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「自分たちの音楽は根本的にヒップホップだ」
タイラー・ザ・クリエイターとツアーを回る西海岸の異端児デュオ、Paris Texasが描くカルチャーの地図

01 October 2025 | By Tatsuki Ichikawa

カリフォルニアを拠点とした、フェリックス(Felix)とルイ・パステル(Louie Pastel)からなるヒップホップ・デュオ、Paris Texasは特異な存在だ。彼らの音楽は、西海岸のヒップホップだけでなく、パンクやメタル、グランジ、さらにアルバムの流れるような展開はプログレッシヴ・ロックなどからの多様な影響を強く感じさせる。また、彼らのアウトプットには音楽以外の要素、例えば映画のレファレンスなどもごちゃ混ぜにまぶされている。名前がヴィム・ヴェンダースの映画のタイトルからきていることをはじめ、今年リリースされたEP『They Left Me With The Sword』では、収録曲「Dogma 25」がラース・フォン・トリアーらの映画運動、Dogma95を連想させることや、様々な映画のタイトルがリリックの中に潜んでいることなど。注意深く触れれば触れるほど多くの要素が浮かび上がる彼らの作品は、遊び心満載だ。

2023年に発表されたフル・アルバム『MID AIR』は、各メディアで話題を攫い、ヒップホップのファンだけでなく、音楽ファン全体に幅広く届けられた。業界内外で、高い評価を受ける彼らの存在はユニークなものだったが、今回、タイラー・ザ・クリエイターのワールド・ツアーのサポート・アクトにも抜擢されたことで、日本国内でパフォーマンスを目にする機会にも恵まれた。

そんな彼らの最新のEPは矢継ぎ早にリリースされたこともさることながら、『They Left Me With The Sword』のジャケットが写真の一部のみを切り取り、『They Left Me With A Gun』のジャケットでようやく全体像が見えるように、明らかに連続した一つの作品のようだ。今回のインタヴューでは、日本でのライヴ前の彼らに、様々なインプットの原体験から自らの音楽性に対する考え、最新のEPの成り立ちなど、興味深い話題について語ってもらった。
(インタヴュー・文/市川タツキ 通訳/青木絵美 写真/Zhamak Fullad)

左からフェリックス、ルイ・パステル

Interview with Felix and Louie Pastel(Paris Texas)

──日本での滞在を楽しんでいますか?

Louie Pastel(以下、L):気に入ってるよ。でもあまりいろんなことはできてないんだ。もっと時間があれば観光とかショッピングとかできたのにね。唯一行ったのがすごく観光客向けのエリアなんだ。渋谷に行ったんだけど、あそこはどこにでもある大都市のような感じだった。楽しかったけどね。

Felix (以下、F):うん、楽しい。ただ、僕は言葉が分からないからちょっとフラストレーションもある。コミュニケーションを通じて自分のキャラをちゃんと表現できないからさ。でもすごく新鮮な体験をしてる。日本の文化に本当に触れたと思えたよ。

──なんでも80年代の音楽が流れてるバーでおじさんたちと過ごしたとか。

F:そうそう。日本の年配の人たちが飲みながら音楽を聴いてるのを見てた。あれはすごく面白かったよ。

──タイラー・ザ・クリエイターとのツアーはいかがでしょう?

F:すごくいいよ。ファンの反応もすごくいいし、めちゃくちゃ刺激的で楽しい。自分たちの音楽がアリーナの会場でどう響くのか、どう伝わるのかを学ぶ場にもなってる。全然違うんだよ。

全体として本当にいいツアーになっていて。ずっとツアーが続けてるけど、今のところ大きな問題もなく、1本もキャンセルしてないんだ。それってすごいことだと思う。ここに来る前もその話をしてたんだけど、タイラーも制作スタッフ全員を集めてスピーチをして、「ここまで順調に続けられているのはすごいことだ」と言ってくれたんだ。

──タイラーや北米などのツアーで同行しているリル・ヨッティのようなオルタナティヴなヒップホップ・アーティストにシンパシーは感じていますか?

F:そうだな、ある種の流れというか、重なる部分はあると思う。ただ、見え方としては僕たちの中でも、どちらかの方向により強く寄ってるのかもしれない。あと、(リル・)ヨッティのオルタナティヴな音楽へのアプローチはわりと最近のもので、多くの人にとってはずっと“ラッパー”としてのイメージが強かったと思う。でもタイラーはずっと左寄り(レフトフィールド)だった。僕たちがその真ん中に収まるかどうかは分からないけどね。影響源とか好きな音楽が重なってる部分はあると思うけど、それくらいかな。それが唯一の繋がりだと思う。

L:同感だよ。

──それぞれの音楽の原体験を教えていただけますか。

L:僕はVH1やMTVの時代に育ったんだ。だから一度にいろんな音楽に触れてきた。5歳くらいの頃からすでにゴリラズ、システム・オブ・ア・ダウン、パワーマン5000とかを観ていたし、ディスターブドの「Down with the Sickness」も聴いてた。同時にエミネムや50セント、アシャンティなんかも流れていて、本当に一気にいろんな音楽を浴びてたんだ。だから最初に何を聴いたかなんて、正直ピンポイントではわからないんだよね。ミッシー・エリオットもそう。何が一番最初だったのかは分からないけど、どこから吸収してたかは覚えてる。

F:僕も一番早い記憶は……やっぱり同じMTVのTRL(トータル・リクエスト・ライヴ)時代だと思う。でも最初に覚えてるのはアリーヤだね。それからカセット・プレイヤーで聴いてたリュダクリスのミックステープ。それが僕にとって初期の体験だった。ただ、その頃はまだ“音楽が好き”って自覚する前で、無意識に影響を受けてた感じだった。

あとはVH1やゴリラズをよく観てた。ゴリラズはアニメだったから、当時アニメをよく観てた僕には入りやすかったんだ。小4の頃はリンキン・パークにも夢中だったな。「Crawling」って曲がなぜかすごく好きで。

システム・オブ・ア・ダウンにもハマりそうになったけど、(彼らの曲)「Chop Suey!」をテレビで観てたら、姉に「消しなさい」って言われたこともあった(笑)。姉は僕の人生に大きな影響を与えた人で、ラップ音楽に触れるきっかけにもなった人なんだ。家の中に自然とそういう音楽が流れてたんだよ。そういうのが原体験というのかな。

あ、リュダクリスのミックステープは今でも覚えてるんだけど、どの作品か全然分からない。姉が僕の誕生日に「はい、これカセット」って渡してきたんだ。トニー・ザ・タイガーがジャケットに描いてあった。適当にもらったプレゼントだったけど、全部の歌詞を覚えたよ。それがオフィシャルな作品なのかどうかも分からないけど、全部リュダクリスの曲だった。売り物じゃないストリートのミックステープだったと思う。

──音楽を始めたきっかけについても教えてください。ルイさんはギターを弾いていたんですよね?

L:ああ、でもあれは女の子のためだったんだ(笑)。気になってた子がギター部に入ってたから、彼女を射止めるために僕もギター部に入ったんだけど、僕はギターを持ってなかった。それで「彼女のためにギターを弾けるようにならなきゃ」って思って、15歳の誕生日にギターを買ってもらって……そこから本格的に音楽にのめり込んだんだ。高校1年の頃かな。その後、その子の存在がなくなっても、僕は音楽を続けた。

F:僕が音楽を作り始めたのはもっと後だったね。ずっと聴いてはいたけど、自分で作ろうとは思ってなかった。実際に始めたのは高校の終わりくらいかな。その頃に初めて「作ってみよう」ってなったんだ。誰かにマイクをもらったんだけど、誰からだったかは覚えてない。そのマイクにはPro Toolsのデモ版が内蔵されていて、それで録音してた。僕とルイを引き合わせてくれた友達の家のクローゼットで録音してたんだ。その友達、ジーザスっていうんだけど、彼とよく一緒に音楽を作ってた。ノートに歌詞を書きながら曲を作るようになったのもその頃だね。それが最初の体験で、本当に始めたと言えるのは高校の終わり頃だった。

──いっしょに音楽を始めたのはいつ頃ですか?

L:僕たちは同い年で、19歳のときに共通の友達に紹介されて出会ったんだ。そのとき僕はラップやビートを作り始めていて、フェリックスもラップをやっていた。そこから自然と一緒に音楽をやるようになった。でも最初はぎこちなかったっていうか……いや、ぎこちないってほどでもないんだけど、フェリックスは知り合いって感じで、特に大事な存在ではなかったんだ。でも時間が経つにつれてどんどん大事な存在になっていった。

──少しずつ仲良くなっていったんですね。

F:そうそう。さっきも話した友達、ジーザスがきっかけだった。彼は僕がラップしてるのを知ってたんだ。当時は音楽を作ってラップもしてたけど、リリースはしてなかった。まだ音楽制作の基礎が分かっていなくて、「なんで自分の声は他の音源みたいに聴こえないんだろう?」とか「なんで曲が同じように仕上がらないんだろう?」っていうことを模索していた時期だった。そこで「ちゃんとミックスしなきゃいけないんだ」って知ったけど、Pro Toolsのデモ版しか持ってなかったから上手くできなくてね。ジーザスは僕がよくフリースタイルしてるのを聴いてて、「俺のクラスに仲良いヤツがいるんだ、彼もビートや音楽作ってるから紹介するよ」って言ってくれた。ルイとジーザスは笑いのツボが似てたから仲良くなって、よく一緒に遊んでた。それでルイと出会ったんだけど、最初から仲良くなったわけじゃなくて、“友達の友達”って感じでみんなで一緒に遊んでただけだった。ジーザスは、僕もルイも音楽制作の初心者だったから、ちょうどいいと思って紹介してくれたんだと思う。お互い音楽を始めたばかりの段階で、まだ手探りだったから、「とりあえずはこいつと一緒に練習して、後でそれぞれの活動をしていけばいいや」くらいに思ってた(笑)。でもなぜか別れることはなかった。それは音楽への思いとか、アイディアに関してお互いが共感できる部分があったからだと思う。

──いっしょに音楽を始めた時、ヒップホップをやろうと思ったのか、それともそういう括りに関係なく音楽を作ろうとしたのか、どちらですか?

F:自分たちができることを最大限に活かそうとしていただけで、明確なゴールがあったわけじゃなかった。「とにかくいいものを作ろう」っていう感じだった。最初は練習して上手くなることが目的だったからね。だからリリースしないで練習だけで終わる曲も多かった。個人で出した曲はいくつかネットに残ってるけど、2人でやった曲をリリースするまでにはすごく時間がかかったんだ。

当時は「僕らは2人ともラップができる。ルイはビートを作れる。僕はビートを作れないけど、ルイは楽器も弾ける」っていう感じだった。でも、あの頃のルイはまだギターも弾いてなかったと思う。弾けるのは知ってたけど、実際にはあまり弾いてなかったんだよ。だからその頃はパソコンのキーボードとか、ピアノとか、シンセパッドで音を作ってることが多かった。ルイなら正確な年を覚えてると思うけど、僕は思い出せないな。とにかく模索してたんだ。グループ名が決まる前は、個々のステージ・ネームがあったんだけど、それもころころ変わってた。グループ名をつけたのはずっと後だったね。2016年か2018年くらいかな。その辺りだと思うけど、ルイのほうが時間には詳しいよ。

L:僕は時間を覚えてるわけじゃなくて、出来事を覚えてるんだ。だから正確な年はわからない。でもその頃は確かに明確なゴールはなかった。

──では、今のParis Texasの音楽はヒップホップだと思いますか?

F:そう思うよ。前は「どんな音楽をやってるの?」って聞かれてもはっきり答えられなかったけど、今はそうだと思ってる。ヒップホップの歴史を深く遡ってその文脈で考えてるわけじゃないんだけど、自分たちの作品を振り返ると、例えば『MID AIR』や初期の作品を聴けばわかるけど、僕たちは主にラップをしてるだけなんだ。ラップが必ずしもヒップホップを定義するとは思わないけど、ラップに加えて、僕たちのアプローチや世界に出ていったやり方、人からどう受け取られたかっていう部分は、やっぱりヒップホップなんだと思う。同時代のアーティストやそれ以前の人たちと比べても、僕たちの音楽はかなり違って聴こえたと思うし、それが人々をワクワクさせた理由だと思う。どの時代の音楽もある種の繰り返しやリサイクルを経ていくけど、僕たちが2021年に出したものは、まさにヒップホップのルーツにある精神やアプローチを体現していたと思う。だから僕は、自分たちの音楽は根本的にヒップホップだと言えると思うんだ。

──音楽以外に夢中だった(または今夢中な)ものはありますか?

L:僕は映画オタクなんだよね。それと『バルダーズ・ゲート3』。ヴィデオ・ゲームだよ。この2つが僕の中での中毒みたいなもの。

F:僕もヴィデオ・ゲームかな。そんなにやり込むわけじゃないけど。ゲームと……あとはスケートボード。今でもたまにチェックしてるよ。基本的にはゲームとスケボーかな。ファッションにそこまで夢中になってるわけじゃないけど、新しいことを学ぶのは好きなんだ。あとは、タイポグラフィとか。文字やロゴ、イラストとか、そういうのにすごく惹かれる。理由はわからないけど、なんかすごく好き。

──あなた方のMVもとても面白いです。基本ストーリー性があるものが多く、今回の連作EPのMVも連続するような構成になっていて、映画のようでもあります。やはり映画は、あなたたちの音楽やヴィジュアル作品のインスピレーション元として大きいものなのでしょうか?

L:映画はインスピレーション源ではあるけど、僕は好きなものから直接引用するのはあまり好きじゃないんだ。ほとんどやらない。僕たちのMVの中で映画を参照してるのは、せいぜい2本くらいだと思う。「BULLET MAN」では『死霊のはらわたIII/キャプテン・スーパーマーケット』(1993年)のショットを取り入れたし、「girls like drugs」はヴィム・ヴェンダースの映画『パリ、テキサス』(1984年)からアイディアをもらった。けど、基本的に好きな映画から引用するのは避けてる。リスペクトの意味もあるしね。好きな作品をただ参照するんじゃなくて、それらと競えるような新しいものを自分たちで作ることに魅力を感じるんだ。先にあった作品に敬意を払いたいんだよ。

──アルバムやEPを制作する際、まずは表現したいコンセプトやテーマが先にあるのでしょうか?

F:いや、違うね。『BOY ANONYMOUS』は後からストーリー的なものを足していった感じで。あのときは、ルイが車を降りる前に思いついたアイディアをみんなで遊びながら膨らませていったんだ。アルバムの中で、本当にコンセプト主導だったのは『MID AIR』だけだと思う。

──最新のEP 『They Left Me With The Sword』『They Left Me With A Gun』の連続した構成も含めて、Paris Texasの作品のコンセプチュアルな構築性には興味を惹かれます。そういった一つの作品の流れ、形式という点で影響を受けているものはありますか?

F:まず、今回のEPはおそらく一番コンパクトな作品だと思う。映画というより、むしろテレビ番組に近い感じかな。アイディアとしても比較的シンプルで、普段よりも早く進んだ気がする。まあ実際には時間はかかったんだけどね(笑)。(マネージメント会社の)マイクに「いや、2年かかってるじゃん」って言われたりしたけど、自分の感覚ではもっと早くまとまった印象だった。前作からEPリリースまでの期間は短かった気がする。

L:そうだね。

F:プロセス自体が早かったんだと思う。ルイはずっと前から作曲を始めてたと思うけど、一度ハマると作業がスムーズに進む。昔の作品もそうだった。ルイがコラボレーターのビリー・レモス(Billy Lemos)と制作を始めてからは、最初の数ヶ月でまとまった部分もあったし、今回の作品は特に凝縮されていた。雪だるま式にどんどん形になっていったんだ。タイトル(『They Left Me With The Sword(自分に残されたのは剣だった)』もそう。友達が何気なく言った言葉を聞いて「これは作家の引用か?」って思ったんだよ。友達にその引用元を尋ねたら「いや、引用とかじゃなくて、ただ自分の人生を話しただけ」って言われて、「それはヤバい」って思った。それをルイに伝えたら彼も「それはヤバい」となって(笑)。「これで音楽が作れる」ってルイは思ったんだ。そこからアイディアがどんどん膨らんでいった。

──タイトルが先にあったんですか?

F:そうだね。

L:あ、でも曲自体はすでにできてて、「じゃあどうやってリリースするか?」って話をしてたときに、彼がそのタイトルを出したんだ。それを聞いて「これはヤバい」ってなった。僕たちの作り方ってリアルなマッドリブ(アメリカに昔からある言葉遊びのゲーム )みたいな感じなんだ。「これいいじゃん」「じゃあこうしてみよう」「次はこれやろう」って、常にピンポンみたいにアイディアを打ち合って広げていくんだ。

──つまり特定のアーティストや作品を参照しているわけではなく、自分たちで形を作っていると。

L:そう。

F:うん。『Sword』が先にあって、それをまとめてるときにルイが「もう一枚出そう」って言ったんだ。僕は「え、Swordまだ完成してないのに?」って思ったけど(笑)、彼とビリーが「大丈夫、任せろ」って。最初は戸惑ったけど、時間が経つにつれて「これはいいアイディアだ」って納得できるようになった。それで短い間隔で2枚出すことになったんだ。『Sword』がまだ仕上がってなかったから、『Gun』が完成間近になった時に、「よし、じゃあSwordも仕上げよう」って流れになった。しかも(タイラーとの)ツアー直前にだったからヴィジュアルやカヴァーの準備も整ってなくて「どうする?」って焦ったけど、最終的には全部うまくいったんだ。

──音源自体はすでに溜まっていたんですね。

F:そうだね。曲はかなりストックがあった。最後に仕上げたのは両方のEPのラスト曲だったんだ。そこだけは改めて取り組む必要があった。どちらのラストも、よりパーソナルで脆い部分を出していて、それはルイの意図でもあった。「これらの曲はちゃんと腰を据えてやるべきだ」って彼が言って、僕も「よしやろう」ってなった。結果的に、その2曲が一番時間がかかった。でも全体の構成としては、参照元があったわけじゃなくて、雪だるま式に自然と形になったんだ。

──先ほど『Sword』 が最初に完成間近で、ルイさんが「もう1枚作ろう」という流れだったとお聞きしましたが、そもそもは1枚だけリリースする予定だったんですよね?

F:そう、最初は1枚だけの予定だった。でも『Sword』が完成する前にすぐ『Gun』の構想が出てきたんだ。『Sword』はまだ仕上がってなかったけど、その段階でもう『Gun』も生まれた。だから、赤ん坊を一人産んだと思ったら「うわ、双子だった!」みたいな感覚だったんだ(笑)。

──なるほど、(MVでは)あなた方も双子になっていましたもんね。

F:その通り(笑)。

──ケンドリック・ラマーやヴィンス・ステイプルズ、そしてもちろんタイラー・ザ・クリエイターまで、現在の西海岸のラップにはそれぞれ独自の世界観を持つアーティストが数多くいます。最後にあなた方から今の西海岸のラップ・シーンはどのように見えているか教えてください。

F:すごく地域性(ローカル色)が強いと思う。最近になってようやく外に広がり始めた感じだね。だからこそケンドリックが開催したコンサート《The Pop Out: Ken & Friends》は重要だった。ケンドリックが自分のプラットフォームを使って多くのアーティストにスポットライトを当てたことには大きな意味があったと思う。数々のシーンがあっても、音楽以外の政治的な事情でシーンが内側から崩れてしまうこともあるからね。僕自身、子供の頃から常に西海岸のヒップホップは身近にあったけど、それが当たり前すぎてあまり意識してなかった。むしろ大人になってから、その面白さに改めて気づいたんだ。過去5年くらいでどんどん好きになったと思う。すごく独特なスワッグがあって、そこが魅力だし、単純に楽しいんだ。西海岸の音楽はキャラクターがすごく豊かで、そこも面白い。もちろんタイラーやケンドリック、ヴィンスのようにアプローチの違いはあるけど、それが多様性を示してるんだと思う。西海岸の音楽って、90年代以外は均質的に見られることが多いけど、実際にはいろんな動きがある。例えば、その一つがジャーク・ミュージックだよ。今のアンダーグラウンドやハイパーポップ寄りのラップでは、ジャークの影響を受けてテンポを速くしたり、サンプルをピッチアップしたりしてる。でもジャークはもともとLAで生まれた音楽なんだ。当時のムーヴメントは一度消えたけど、今はまたリサンプリングされて、新しい形で蘇ってる。それを見られるのはすごく面白いし、誇らしいよ。ジャーク・ミュージックって実はLAや西海岸に深く根ざした文化なんだ。

L:僕たちはすごく恵まれていると思う。悪い意味じゃなくて、世界最大級のマーケティングの街にいるっていう特権を持ってると思うんだ。僕らの街自体がマーケティングやエンタメ産業で成り立ってるから、リソースも一番豊富だと思う。みんなすごく実力があるし、そこから成功して活躍できてる人たちは本当にすごい。でも同時にアメリカ各地のヒップホップ・シーン(エリア)からは遠いというか、かなり分断されてる感じもある。他の地域同士はもっと近くてお互い影響し合ってるのに、確かにLAはにベイエリアやベガスはあるけど、テキサスですら行くのに車で24時間かかる距離だし。だから僕らは“西部開拓時代”みたいに、孤立した場所にいるんだよ。LAって本当に変な場所なんだ。

F:島みたいなもんだよな。

L:そう、島なんだ。誰も本当に近くにいない。サンディエゴに行くわけじゃないし。唯一の“いとこ”はベイエリア。でも僕らはその“いとこ”にもあまり優しくしない(笑)。

F:そうそう。それでも西海岸ではあるんだよな。だから“ウェスト・コースト”って名乗ってもいい。全部ひっくるめて西海岸なんだけど、南LAと北LAで文化が違ってたりするし、僕らはそこから色々拝借してるんだ。

L:でもニューヨークやアトランタ、マイアミは違う。どこもすぐに行けるし、つながりを持てる。LAはそうじゃない。ニューヨークからアトランタに車で行ったり、アトランタからマイアミに行ったりは簡単だけど、LAは距離的に孤立してるんだ。唯一いけるのは、シアトルだけどシアトルは都市の規模が小さすぎる。テキサス州に入ること自体は難しくないけど、テキサスの主な都市までは結構遠い。ヒューストンからアトランタに行く方が、ヒューストンからLAに来るよりずっと簡単なんだ。だから彼らはお互いに行き来して「いとこだな、いいやつらだな」って関係を築けるけど、LAはそういうのがない。アトランタの人はLAが好きじゃないし、マイアミの人もそう。テキサスの人もLAを好きじゃない。ニューヨークの人なんてLAを嫌ってる。誰もLAを好きじゃないんだ。僕らはあまりに孤立してる。唯一つながってるのはベイエリアだけ。でも僕らはそのベイエリアにさえ優しくしてないんだ。だからドレイクがその間を取り持つ役になってるんだ。彼はニューヨークにいて、アトランタにも行く。 

F:そう、北とか北東のつながりなんだよな。

<了>

 

Text By Tatsuki Ichikawa

Photo By Zhamak Fullad

Interpretation By Emi Aoki


Paris Texas

They Left Me With The Sword

RELEASE DATE : 2025.02.21
https://orcd.co/tlmwts

Paris Texas

They Left Me With A Gun

RELEASE DATE : 2025.02.28
https://orcd.co/tlmwag


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