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【未来は懐かしい】Vol.23
米《Light In The Attic》の名シリーズ最新作が登場
AOR、ファンク、ディスコに接近するカントリー・ミュージックのふてぶてしい魅力

15 September 2021 | By Yuji Shibasaki

米シアトルのレーベル《Light In The Attic》による名シリーズ、“Country Funk”の第3弾が登場した。同シリーズは、その名の通りカントリー・ミュージックの広大なカタログの中に潜むファンキーでソウルフルな曲を集めたもの。日本のファンが抱きがちな「素朴でコンサバティブな音楽」という一面的なカントリー像を解きほぐしてくれる……というよりもむしろ、カントリー音楽が元来備えている貪欲な雑食性を鮮やかに浮かび上がらせる優れたシリーズだ。2012年に第1弾、2014年に第2弾がリリースされているが、主流カントリー界の大御所やアウトロー・カントリー系のアーティストによる野放図なファンキー曲、スワンプ・ロックやサザン・ロックにまたがるニッチなアーティストの隠れた秀曲など、どちらも絶妙なバランス感に貫かれた選曲となっていた。

同様のコンセプトを掲げた先行のコンピレーション・アルバムに、2003年と翌2004年にUKの《Casual Records》からリリースされた“Country Got Soul”という名シリーズがあるが、“Country Funk”は、それらを受け継ぎつつも、よりマニアックな視点によって編まれてきた印象だ。前2作のカヴァー・アートは、現行インディーロック・シーンとも関わりの深いイラストレーター、ジェス・ロッターが担当しており、ただの回顧的なコンピレーションでないことも伝えていた。これらに収められた音楽を聞けば、カントリーとソウル・ミュージック(的なるもの)のブレンドが、例えば、あのホイットニーなどにも強い影響を与えていることに気づくだろう。

今作『Country Funk Vol.3 1975-1982』は、前作から約7年ぶりの続編となる(今回のジャケットは、ロバート・アルトマン監督の名作映画『ナッシュヴィル』(1975年)での仕事でも知られるベテラン・イラストレーター、J・ウィリアム・マイヤーズが手掛けている)。タイトル通り、これまでの2枚が対象としてきた時代のさらに後、70年代後半から80年代前半に残された楽曲を集めている。ロックが徐々に軟化(商業化)し、現在AORあるいはヨット・ロックと呼ばれる音楽が勃興し全盛を極めた時期であり、ソウル・ミュージックのメインストリームがディスコ・サウンドに覆われていく時期でもある。機を見るに敏な(というか、ミーハーな)一部のカントリー・ミュージシャンも当然こうした動きと連動し、土臭さと洗練、朴訥ときらびやかさが接合した雑食的なトラックを大量に送り出すことになった。 いくつかの曲をピックアップして紹介しよう。オープナーを飾るのは、スティーヴン・ソールズの「Shake The Dust」(1980年)。ソールズは、ボブ・ディランの「ローリング・サンダー・レビュー」に帯同したことでも知られるフォーク・ロック系のシンガー・ソングライターで、ルーツ志向の実直な作風が持ち味だが、ここではかなり本格的なファンクに挑戦している。粘っこいベースと抑制的なドラムが実に渋い。

続くJ.J.ケイルは、ベテラン・ロック・ファンにはおなじみの名前だろう。初期からリズム・ボックスを交えたミニマルなスワンプ・ロックを披露していたり、全キャリアを通じて現在的視点からの再評価が可能な人だが(トリプルファイヤーの鳥居真道もかねてよりフェイヴァリットに挙げている)、82年リリースの傑作アルバム『Grasshopper』に収録されているこの「Nobody But You」は、ひときわファンキーな魅力に溢れている。シャカシャカしたハットとステディーなキックに自身のボソボソ声が乗り、それを控えめなギター・ソロが追走する。

カントリー界随一の伊達男、エディ・ラビットによる「One And Only One」(1979年)も面白い。実に軽やかなメロウ・フローターで、どこを切ってもほとんどAORのサウンド。ラビットの歌唱も、平素にましてソフトな印象だ。

AORへの接近ということでいえば、以前よりライトメロウ系のマニアからも評価の高いシンガー・ソングライター、ロブ・ガルブレイスの名も忘れてはならない。名作とされる1976年のアルバム『Throw Me A Bone』収録曲ではなく、前年のシングル「I Got The Fever」を選んでいるのがにくい。ブルージーな高速ファンクといった印象で、彼の多様な音楽性が垣間見える。

カントリーらしい泥臭さということでいえば、ラリー・ジョン・ウィルソンの「I Betcha Heaven’s On A Dirt Road」(1977年)も聴きものだ。アコースティック・ギターの小気味よいストロークとまろやかなエレピ、キレの良いホーンセクションをずっしりと支配するバーボン臭い低音ヴォイス。むせ返るような田舎紳士サウンドだ。

ところで、この時代の大きな流行の一つとして、各種ポピュラー音楽へ積極的にシンセサイザーが導入されていったことが挙げられる。オブスキュアな男女デュオ、ゲイリー&サンディーによる「Gonna Let You Have It」(1977年)は、ドラム、ベース、ギターのファンキーな演奏もさることながら、ムーグ・シンセサイザーのオブリがなによりも特徴的。ブリブリとした電子音の唸りが、キッチュで猥雑な味わいを演出する。

コアなファンにとって本作の一番のセールス・ポイントになるであろう曲が、スワンプ・ロックの王者、トニー・ジョー・ホワイトによる未発表曲「Alone At Last」(1982年録音)だ。キャリア初期からソウルやファンクを取り入れ、70年代後半からは徐々にメロウな路線に接近していった彼だが、このふわふわとした軟弱なディスコ・チューンは、(その低音ヴォイスもあって)偶然にもあのバリー・ホワイトを彷彿させる。まさに珍品。

デルバート・マクリントンの「Shot From The Saddle」のブルージーな味わいも格別だ。ボニー・レイットが“ロードハウス・キング”と称しただけあり、黒人音楽への接近ぶりも生半なものでない。

デニス・リンデの「Down To The Station」(1977年)は、本コンピのラストを飾るにふさわしいシンセサイザー使いの強烈なファンク。ほとんど同時期のPファンクを思わせるほどの濃密さで、当時これを聴かされたカントリー・ファンの胸中やいかに……と余計な心配をしてしまうほどだ。

思えば、カントリー・ミュージックは、そう名指される前の段階(=ヒルビリー等)からして、黒人ブルースと相互浸透的な影響を与えあってきたわけであり、そう考えるなら、本作に収められた「異形の」ファンクの数々も、むしろ本来的な意味でカントリー的な実践とすらいえると思う。カントリー・ロックやアウトロー・カントリー、オルタナ・カントリー、アメリカーナなど、折に触れてサブカルチャー的なエッジを包摂しながら発展してきたカントリー・ミュージックだが、そうした「真面目」な展開とは別に、本作で聴かれるような雑多で「無邪気」な成果が多々あったことも見逃されるべきではない。日本の音楽ジャーナリズムでまともに取り上げられることはほとんどないが、現在も様々な音楽(もちろん、ヒップホップ等を含め)を取り入れながらキメラ的な発展を続けるカントリー・ミュージック。本作『Country Funk Vol. 3 1975-1982』は、大衆音楽としてのカントリー・ミュージックのふてぶてしい生命力を再確認するにあたっても実に優れたコンピレーション・アルバムだといえる。(柴崎祐二)

Text By Yuji Shibasaki


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『Country Funk Vol.3 1975-1982』



2021年 / Light In The Attic


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柴崎祐二リイシュー連載【未来は懐かしい】
アーカイヴ記事

http://turntokyo.com/?s=BRINGING+THE+PAST+TO+THE+FUTURE&post_type%5B0%5D=reviews&post_type%5B1%5D=features&lang=jp

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