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「全ては“音を聴く方法”でしかない」
冷静に、辛抱強く、自らを疑い続ける
ジョックストラップの妥協なき音の探求

29 May 2023 | By Daiki Takaku

今年の3月8日、渋谷の《WWW X》で観た、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのメンバーでもあるジョージア・エラリー(ヴォーカル/ヴァイオリン)とプロデューサーのテイラー・スカイ(プログラミング)によるポップ・デュオ、ジョックストラップのライヴを一言で表すなら、「あっという間」だ。その帰り道で友人は「DJを聴いているみたいだった」という感想を口にしていたが、それもしっくりくる。時間を忘れさせる、優れたDJのミックスを聴いているかのようなショウケースだった。

そして、改めてジョックストラップの現状での最新アルバム『I Love You Jennifer B』(2022年)を聴いてみると、このライヴでの印象と聴き終えたあとの感覚はとても似ていることに気がつく。同作は実験精神と遊び心が満載のエレクトロ・ポップなのだが、大胆な展開の中にも繊細な手つきの見える、なんというか、嵐のような音にも関わらず、まるで自然とそうなっているかのような必然を感じるものだったからだ。さらに言うと、ステージ上を動き回り情熱的に歌うジョージアと、対照的にいかにも冷静にフロアとジョージアを俯瞰しているようなテイラーの、コントラストあるいはバランスもアルバムの音を通して感じる歪さと必然性に繋がっているのかもしれない。

そんな感想を元に、ジョックストラップが音をどのように捉えているのか話を訊いた。カジュアルな質問をぶつける動画インタヴュー企画「THE QUESTIONS✌️」にも応えてもらっているので、二人の間を流れる空気感も含めて楽しんでいただければ幸いだ。
(取材・文/高久大輝)

Interview with Jockstrap(Georgia Ellery and Taylor Skye)

──大胆な構成はジョックストラップの音楽の大きな魅力の一つです。1曲作る上で基礎となる部分の制作には複数の楽器を使っているんでしょうか?

ジョージア・エラリー(以下、G):曲を作るときはギターかピアノを使うんだけど、最近はギターの方をよく使っています。このアルバム以前はあまりギターを使っていなかったんだけどね。歌詞に関しては、携帯のメモアプリに記録してあるものを見返して音楽に合わせてみたり、その逆のプロセスもある。基本的に曲作りのプロセスは長くかかるもので、1〜2時間で曲が完成することは滅多にない。そういう時もたまにはあるけど。通常は、自分でデモを録音してからテイラーに送ります。

──では、ジョージアさんの中では完成した曲のイメージが概ね出来上がっているということですか?

G:テイラーが加えるプロダクションはとてもユニークだから、私の中で完成していることはないんです。自分が曲を作っているときも、それが完成形でないということがはっきりと分かっている。

──ギターやピアノ、ヴァイオリンなど生の楽器、あるいはDAWソフトやプラグインなどラップトップの中にある楽器、それぞれの音や響きはあなた方のソングライティング、あるいはアレンジメントにどのようなインスピレーションを与えているのでしょうか?

テイラー・スカイ(以下、T):結局それらは全て“音を聴く方法”でしかない。僕としては、昔からあったギターやピアノといった楽器の音と、パソコンで作られる最近の音に違いはあまりないと思っていて。その作業をしている瞬間にしっくりくるものを選択しているだけなんだ。ジョックストラップの楽曲に入っているピアノやギターの音は、実際の楽器が演奏されたものではなく、パソコンで作られた音であることが多い。だから僕にとっては、あらゆるものがパソコンで作られた楽器の音のように聴こえる。ランダムな感じで、その瞬間に良いと思うサウンドを起用しているんです。

G:そう。その都度、最適なものを使うようにしています。

──アルバムのミキシングはテイラーが自身で担当しています。ジョックストラップの音楽は繊細なニュアンスも豊かに表現されていますが、イメージを具現化する上でもっとも苦労する部分はどのようなところにありますか?

T:自分のイメージする「良いサウンド」があってそれを作ろうとする。自分が求めているサウンドではないとき「それではない」ということは分かるんだけど、なかなかその「良いサウンド」を具現化できないことがある。それに苦労することが多い。辛抱強く待って、いろいろ試してみるしかない。サウンドがイメージできていて自分の中では明確になっているんだけど、多くの場合、それをどうやったら具現化できるのかが分からないんです。だからすごく時間がかかる。あと忍耐強さが必要。ときには妥協して、容易い道へと行きそうになるから、どれだけ自分に正直にいられるかというのも大きく影響する。「これがより安易な方法だからこれをやっているのではないだろうか?」「これは本当に自分が出したかったサウンドなのか?」「困難な追求を続けて、完璧なサウンドを求めるべきなのか? それとも、ここで妥協するのか?」と常に自分を疑い、自分に問いかけながら作業している。そういう精神的な面で苦労しています。自分の求める道を見極めて、難しくても妥協せずにそれを追求していくということ。

──ジョックストラップの音楽にはところどころノイズのような音が入っています。あなた方にとってノイズはどのような意味を持ちますか?

T:ノイズや他のサウンドでも、それがどういう意味を持っているのかは僕にはよく分からない。昔からノイズみたいな音が入っている音楽を聴いてきたことが影響しているのかもしれない。比較的新しい考え方なのかもしれないですね。パソコン以前の時代は、ホワイトノイズをリスナーにわざわざ聴かせるために音楽に入れるということはしていなかった。最近はそれが比較的普通になってきている。だから、僕が育った時代と、僕がしてきた音楽の聴き方なんだと思います。僕世代の人たちにとっては普通なんじゃないかな。

──ジョージアの美しいヴォーカルについてご自身はどのような印象をお持ちですか?

G:悪くないと思う(笑)。私は専門的なヴォーカルのレッスンを受けてきたわけじゃないから自分の声に対して特に批判的になる必要がなかったし、自分の声を特に真剣に扱ってこなかったんです。自分の持っている声はツールの1つとしてフラットに認識している。だから特に印象があるわけではない。テイラーとそういう話を先週くらいにしていたの。自分の声は、私たちの音楽にフィットすると思うし、その役割を成し遂げていると思う。それに私は歌うことが好きだから、歌うという行為に快感を覚える。テイクを録音している時も「このヴォーカルのサウンドはかっこいいから、それを歌っているのが自分で良かった」と思うこともあるけれど、それ以外は、自分の声に対して特に強い感情や執着があるというわけではないんです。

──俯瞰して手を加えているテイラーから見て、彼女のヴォーカルの特徴はどのようなところにあり、どうして聴く人の心を動かすのだと思いますか?

T:出音があまり硬くなくて鋭くないところが素敵だと思う。僕たちは様々なスタイルの曲をやるから彼女のヴォーカルもそれに合わせて変わるんだ。クラシックな響きがあるところが多くの人に受けているみたいだね。僕も良いと思う。僕もジョージアも同じようなシンガーが好きで、そういう人たちを聴いて育ってきたから、そういう人たちにインスパイアされた彼女の声が好きなんだ。僕は女性のシンガーが大好きなんだ。ジョージアの声も進化してきて、昔はライトな感じだったんだけど、最近は深みが増してきた。それは彼女が歌い方を選択しているからなんだけどね。彼女の声は進化しているし、僕は大好きだよ。 

G:ありがとう!

T:それから彼女のメロディーと歌詞がいいからだと思う。一番は僕のプロダクションのおかげだけどね(笑)!

──なるほど(笑)。

T:いや、今のは冗談! さっきもジョージアが話していたけれど、彼女はプロのヴォーカルを目指してきたわけではなくて、自然に今のヴォーカル・スタイルにたどり着いた。だから無理なく、自然な感じがいいんじゃないかな。

──ジョックストラップのホームページではサンプルパックが無料でダウンロードできるようになっています。これにはどのような意図がありますか? そのサンプルを使用した曲が届いたりしていますか?

T:適当に思い付いただけなんです。サンプルパックをサイトに載せようと思っただけでやった。それでおしまい。他の人の反応は僕にとって重要じゃない。正直にいうとそんな感じ。深みがあるアイディアでもないし、時間も掛からなかった。曲を作ってくれた人は何人かいたみたいで、それは嬉しかったかな。こういうことはよくやっているんです。何か企画をするけど、あまりプッシュせずに、ただ公開して、放っておく。それを見つけられる人は見つけられる。ファンとの交流は遊びみたいな感じでやっていて、何かを公開しても、無理にアピールせずに、一歩下がって、その後の様子を見守る。そんな感じ。

G:ウェブサイトは、画面の素材をステッカーみたいに動かすことができたりと、インタラクティヴなものにするのが目的だったんです。デザインもアルバムの感じに近づけたかった。

【Jockstrap 公式HP】 https://jockstrapmusic.com

──現代ではサンプルパックをはじめたくさんの簡易的な方法を用いて音楽を制作できます。そういった状況でジョックストラップが独自性を保ったまま優れたポップソングを生み出せる理由はどこにあると思いますか?

G:嬉しいコメントをありがとう。私たちはとてもクリエイティヴな人間でアイディアがたくさんあるということが一つ。そして、常に新しい何かをしようと限界を押し広げている。これは特にテイラーがそう。それから私たちはクラシック音楽の背景があるし、音楽を専門的に勉強してきたという土台があるから、新しいことをしようという意思と、今まで学んできた土台とを組み合わせることで面白いことが生まれるのだと思う。それに私たちはすごく野心的で制作意欲に駆り立てられていて、かなり真面目に制作に取り組んでいます。

──このような時代に生きる一人の人間として便利なテクノロジーを利用する上で気をつけていることはありますか?

T:できるだけ多く使うことだと思います。テクノロジーを最大限に使うことが今、一番面白い音楽制作の方法だと思うから。

G:そうだね。

──お二人ともギルドホール音楽演劇学校で音楽について学んでいます。ジョージアは先ほどアカデミックな背景があることについて話していましたが、現在の活動をする上でアカデミックに音楽を学んだことはどのように生かされていますか?

G:私は学校でジャズを専攻していたんだけど、それ以前はジャズの演奏はほとんどしてこなかったんです。最初に学校でジャズを学んでいた時に、よく出来た構成の曲やソングブックに載っている曲などを勉強したことによって、進行の作り方やメロディーやハーモニーの作り方を学ぶことができたから、それが今の活動に活かされていると思う。

T:学校に入ってから、今まで自分の周りにいなかったような、僕を応援してくれる人がたくさんいると感じるようになりました。課題を一緒にやってきた他の生徒たちや、従事していた先生たちが僕のことを後押ししてくれて、そのことにすごく感化された。そのおかげで自分がやっていたことに自信がついて、続けることができた。自分がやりたいことに対して、周りのミュージシャンたちからポジティヴな反応や雰囲気が感じられたことが一番大きなことでした。学校に入る前、僕はロンドンから離れたところに住んでいたから、周りにそういう人たちがあまりいなくて。ロンドンに移ってからは、さまざまな影響が自分のやりたいことに役立った。毎晩ギグを観にいくことができるということや、自分と同じような志を持っている人たちがそばに住んでいるということや、僕の活動を褒めてくれたり、助けてくれる先生たちがいるということ。周りの雰囲気がとても良かったんです。

──ジョックストラップや、お二人のギルドホール音楽演劇学校での先輩に当たるミカ・リーヴァイ(Mica Levi、Micachu)のように、アカデミックに音楽を学んだ上で型に嵌らない音楽を生み出している例は数多くあります。音楽についての基礎を学んでいるからこそ、枠組みを越えていけるということでしょうか?

T:そうは思わない。若いうちから自分が何をやりたいのかが明確なら、(音楽について基礎を学ばずに)すぐにやればいいと思う。僕もジョージアも学校に行ったのはロンドンに移るためという理由も大きくて。18歳の時点で音楽を生業にしたいと分かっている人は少ないと思うけれど、僕たちは音楽をやりたいと思っていたから、ロンドンに行って音楽学校へ進むのが妥当な道だった。でも僕たちみたいな考えじゃない人たちもたくさんいる。僕が一番苦労したのは、大学に入る前の段階で。音楽のプロデュースの仕方を学びつつ、高校の勉強を続けること。そっちの方が音楽学校よりずっと大変でした。大学の課題よりも、高校の勉強の方がずっと嫌いだった。大学の課題は楽しかったからね。大学での良い出会いや、さっき話したような大学の良かった点以外のことは、他のところからでも得ることができるんです。僕はクラシック音楽を勉強したけれど、大学にいる生徒の中にはクラシック音楽に大して興味を持っていない人も結構いる。僕はクラシック音楽に興味があったし、ジョージアも自分が専攻した音楽に興味があった。それは僕たちにとっては良かったことだけど、アーティストとして音楽を生み出すということについては特に意味を成さないと思う。

──ライヴを取り巻く状況もパンデミックを迎える前のものに近づいてきたと思います。ジョックストラップにとってライヴとスタジオワークにはどのような相関関係がありますか?

G:ライヴはアルバムに近い感じにしようと思っているけれど、ライヴでは音楽に合わせて動いたり踊ったりできるような、違ったリスニング体験を提供したいと思っています。その方がヘッドフォンで聴いているよりもエキサイティングだと思うから。

──ジョックストラップとして、これまででもっともエモーショナルな気持ちになったライヴについても教えてください。

G:初めてグラスゴーで「Glasgow」を演奏したときかな。もしくはアルバム・ツアーの初公演。お客さんが大声で歌詞を歌うのが好きだということに気付いたから。その時はすごく良い気持ちになってエモーショナルでした。

T:うーん、初期の方がエモーショナルだったかもしれない。僕はライヴ中に何も感じないことが多い。少なくともここ最近しばらくはエモーショナルになっていないな。エモーショナルだと感じたのは、ガールフレンドがいた頃で、普段はガールフレンドがライブに来てくれていたんだけど、あるライヴではその直前にガールフレンドが来れないということが分かって、その時は最悪の気分でした。その時はすごくイライラしながらライヴをやったよ。だから僕の場合は、自分の日常に何か異変が起きた時にエモーショナルになるという感じ。僕だってジョージアみたいに、お客さんが歌い返してくれるから嬉しかったという経験はあるよ。よく覚えていないけれど。僕にとって、ライヴはただ淡々とこなすものになっているんです。ライヴをやるのは大好きだけど、エモーショナルにはならない。

──先日の東京でのライヴは始まりから終わりまで緩急のある素晴らしい流れでした。

G:セットリストについては結構考えました。セットリスト自体はライヴごとに同じような感じなんだけど、アルバムのツアーが始まる前に、ライヴでは曲間に音楽を加えることにしたから、その準備もして、ライヴ全体が自然な流れになるように。

──ライヴを観て改めてお二人は強固な信頼関係で結ばれているように感じました。長い時間を共有する中で二人が衝突することはありませんか?

T:音楽制作に関しては、お互いが納得するまで一緒に制作を続けていきます。二人での作業というのは満場一致というわけでもなくて、もう一人の人に別の意見があるというだけ。グループで作業しているのとも違うし、一人で作業しているのとも違う。でも僕たちはいろいろ話し合って、探り合いながら、二人で答えを出すようにしているんです。今でも探りあっている案件もあるけど。活動を始めた当初は、ただ単にお互いに音源を送り合って、お互いがどういう作業をしているのかを把握する感じだった。今はお互いがどういうことができるのかが分かったから、制作の仕方も少し変わってきた。とにかくかなり時間のかかる作業です。音楽を作るにはかなりの時間がかかる。

──ライヴなどで忙しい日々を送っていると思うのですが、次の作品の制作にはすでに着手していますか?

G:今も制作中です。どこまで話して良い?

T:近々公開できる予定。次に日本に行くまでには何か出しているよ。

G:それは絶対にそう。

──では、次回の来日も楽しみにしています!

G:ありがとう! 日本は本当に素晴らしかった!

<了>

【THE QUESTIONS✌️】Vol.7 Jockstrap

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Text By Daiki Takaku


Jockstrap

『I Love You Jennifer B』

LABEL : Rough Trade / Beatink
RELEASE DATE : 2022.09.09

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https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12868

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