせる。

多様な文化が相互的に影響を与えながら、新たなカルチャーとして昇華されていく様を、モダン・ハイライフの新鋭が巧みキャプチャーした記録。ここに記録された試みは、現代のポストコロニアルな文化地図を刷新しつつあるアフロポップの隆盛を経て、より一層輝かしさを増している。(柴崎祐二)

Text By Yuji Shibasaki


Rex Omar

『Rex Omar』


2023年 / Soundway


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柴崎祐二 リイシュー連載【未来は懐かしい】


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