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ミュー~一瞬の閃きがもたらす勢いと細部への拘りとの両立

06 September 2017 | By Tetsuya Sakamoto

ミューというバンドは「勢い」とか「閃き」という言葉には無縁だと思っていた。アルバム制作に長い年月をかけ、じっくりと自分たちが納得するまで突き詰めて、それをリリースするーーある意味で今まではどんなに時間をかけても全てのディティールに拘る姿勢こそがミューというバンドを担保するものだったのかもしれない。だが新作『ヴィジュアルズ』では、一瞬の閃き、あるいは即時性がこのバンドの機動力や跳躍力を引き出している。

だがそれは勢いに任せて、衝動のみで作られたということではない。20年に渡ってバンドを継続させることで血肉化させてきたサウンドに対する拘りは前作『プラス・マイナス』以上に明瞭に感じられる。その拘りとは余計な部分が削ぎ落とされ、音一つひとつの輪郭が際立つサウンドから垣間見られる、音をどうやって重ねていくかではなく、「どこで音を鳴らさないか」という意識だ。だからこそ、本作から聴こえるポップかつ美しい旋律はより甘美さを増すのだし、グルーヴもよりしなやかになる。そして彼らの楽曲の特徴でもある予測不可能性がより増すことに繋がるのだ。そんな新作をひっさげて現在来日ツアー真っ最中の彼らに、一体彼らがどのような思いで新作『ヴィジュアルズ』を作り上げ、今こうしてライヴ・パフォーマンスを行っているのかを訊いた。まだ間に合う公演もあるので気になる方はぜひ駆けつけてほしい。(取材/文:坂本哲哉)

Interview With Jonas Bjerre and Johan Wohlert

ーー正直なところ、こんなに早くアルバムが届けられて驚いています。いつになくスピーディーに仕上げられた今回のアルバムの手応えはこれまでと比べてどうですか?

Jonas Bjerre(以下JB):すごく満足しているよ。(ヨハンに対して)君はどうだい?

Johan Wohlert(以下JW):今までは大抵他にプロデューサーがいたから、その人との意見交換の中でこれで方向性が良いのか良くないのかとか指示を仰ぎながら制作を進めていくことはできたけれど、今回はセルフ・プロデュースで、3人だけだったから、やっぱり自信を失いそうになる瞬間もあったけれど、長年こうしてバンドをやってきたから、自分たちの本能を信じるということができるようになっているんだよね。

JB:毎回そうやって自信を失いそうになる瞬間はあるんだよ。作りながらこんなに変なものを作ってしまって、あまりに変わっているから誰も好きになってくれないんじゃないかってね。でも今回は良いところに落ち着いたんじゃないかなって思っている。例えるならば、過去に立ち返っているような作風でありつつも、20年くらい先のまだ見ぬどこかへ向かっている感じもこのアルバムにはあるんだよ。

ーー今回、セルフ・プロデュースで挑もうと思ったのはなぜですか?

JB:今回は前作の『プラス・マイナス』のツアーが長く続いていて、そのツアー中のエネルギーみたいなもの、盛り上がりみたいなものが残っている状況で作り始めたアルバムなんだ。それを存分に生かすためには自分たちでやるのが一番良いと思ったんだよ。ツアーの終わりのころにいろんなアイディアが浮かんできて、それがとてもエキサイティングなものだったから、ツアーが終わって地元に戻ってブレイクを置かずにアルバムの制作に入っていったんだけど、その即時性を生かしたいと思ったんだよね。だからそのためには他の人に入ってもらう必要はないのかなって思ったんだ。実際自分たちで作った曲もそうだけれど、アートワークも僕が手がけているし、全てにおいて自分たちの力で完成させたアルバムということははっきりといえるね。

ーーあなたたちは今まで長い時間をかけてじっくりと作品を作り上げていたと思うんです。そういう意味では挑戦的であるようにも思いました。今までとは違い、こんなに早く制作を進めることで何か発見はありましたか?

JB:実際、贅沢な意味での時間の使い方をしていたつもりもないんだけれど、今回こうやってテンポ良く制作を進めていくために、あまり考え直すのをやめようと思ったんだ。エネルギーに任せて、そのときの勢いでどんどんと曲を仕上げていこうってね。だから今回のアルバムの曲は、その時々の自分たちの迷いのないフィーリングがそのまま閉じ込められているっていう風にいえるんじゃないかと思う。

JW:次のアルバムはまた5年かかっちゃうかもしれないけどね(笑)

JB:でもある意味ではチャレンジであったと思うんだ。まず第一に自分たちでプロデュースしたということもそうだし、ある程度まとまった数の曲をこの短い期間に納得のいくところまで持っていけるのかっていう不安も少なからずあったっていうのは事実だね。でも実をいうと、今までのアルバムも毎回次はさっさと作ろうっていいながら実現できずにきていたから、ようやく自分たちとの約束を果たしたのかなとも思っているよ。それとこうやって早く作業を進めることは僕らにとっても面白いことであって、こんなに早くアルバムを出してしまった結果、果たして前作から2年でまたミューの曲を聴きたいなと世の中の人は思っているのかな(笑)。僕らも実際そこはどうなのかって思っていたところがあるから、みんなの反応はどうなんだろうっていう楽しみもあるね。まあ1年がかりくらいでアルバムを作るっていうのは、他のバンドとかに比べたら、決してそんなに早くはないのかもしれないけどね。ただミューにとっては早かったというだけでね。

ーーそうやってテンポよく作り上げたにも関わらず、この『ヴィジュアルズ』というアルバムは「どうやって音を重ねていくか」ではなくて、「どこで音を鳴らさないか」ということを意識した、引き算の作品なのではないかと思いました。そういう意味でミニマルで空間的に広がりのあるアルバムであるように感じたんです。

JB:間違いなく意識していたこととして、今回は音がグチャっとしないように、明瞭に音を響かせるということがあったんだ。それはメロディにおいてもコード進行においてもそうなんだけれど、多くの曲が明瞭に聴こえるようになっているんだ。そうするための空間、間というものをもたせているし、そういう音作りをしたんだよ。今までもそういう方法はやってきてはいたけれども、今回はそれを継続的に、多くの曲に試したんだよね。それで大切なこととして、楽器ひとつとっても、例えばサックスの音は今までも使っていて、今まではサックスの音かなんだかわからないような使い方をしていたんだけど、今回はサックスがサックスとして聴こえるような音作りをしているんだ。周りの音をあえて削って空間を持たせて、楽器がその楽器らしい音で輝けるようにっていうね。そういうことをを主旋律であったり、曲のテーマであったり、いろいろな部分に対して施していったから、伝えたいものがそこで何が起こっているかはっきりとわかるような音作りになっていると思うよ。

ーー例えばそのサックスをフィーチャーした「Twist Quest」はジャズやR&Bのグルーヴやフィーリングを感じ取ることができます。これらの曲はどういったアイディアのもとで作られたのでしょう?

JW:基本的にはジャムから作り始めた曲なんだ。今までもジャム的なものは何回も試みているけれど、散々ジャムって、その音を録っておいて、でもそれでは全く曲として成立しないから、部分部分であとで生かしていければなと思っていたんだ。そういうことを重ねていった結果、ちゃんと曲として形になったんだよ。それでこの曲の背景にはミューがバンドとしてしっかりプレイしているっていうことがあるから、その瞬間のグルーヴをそのまま生かしたという意味では、今作の中でも一番即時性のある曲だと思っているよ。

ーーその一方では、ミュー史上最もヘヴィなイントロから始まる「Candy Pieces All Smeared Out」がありますよね。ミューからはこんなにヘヴィで凶暴な音を想像したことがなかったのでとても驚いています。

JB:この曲には面白い話があるんだ(笑)。ビートに関しては僕が子供の頃に持っていたアメリカのコモドールの《Amiga 500》っていうすごくシンプルで子供でも使えるようなコンピューターで作ったんだよ。そこに乗ってくるフルートの音はゲームの音をサンプリングして使ったものなんだ。そうやってコラージュ的に作ったものなんだけれど、最終的にはヘヴィに始まってやがて風変わりなポップ・モードに入っていくっていう感じになった。それを実はあるプロデューサーに一回聴かせたんだ。そうしたら、「これはすごく腹が立つ。せっかくヘヴィなロックでいい感じでノッてきたのに、想像とは全然違う方向に曲が変わっていっちゃって。こんなの誰も好きにならない」って言われたんだよ(笑)。だから当然アルバムに入れたんだ。

JW:ただ、意外な展開というのは狙っていた部分はあって、普通だったこういうアイディアを組み合わせて上手くいくはずがないっていうところを、僕らだからこそ上手く繋げて曲に出来たんじゃないかな。一般的には相性が悪いと思えるようなアイディアなんだけど、この曲に関して言えば、上手く隣同士に座ってくれたんだ。理屈の上で紙の上に書いて駄目だと思っても、やってみると意外と上手くいくということはあるよね。

"過去に立ち返っているような作風でありつつも、20年くらい先のまだ見ぬどこかへ向かっている感じもこのアルバムにはあるんだよ。"

ーーそうやって作った曲に歌詞はどうやってのせていったのでしょうか? 今作の歌詞ではパーソナルな体験だけではなく、世の中の動きに大きくインスパイアされたと伺っていますが。

JB:まずこっちから歌詞の持つ意味合いを強制的にこうだとはいいたくないし、それぞれの解釈に任せたいという部分があって、歌詞について語るっていうこと僕ははおおよそしないんだ。でも、今回のアルバムについては読めばすぐにわかると思うんだけど、今の世界を眺めながら正しい方向には決して進んでないなって思っている自分の想いが表れているんだ。そういうことも含めて、物語を紡いで、語って聞かせるような歌詞を僕は書くのが好きなんだ。聴く人の心の中に言葉で絵を描いていくような、そういう歌詞の書き方をしたいと思っているよ。あともう一つ、言葉をメロディにのせて歌ったときに響きが良ければそれでいいと思ってる。歌詞として言葉に凝って歌詞でも、実際に音にのせて歌ってみたら不自然だなっということもあるからね。それで比較するならば、僕は響きが良い方が歌詞は良いと思ってるね。あとは現状を映し出すような、どちらかというと抽象的に映し出すような書き方が好きかな。

JW:実は今回のアルバムですごく気に入っている歌詞があるんだ。「Candy Pieces All Smeared Out」の「two versions of me / One googles itself / And the other one lives free」っていうところなんだけど、それが若い人たちの現代ならではの悩みが表現されてる良い歌詞だと思ったよ。一方にはデジタルな世界に生きる完璧な自分がいて、でももう一方には完璧じゃないリアルな自分がいる。それを面白い書き方するなって思ったよ。

ーーそんな今作をライヴではどのように表現したいと考えているのでしょうか? ミューのライヴといえば、スクリーンに映し出される映像と楽曲のシンクロが魅力の一つだと思いますが、2015年の来日のときのライヴでは舞台演出が極力抑えられていたように記憶しています。

JB:確かにライヴのときに映像を使うっていうのはこのバンドの初期の頃から考えてきて、長い間続けてきたことなんだ。でもある時期そこから解放されたいと思って、2回やったツアーで視覚効果を使わないライヴをやったんだけれど、それはそういった自分たちの気持ちの変化と同時に、物理的に映像用の機材を持って行くのが無理だという状況もあってね。持って行けるとしても、それがフェスで昼間に出演するとなると、日差しとかでああいう視覚効果のある映像を使ってもはっきりとみえないんじゃないかという事情もあってできない場合もあるし。視覚効果を使う使わないっていう両方の選択肢としてあるということは、僕としてはいいことなのかなって思っているんだ。視覚効果がないということで、自分たちがより前に出るという部分もそれはそれで楽しいことでもあるしね。でもやっぱり視覚効果は僕の好きな部分でもあるし、僕らのライヴ・パフォーマンスでもかなり大きな部分であると思っているから、今回のツアーでは大々的にやるつもりなんだ。サイケデリックで万華鏡的な世界になると思うよ。これはかなり冒険的で、これを試すのはかなり怖いことだと思っているんだけどね。

JW:前作の『プラス・マイナス』に関して言えば、作りながら、自分たちがステージに立って演奏すれば楽曲として、演奏として成り立つっていう曲をアルバムに入れたいなという考え方を持っていたんだけれど、今作は割とコラージュ的な曲も多いから、それをライヴで表現するのはトリッキーな部分もあるかもしれないね。もちろん『ヴィジュアルズ』の再現を目指すけれども、アレンジはアルバムと少し違うものになると思うよ。そしてそれも魅力かなと思っていて、僕自身もバンドのライヴを観に行ったときに、果たして彼らはアルバムをどう再現するんだろうって思って観ていたりするんだけど、アルバムより生々しいものになっていたり、余計な部分が削ぎ落とされていたりしていて、それはそれでバンドの面白さだなと思って楽しめたりするからね。

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Text By Tetsuya Sakamoto

Photo By Riu Nakamura


Mew

Visuals

LABEL : PIAS / Hostess
CAT.No : HSE-4042
RELEASE DATE : 2017.4.21
PRICE : ¥2,490 + Tax

MEW Japan Tour 2017

2017/9/5(火)東京・渋谷Club Quattro
2017/9/6(水)東京・赤坂Blitz
2017/9/7(木)大阪・梅田Club Quattro

OPEN / START:18:30 / 19:30

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