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「このバンドは実験や探求を掘り下げるための肥沃な土壌なんだ」
ムーンチャイルドが最新作『Waves』で表現する人生の波

09 April 2026 | By Daiki Takaku

人生には波がある。だが、口笛を吹いて過ごしたくなるような最高な瞬間でさえ、すべてがうまくいっているわけではなく、気を抜けば弱音か涙が溢れそうになる最低な瞬間とて、すべてがどん底にあるわけではない。そう、あらゆる現実は捉えようによって輝き方を変える。ムーンチャイルド(Moonchild)の最新作『Waves』を聴くと勇気が湧いてくるのは、きっとここにそうした微細な輝きの変化の過程が濃縮されているからだろう。ジャズ、ヒップホップ、R&Bといったジャンルを横断する音楽性を突き詰めながら、ムーンチャイルドは人生の波から美を掬い取っている。

グラミー賞にもノミネートされた前作『Starfruit』(2022年)から活発化し、『Waves』でさらに広がったコラボレーションの輪が、その美しく打ち寄せる波の表現を支えている。ラプソディ、ジル・スコット、PJ・モートンといったラッパー/シンガーに加え、ロバート・グラスパーやデイナ・スティーヴンス(Dayna Stephens)、エレーナ・ピンダーヒューズ(Elena Pinderhughes)といったプレイヤーも参加。中でも最も大きな変化は、伝説的なドラマー、クリス・デイヴを迎えていることだろう。これまでドラマーを起用してこなかったムーンチャイルドにとって、これは明確な挑戦である。

それぞれがムーンチャイルド以外でも活動する中、こうしてムーンチャイルドが歩みを止めない理由はどこにあるのだろうか。全員がマルチ奏者で、ファースト・アルバム『Be Free』(2012年)以来、メンバー・チェンジなしという稀有なグループに話を訊いた。以下に続くオフィシャル・インタヴューでは、マックス・ブリック、アンバー・ナヴラン、アンドリス・マットソンの3人が揃って応えてくれている。
(インタヴュー・文/高久大輝 通訳/長谷川友美 トップ写真/Lauren Desberg)

Interview with Moonchild

──2022年の前作『Starfruit』は2023年のグラミー賞、Best Progressive R&B Album部門にもノミネートされ、ムーンチャイルドとしてこれまで着実に築き上げた音楽に一つのわかりやすい栄誉を与えた作品となりました。前作から約4年経ちますが、そういった状況の変化はあなた方にとって自然なことだったのでしょうか?

Max Bryk(以下、Max):うーん、どうなんだろうね。受け取り手にとっては変わったように感じるのかもしれないけれど、僕たち個人の生活がそこまで劇的に変わったっていう感覚は正直ないかな。でも、ムーンチャイルドにとっては、とても大きな出来事だったことは間違いないよ。ノミネートをしてもらえただけでも、本当に認められた感じがするしね。グラミー・ノミネートという肩書きにはやっぱり重みがあるし、新しいファンを開拓するときとか、ライヴのブッキングをするときとか、そういう場面ではちゃんと意味を持つから、すごくありがたい経験だったよ。

──曲をたくさん作り、その中からアルバムに収録する曲を選んで、コンセプトを与えていくというのがあなた方の基本的な制作方法かと思いますが、『Waves』でもそれに大きな変化はありませんでしたか? 『Waves』の制作において従来とは違ったアプローチを採用した点があれば教えてください。

Amber Navern(以下、Amber):最も大きな違いは、このプロジェクトにきちんと意図を持たせたところかな。今回のアルバムがどんな雰囲気のレコードになって欲しいか、キーワードをリストアップして言語化していった。実は、今までそういうことをあまりやったことがなくて。“trusting(信頼感)”とか、“playful(遊び心)”、“texture(質感)”、“valnerable(繊細で無防備)”といった言葉が幾つか浮かんだ。曲の書き方そのものはこれまでとそこまで違いはないけれど、でも今回は全員、それぞれ色々なところで新しいことを試していた感じはあると思う。マックス、他に何かある?

Max:最初にこのアルバムについて話し始めた時に、これまでで最もコラボレーティヴな作品にしよう、という話になったんだ。もちろん、今回もゲストやコラボレーターはいるけど、それだけではなくて。曲を書いていく中で、僕たち3人の間で、もっと本当に“一緒に作っている”感じを大切にしたかったんだ。そこにきちんとフォーカスしようってね。その一環として、毎週集まるようにした。大抵アンバーが僕のスタジオに来て、実際に顔を合わせて座って、一緒に曲を書く感じなんだけどね。誰かがサビのアイディアを持って来て、「じゃあAメロをどうしようか」とその場で一緒に考えたりとか。あとは、もっとオープンになることを意識していたね。例えば、アンドリスがドラムのトラックを送ってくれて、それに僕が曲を書いたりとか、とにかくアイディアを柔軟に送り合って、行ったり来たりしながら作っていく、というような感じだったんだ。

──5作目にして前作『Starfruit』から活発化したコラボレーションの輪が『Waves』ではさらに大きくなり、この作品の“波”を力強く支えているように感じます。ジル・スコットやPJモートンといった輝かしいキャリアを持つアーティストを含む多数のゲスト・ヴォーカリスト/ラッパーはどのように人選していったのでしょうか?

Andris Mattson(以下、Andris):『Starfruit』でこれまで以上に外部のコラボレーターを迎える方向に踏み込んだことは、すごくポジティヴな経験だった。それで、『Starfruit』では一緒にやれかったけれど、名前が挙がっていた人たちがまだリストに残っていたんだよね。次のアルバムを作る段階になった時に、その流れをそのまま引き継ぐのがすごく自然に感じられて。それに、コラボレーションって結局はアルバムに入る曲次第なところもあってね。例えば、少しジャズ寄りの曲がいくつかあって、そういうトラックが生まれたからこそ、デイナ・スティーヴンスやエレーナ・ピンダーヒューズとやれたらいいんじゃないか、というアイディアが生まれたんだ。彼らの奏でる音色が本当に大好きで、この曲に絶対ぴったり合うよね、という感じで進めていったんだよ。

──様々な個性的で魅力的な声を扱う上でプロデューサーとしてあなた方は何か気をつけていることはありますか?

Amber:アルバム用の曲リストはある程度まとまっていて、それとは別に“ぜひ一緒にやってみたい人”リストもあって。それで、この曲はこの人が好きそうだな、とか、この曲にはきっと合いそうだなって考えながら、曲とアーティストをペアリングしていった感じかな。もちろん、みんな基本的にはどんな曲でも素敵にしてくれるんだけど、スタイル的にどうマッチするかを意識して組み合わせていくというのが今回のプロセスだった。それに、コラボしたあともそのままにするんじゃなくて、相手の演奏やアイディアによりフィットするように曲の方を変えていくことも多かったよね。何かを足したり、逆に引いたり、私のヴォーカルを増やしたり。あとからちゃんと、その人がやってくれたことをより引き立てるように音楽を整えていく、ということもとても大事にしているんだ。

Max:本当に、ああいうレガシー級のアーティストに自分たちのアルバムに参加してもらえたのは、ただただ光栄だったよ。すごく特別なことだった。そういう人たちとプロデューサーとしてどう向き合うかという話だけど、正直、想像していたよりもずっとスムーズだったんだ。みんな本当に音楽的というか、自分の声をしっかり持っている人たちだから、自然とすべて上手くいった。それに、今回参加してくれた人たちは、もともとムーンチャイルドの音楽にどこか共鳴してくれている人たちでもあったと思うから、それぞれのサウンドもすごく自然に、有機的に溶け込んだ感じだね。無理に上手く合わせようと頑張る必要もなくて、本当にたくさんのことがそのままフィットした感じで。だから、僕たちはとてもラッキーだったと思うよ。

──具体的に指示を出すというより、自由にやってもらったと。

Amber:そう。曲を送るときは、どんなテーマなのかとか、その歌詞が私にとってどういう意味を持っているのかは一応伝えたけれど、同時に、それがあなたにとってどういう意味になるかは自由だし、あなたらしくやってくれたらいちばん嬉しい、というスタンスでもあった。この曲をどう受け取るかはあなた次第だし、それをそのまま表現してくれたら最高、という感じ。

──ドラムのレジェンドと言っても過言ではないクリス・デイヴの参加も『Waves』に大きな影響を与えていると思います。彼の生ドラムのみの曲もありますが(「For Yourself」)、いくつかの曲(「Advice」「Counting」「Sick」)では彼の生ドラムとプログラミングを同居させていますよね。

Andris:今回のレコーディングには本当にワクワクしながら臨んだよ。僕たちの作品で生のドラムが入ることは、実はすごく珍しいことだからね。そのトラック(「For Yourself」)に関しては…..曲にもよるんだけど、もともと打ち込みのドラムがすでに入っていたんだ。でも、彼がスタジオに来てくれたときに、その打ち込みのドラムは一旦ミュートにして、ここに何が入ると思うか、彼に考えてもらったんだよね。それがすごく良くて。場合によっては、もともと入っていたものとは全然違うアプローチになったんだけど、それが本当に美しかった。

Max:そうだね。あれはちょっとタイプの違うコラボレーションだった。あらかじめある程度イメージしていたグルーヴがあったから、僕たちからのディレクションは、ほかのケースより少し多めだったかもしれない。でも、実際にセッションをやったら、やっぱり彼ならではの個性がはっきり出ていた。独特だし、確固たる自分のスウィングがある。聴けば、クリス・デイヴだと分かるようなサウンドなんだ。だから、その演奏にフィットするように、シンセ・ベースや他の要素のタイミングをかなり調整したよ。彼の持つフィーリングに合うようにね。それが本当にクールだった。正直、あの作業はとても楽しかったね。

Amber:私たちの曲でクリスのドラムがどんな風に響くのかを聴くのは、本当に楽しかった。だって彼は、私たちのヒーローみたいな存在たちと、ずっと一緒に演奏してきた人だから。とても光栄だった。

──どのコラボレーションも印象深いと思うのですが、特に記憶に強く残っているコラボレーションやセッション時のエピソードなどあったら教えてください。

Amber:たぶん一番印象に残っているのは、ジル・スコットとラプソディーとのセッションかな。もう、ちょっとしたパーティーみたいな雰囲気だった(笑)。長い時間一緒に過ごして、お互いの話をしたりしてね。あの2人とそういう時間を共有できたのは、本当に特別なことだったし、とても楽しかった。ちょっと現実とは思えないような感覚もあって……もちろん、実際に2人が自分たちのパートをパフォーマンスしているのを聴いて、その表現力に圧倒されたのもあるんだけど、それ以上に、ただ同じ空間にいて一緒に時間を過ごせたこと自体が本当に素敵な体験だった。

Max:グレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)と一緒にやれたのは本当に最高だったね。彼女はLA在住で、実はアンドリアスの近所に住んでいるんだ。何度か集まって、一緒に曲を書いて、それからレコーディングしたんだ。しかも、いわゆるスタジオではなく、誰かの家でね。アンバーの家だったり、アンドリスの家だったり。リビングに座って作業したり、アンバーが録音に使っているクローゼットの小さなスペースに入ってやったり。その小さな空間で、グレッチェンと一緒に音を作っているというのがもう、すごく特別な感じだった。彼女はムーンチャイルドにとって、本当に大きな影響を与えてくれた存在で、おそらく15年くらい、ずっとヘヴィー・ローテーションで聴いてきたアーティストだから。そんな人とあんなに親密な環境でメロディや歌詞を一緒に作れたのは、すごく特別な体験だったよ。

Andris:本当にいろんな瞬間があったけれど、特に誇らしく感じたのは、ラトビアで弦楽オーケストラを録音する機会に恵まれたことかな。ラトビアは母の出身地で、家族のルーツがある場所なんだ。自分の育ちやカルチャーの大きな部分を、このプロジェクトに取り込むことができたのは、本当に特別なことだったね。アルバムを聴き返すたびにそのことを思い出して、そういうことを実現できたたのはすごくクールだった。素晴らしいミュージシャンたちと一緒にやれたことも含めて、とても意味のある経験だったよ。

──『Waves』はタイトル通り、人生において経験する様々な波がコンセプトになっています。歌詞からとても悲しい出来事があったことも想像しますが、あなた方がこれまで経験した“人生の波”について可能な範囲で教えていただけますか。

Amber:夫と私はこの3年間、ずっと子どもを授かりたくて妊活をしてきて、その間に何度か流産も経験しているの。本当にジェットコースターみたいな期間で、深い悲しみの波もあれば、瞬間的に大きな喜びや希望を感じることもあって……いろんな感情が交差していた。そういう経験が、今回のアルバムの中でもより重たいトーンの曲に確実に影響を与えていると思う。

Andris:アルバム制作の時期は、自分にとってもかなり個人的な変化や混乱が重なっていたんだ。ちょうど別れを経験したりしていて、とにかく色々なことが大きく動いていた時期だった。それが、ある意味ではサウンドに表れているのかもしれないね。というのも、引っ越しをして、ときどき友人のスタジオを借りて作業をしていたから。そのスタジオにベースが置いてあったから、自然とベースが入ったトラックもあった。歌詞を書いたわけではないけど、あの時期の“波”みたいな感覚は、自分にとってはそういう部分に出ているような気がするよ。

Max:このアルバムの制作に入る前の1〜2年くらい、少し自信を失っていたというか、自己肯定感がかなり揺らいでいた時期があったんだ。だから、このアルバムの制作が始まって、ムーンチャイルドの中で自分の声をもう一度確立できた感覚があって、本当に嬉しかったよ。正直に言うと、アンバーが最初のデモやアイディアを送ってくれるたびに、その歌詞が自分の状況にものすごく深く響いたんだ。彼女が経験していることとはまったく違うはずなのにね。でも、悲しみや癒しにはどこか普遍的なものがあって、きっと誰にでも通じる部分があると思う。だから、ファンのみんなにもそう感じてもらえたら嬉しいよ。

──そういった“人生の波”を音楽に、とりわけ歌詞に反映させていくプロセスはときに相当なストレスを伴うものだったのではないかと思います。

Amber:私にとっては、自分の経験をきちんと言葉にして、あまり美しいとは言えない出来事から何か美しいものを生み出すこと自体がセラピーのような感覚があるんだ。辛いとき、私はいつも音楽に頼ってきたからね。今回も、この音楽そのものが自分にとっての支えになっていたし、それが誰か他の人の支えになるかもしれないと思えたことも、制作のプロセスでは大きなことだった。感情的にしんどい瞬間がなかったわけじゃない。たしかに、あの気持ちの中にいるのは辛いこともあった。でも、それが当時の自分のリアルな状態だったから。だからこそ、そのことについて話すときは、出来るだけ意識的に、正直に、弱さも隠さずに伝えようとしているんだ。

──お話しいただきありがとうございます。ところで、前作から4年の間、例えばアンバーは参加しているCatpackで2024年にアルバムをリリースしたり、アンドリスがソロ作『the understory』を2025年にリリースしたりと、それぞれが個人的にも経験を積み重ねてきました。そういったムーンチャイルド以外での活動は『Waves』にどのような影響を与えていますか?

Amber:長い間一緒にやってきた人たちとまた集まって制作できたのは、やっぱりすごく良かったと思う。私たちには長い歴史があるしね。私個人の話をすると、ムーンチャイルド以外でもいろんなコラボレーションをしてきたし、アルバムとアルバムの間にやっていたプロジェクトの多くは、コロナ禍で時間ができた時期に始めたもので。でも、音楽って完成してからリリースされるまでに何年もかかることが多いから、その間にいろんなものが動いていて。リスナーからすると、私たち3人も、コラボレーションした人たちも、それぞれすごくはっきりした個性を持っていると思う。ソロ作品だったり、別の文脈で聴いたりすると、その“声”がよりクリアに聴こえることもあるよね。でも、私たちにとっては、ムーンチャイルドのサウンドって、やっぱり3人のブレンドなんだ。外でどんな活動をしていても、ムーンチャイルドに戻って来ると自然とその音になるというか。少なくとも私はそう感じているんだけど、みんなはどう?

Andris:うん、今の話でほとんど言い尽くされている気がするから、付け加えることはあまりないかな。でも、創作を続けていると、本当にたくさんのアイディアがテーブルに並ぶし、ムーンチャイルドは僕たちそれぞれのクリエイティヴな旅の中では大きな存在ではあるけれど、すべてではないんだよね。いわば、パイの一切れではあるけど、ホール全部ではない、みたいな。さっきアンバーも言っていたけれど、僕たちはそれぞれはっきりした個性を持っていて、その“声”が別の形で表現されることもある。でも、ムーンチャイルドに戻って来ると、どこか原点回帰の感覚があるんだ。個人的に言えば、僕はこのバンドの中でプロデュースの方法を学んだし、ソフトウェアの使い方も身につけた。今やっていることの多くは、ムーンチャイルドがなければ存在しなかったかもしれない。このバンドは本当に、実験や探求を掘り下げるための、とても肥沃な土壌なんだ。

──なるほど。個人のプロジェクト後に、他のメンバーに成長を感じるようなことはありましたか?

Andris:僕たちはみんな、つねに成長し続けていると思う。少なくとも自分は、プロデューサーとしてもシンガーとしても、ずっと成長を続けている感覚があるね。だから、アルバムごとに、自分の中での変化や成長ははっきりと聴き取れると思うよ。みんなはどうかな?

Max:4年ってやっぱり長いよね。だから、その間に、みんなそれぞれちゃんと成長しているのはたしかだと思う。僕たちはずっと、“テイストのある音楽をやるバンド”でありたいというのが軸にあって。それがある種のエトスというか、美学なんだよね。歳を重ねるにつれ、ますます本当にセンスのあるものだけを作ろう、という方向に向かっている気がする。4年ぶりにまた一緒にやることができて、アンバーやアンドリスがどれだけ音楽的に成長しているかを実感できたのは本当に嬉しかったよ。

──ムーンチャイルドの作品にはこれまでも3人の持ち寄ったインスピレーションが混じり合って反映されてきたと思います。特に『Waves』の制作やコンセプトに影響を与えた音楽作品などはあったりしますか?

Amber:良い質問。そうだな、ええと……(笑)。

Max:難しい質問だよね(笑)。もう本当に長いこと音楽を聴いてきたから、影響を受けてきたものが多すぎて……。ちゃんと良い答えをしたいんだけど(笑)。

Andris:本当に曲ごとに違うんだよね。少なくとも自分の場合は、アイディアの種って、何かを聴いた瞬間に生まれることが多いんだ。「うわ、この音めちゃくちゃ好きだ」って思ったりしてね。例えば、『Waves』に入っている「When You Know」という曲があるんだけど、さっきマックスが言っていたように、あの曲のドラムは僕が作ってマックスに送ったんだ。あのドラムは清水靖晃にとても影響を受けているよ。彼のアルバムをよく聴いていた時期に作った曲でね。そのアルバムに入っているインストゥルメンタルが本当に美しくて……ビートと呼ぶのも違う気がするくらい、すごく緻密に構成されていて、いろんな要素が組み合わさっていてとても面白いんだ。だからまあ、マックスが言ったように、影響は本当にたくさんあるけれど、そのうちの一つがそういう感じかな。

──昨年はディアンジェロ、スライ・ストーンが亡くなった年でもありました。特にディアンジェロの音楽はあなた方がグループを結成する大きなきっかけになったと伺っています。あなた方を結びつけ、大きな影響を与えたであろう彼の音楽の魅力について、ぜひあなた方の口から教えていただけますか?

Max:そうだな……何なんだろうね、ディアンジェロのあの感じって。なんかさ、まるで炎に引き寄せられる蛾みたいに、どうしても惹きつけられてしまう何かがあるんだよ。止められないんだ。もちろん、一人の人物にすべてを帰すのは難しいけれど、R&Bシンガーとして、彼はJ・ディラとその全体のヴァイブ、音楽性、フィーリングを大きく世に広めた存在だった。ヒップホップの感覚やグルーヴを、R&Bヴォーカリストの歌唱に持ち込んだんだ。そのサウンドこそが、僕がどうしても夢中になってしまうものなんだよね。ある意味では、僕たちがミュージシャンとしてやっていることの青写真のような存在でもある。もちろん、全然違う形ではあるけれど。

Amber:うんうん、本当に大きな影響だよね。道標のような存在。青写真という言葉がぴったり。

Andris:そうだね。だから、彼のバックカタログ全体……特に『Voodoo』は、言ってみればほとんど聖書のような存在に感じる。人が何度もその本に立ち返って、新しい知恵を見つけようとするみたいな。実際、僕もあのアルバムを聴く度に、必ず何か新しい発見があるんだ。彼は本当に、すべてに明確な意図を持っているアーティストだったと思う。細部の一つ一つに至るまで徹底していた。そういう資質を持っているアーティストってとても希有だよね。だからこそ、彼の音楽はあれほど強いインパクトを持っているんだと思う。しかも、それはソウルというジャンルだけに留まらない。彼の影響は、音楽のあらゆる領域に拡がっているんだ。本当に、唯一無二の存在だよ。

──彼らの死の時点で、すでにこのアルバムは完成段階だったかもしれませんが、完成した『Waves』のどのような部分に彼らの影響が息づいていると感じますか?

Andris:ディアンジェロの影響は、これまでもずっと大きかったし、これからも僕たちの音楽にとって大きな存在であり続けると思う。そもそも、僕たちが最初に強く結びついたのも、彼の音楽に夢中になっていたことがきっかけだったんだ。もちろんその後、それぞれがいろんな方向に枝分かれして、他の影響もどんどん拡がっていったけれど、彼の存在はいつもホームベースみたいなものなんだよね。言ってみれば、僕たちにとっての心臓のような存在なんだ。

Max:それに、彼を中心としたコミュニティみたいなものもあるよね。彼が亡くなった時は、僕たちの知り合いのほとんどがそれぞれの想いを語ったり、SNSに投稿したりしていた。このアルバムにはたくさんのゲスト・コラボレーターが参加しているけれど、彼らもみんなそのコミュニティの一員なんだ。だから、これは単にディアンジェロだけの話じゃなくて、もっと大きな一連の潮流みたいなものなんだと思う。

──では、『Waves』の収録曲をステージでパフォーマンスするに当たって何かこれまでと違った演出や演奏方法などを考えていたりはしますか?

Amber:フィーチャリングのある曲をそのゲスト本人なしで演奏する場合は、空いてしまうパートをホーンのソロにしたり、別のソロを入れたり、カヴァーを挟んだりして補ってる。そうやってレコーディングされた曲をライヴ用にアレンジしていくのがすごく楽しくて。

Andris:そうだね。これまで長い間、僕たちはカルテット編成でツアーをしてきたんだ。僕たち3人にドラマーを加えた形だね。でも、今回はベーシストが加わることになったんだ。名前はCorbin Jonesで、ドラムはEfa Etoroma Jr.が担当するよ。Corbinが加わってくれたのは本当に大きくて、これまでは僕やマックス、時にはアンバーがシンセ・ベースのパートを弾いていたんだ。でも、彼が加わってくれたことで、彼自身の素晴らしいミュージシャンシップや音楽的な個性はもちろん、僕たちもライヴでこれまで出来なかった新しいことに挑戦出来るようになった。だから、すごく楽しみだね。ちょうどリハーサルを終えたところで、自分で言うのもあれだけど(笑)、かなり良い感じに仕上がっているよ。

──楽しみです。全体として、ライヴ・パフォーマンスについて最近意識している点などありますか?

Max:これまでファンの人たちから、ホーンがすごく良いという声をよくもらっていて。僕たちはプロデューサーであると同時にホーン・セクションでもあるので、今回のライヴではソロをたくさん入れるようにしたんだ。演奏したい曲は本当にいっぱいあるから、セットリストのバランスを取るのは難しいんだけれど、ホーンのソロをたっぷり盛り込んだ、良いバランスが見つかったと思っているよ。観客にしっかりホーンを聴かせる、という感じだね。そこはすごく楽しみにしているよ。

Amber:それと、今回はメドレーも増やしているの。1曲を丸ごと演奏する代わりに、幾つかの曲の一部分を繋いで演奏する形にして、セットの中でより多くの曲を聴いてもらえるように工夫したんだ。曲と曲の繋ぎ方を考えたり、新しい流れを作りながら曲同士を編み込んでいくのがすごく楽しい。

Andris:そうだね。それから、今回のライヴ・セットを作るにあたっては、ステージの上でもメンバーそれぞれの“声”がきちんと感じられるように、かなり意識して作り込んでいるんだ。アルバム制作時もいろんな意図やテーマを持って取り組んだけれど、今回のツアーのアレンジでも同じようにそれを念頭に置いて進めてきた。実際にやってみて、とても良い感じになっているよ。

<了>

Text By Daiki Takaku

Photo By Lauren Desberg

Interpretation By Yumi Hasegawa


Moonchild

『Waves』

LABEL : Tru Thoughts / BEAT RECORDS
RELEASE DATE : 2026.04.03
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