「聴き手が誰であれ、みんなが中部アメリカにいる感覚になるような作品を作ることが僕のゴールだった」
絶好調ケヴィン・モービーによるリアルな今という地点からの親しみ
無骨な岩肌がビルのように立ち並ぶヴァレー。砂漠に引かれた1本線のハイウェイを旧式のピックアップで駆け抜ける。道端に転がる鹿の死体。マルホランドの道端でタバコを吸う少女。薄い壁越しに伝わる甘い時間。青空が一面に無限に広がる。サーモンピンクの夕暮れ。25歳で死んだジェイミー。長い間離れていた街への帰郷は。胸が締め付けられるような感覚を憶える。
前作『Oh My God』(2019年)の制作とほぼ同時に手を付けていたという『Sundowner』。舞台はカンザスシティ。ケヴィンの故郷。そして『City Music』(2017年)をリリースした2017年の冬に彼は西海岸を離れこの地に舞い戻っている。『Harlem River』(2013年)と『City Music』ではニューヨーク、『Singing Saw』(2016年)ではカリフォルニアだったように、ケヴィンの作品は彼に密接な土地が題材になる事を思い出させる。ツアーから戻り人と離れカンザスシティの自宅で制作をスタートさせた本作。ほとんどの楽器を1人で演奏しているように、故郷での1人の制作時間は、彼自身の音楽を、そしてこれまでの人生を思い返させる、いわば立ち返るような時間になったのだろうか。装飾的なピアノやサックスが華やかに祝福する前作『Oh My God』を思い返せば、本作は随分ストレートなバンドのアンサンブルに聴こえる。プロデューサー、ブラッド・クックとのやり取りを聞けば、そうした狙いも浮かび上がってくるように感じなくもない。結果そうしたプロセスがパーソナルな作品としての印象をより深めているように感じる。
小さな納屋で1人で曲を書き、ほとんど1人で演奏もこなすというこの制作プロセスは、この作品に取って非常に良い形で機能しているように感じた。カンザスシティの記憶やイメージと、そこに長い旅路を経て戻ってきた彼自身のリアルなタッチとシンプルなアンサンブルは非常に密接に絡み合う。ある人は、このレコードを“フォーク・ロック”と言うかもしれない。しかし一言でパスティーシュ的とは言うことの出来ない、リアルな今という地点からの親しみをそこに憶える。インタビューは以下。
(インタビュー・文/岡田拓郎 通訳/原口美穂)
Interview with Kevin Morby
——前作『Oh My God』にはフリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドがコーラスで参加していましたが、今度はフリート・フォクシーズの新譜『Shore』にあなたが参加しています。『Shore』では再びロビンと“ガーファンクリング”(注:ケヴィン自身がインスタグラムでそう表現。サイモン&ガーファンクルのアート・ガーファンクルのようにコーラスで参加した、というような意味)されたのでしょうか。ロビンとの交流がこのようにいつ頃から始まり、どういう感じで交流しているのですか?
Kevin Morby(以下、K):ロビンとは5年前に会ったんだ。彼の姉妹、エイジャが彼と僕のマネージャーをやっていているから、彼女を通してロビンと知り合い、それ以来ずっと友達なんだ。普段はテキストを送りあってるよ!
——さて、あなたの新作は、前作『Oh My God』から約1年半という短いスパンですが、前作とのつながり、連続性はどの程度あるのでしょうか? 曲はいつごろに作り始め、いつからレコーディングなどの制作に入ったのですか?
K:オーバーラップは確かにあった。でも、前作と今作との2作品のトーンは全然違うんだ。曲を書いていたのが同じ時期だから、歌詞的には重なる部分があるだろうけど。2枚のレコードを一度に作っていた時期を思い出す良い記念になったと思う。同期間に作業はしていたけれど、それぞれのレコードには僕の生活の異なる面が映し出されているんだ。『Oh My God』はツアー中、今度の『Sundowner』は家で過ごし人から離れていた時期だからね。
——制作の初期段階でTascam 424を使用していたとの事でしたが、デジタル録音が主流の時代にあえて旧式の4トラック・レコーダーを使いながら制作を始めたのでしょうか?
K:何か暇つぶしがしたかったんだよね。ホームタウンに戻ってきた後だったから、どの社会のサークルにも属していない時期でさ。それに、もともと4トラック・レコーダーは好きだったんだよ。あのレコーダーには魔力がある。ライティングにおいてもすごくインスパイアされるんだ。
——このデモ制作は冷暖房のない自宅の納屋で行われたとHPに文章を綴っていましたが、これは自分自身を過酷な環境に置いて追い込むような意図もあったのでしょうか。
K:音楽を演奏するのに合理的なのが単にあの場所だったんだ。ドラムセットを置くのに十分なスペースがあったから、そこにキャンプをセットアップした。汚くて古い小屋だったから、僕が掃除と片付けをしてスタジオに作り変えたんだ。
——Tascam 424を使ってあなた1人で作られた音源を完成したアルバムでは3D的に再現したとの事で、実際のアルバムではほとんどがスタジオでレコーディングし直したテイクが使われているかと思いますが、Tascam 424で録音されたテイクがそのまま使われた箇所はありますか? また、なぜそのような手法で録音しようと思ったのですか? アイデア、インスピレーションの元になった他アーティストの作品などがあれば教えてください。
K:4トラックで録音したものにはいくつか欠点があってね。リアルなスタジオでプロ達と一緒に、その欠点を無くしたかったんだ。一度自分だけで全てレコーディングしていたから、そのプロセスは簡単だった。スタジオに入り、ちゃんとしたギアを使ってエンジニアと一緒に自分が以前やったことをそのまま最初からやりなおすだけだったからね。
——「Campfire」の中間部分でバンドは鳴り止み、映画のワンシーンのように焚き火のパチパチとした音とともに女性の歌声が浮かび上がります。ここで歌われている歌は歌詞に出てくる「Jessi」に関係した歌かと思いますが、この歌の中で彼女「Jessi」はどんな歌を歌っていると思いますか?
K:歌っているのは僕のガールフレンドのケイティ・クラッチフィールド(ワクサハッチー)だよ。「Jessi」は悲しいことにもう亡くなっているんだ。ケイティは、人々の作品と精神は彼らの人生が終わった後もずっと生き続ける、というこの曲が持つ感情を歌っているんだ。ケイティからは音楽的にも、それ以外でも様々な面でインスピレーションを受けている。僕たちは互いに作用し合う音楽環境の中で、アイディアを交換しながら活動しているんだ。
——「Campfire」や「Don’t Underestimate Midwest American Sun」では、火の粉の飛ぶ音や、虫の音や風が葉を揺らすような環境音が音楽の中に混じっているのが印象的でした。あなたはこうした環境をレコードに取り込む事をどのように考えていますか? フィールド・レコーディングに対する考え方を教えてください。
K:そういった音を取り入れたかったのは、リスナーに僕が歌っている環境の真の感覚を味わってもらいたかったから。聴き手が誰であれ、みんなが中部アメリカにいる感覚になるような作品を作ることが、僕のゴールだったんだ。
——「Wonder」の曲尺だけ極端に短く、高速道路で当然視界に入ったトラックに激突したように突然終わりますがこれには何かしら理由があるのでしょうか。 楽曲の構成面で重視しているのはどういうところですか?
K:元々は、ジャムをやってもう少し長い曲を作るつもりだった。ワイルドなギターソロを入れたりしてね。でもそれとは他のやり方を選ぶことにした。代わりに、スピードアップしていくんだけど突然停止する、という、曲が終わった時にリスナーがもう一度再生したくなるような曲を作ってみることにしたんだよ。
——参加ミュージシャンはクレジットを見る限りビッグ・シーフのドラマー、ジェームス・クリヴチェニアとプロデューサーのブラッド・クックのみで、これまでのアルバムの中で最もミニマムなアンサンブルですが、こうした編成にいたったのはなぜですか?
K:今回のアルバムでは出来るだけ自分でプレイしたかったから、製作には極力少ない人々を招くことにした。あとは『Oh My God』がミュージシャンをふんだんに使った作品だったから、今回の作品はその逆にしたかったんだ。
——ブラッド・クックはどういうプロデューサーですか?
K:ブラッドは人々を興奮させるのが得意。一番感謝しているのは、僕がアルバムでドラムを叩く自信がなかった時に、彼が背中を押してくれたこと。とりあえず演奏して楽しめと言ってくれた。彼が、僕にもそれが出来ることを証明してくれたんだ。
——前作『Oh My God』ではエマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルー(Emahoy Tsegue-Maryam Guebrou)を思わせるホーリーなピアノがレコードに通底していましたが、今作はどの曲もバッキングの中心にはギターがあると感じました。再びギターを中心とした楽曲を作り始めたのには何か心境の変化があったのでしょうか?
K:さっきも話したように、今回は前作の逆で出来るだけシンプルにしたかった。出来るだけ少ない楽器、出来るだけ少ないメンバー、もしくは一人で演奏したかったんだ。あとは、4トラックで曲を書いたことで、取り込めるものに制限が出来たというのもある。そういうわけで、ギターがメインの楽器になったんだ。
——ピアノで作る曲とギターで作る曲とでなにか生まれるものに違いがあると感じますか?
K:どの楽器もそれぞれにその楽器だけのスピリットを持っている。それぞれが独特の姿勢、存在感を持っているんだ。だから、自分がどんな曲を書いているにせよ、使う楽器によって異なる質感、感情が生まれるんだよ。
——あなたは久しぶりにウッズの新譜『Strange To Explain』に参加したそうですね。よかったら参加に至る経緯を教えて下さい。
K:《Woodsist Festival》で演奏するためにニューヨークにいたんだけど、たまたま彼らがアルバムを仕上げようとしている時期で、何か歌ってくれないかと僕に頼んできたんだ!
——2月に予定されていた来日公演が叶わず残念でしたが、当日演奏予定だったセットリストでプレイリストを作ってあなたの来日公演を擬似的に楽しみたいと思っています。もし憶えていたら日本で演奏する予定だったセットリストを教えて下さい! そして、状況が落ち着いたらまた是非日本に来て下さい!
K:日本に来れなかったことが本当に悲しい。一番楽しみにしていたことだったからね。
日本での公演で予定していたセットリストはこれだよ。
Sundowener
Valley
Campfire
Piss River
Hail Mary
City Music
OMG Rock n Roll
Beautifl Strangers
I Have Been To The Mountain
Dorothy
——ありがとうございます!
K:こちらこそありがとう! でも、出来るだけすぐに絶対日本に戻ってくるから!!
<了>
Kevin Morby
Sundowner
LABEL : Dead Oceans / Big Nothing
RELEASE DATE : 2020.10.28
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Text By Takuro Okada