Fishing the Bests #3 〜Another Perspective〜
「音楽の聴き方を変えているのは間違いなくインターネット」先日TURNで行ったインタビューでYoung-Gもこう語っていたように、実際インターネット上で音楽を聴く、あるいはクラウドで音楽を管理することは今では当たり前になっている。しかし、それらが急激に普及する中で、年齢や環境の違い、音楽を聴く者、音楽を作る者という立場の違いによってインターネットとの関係性はそれぞれ異なるだろう。本稿ではリスナーとしての視点ももちろん持ちながら作り手としてインターネット上のプラットフォームを活用するラッパー/ビートメイカー/DJ/オーガナイザーのyouheyheyをゲストに迎え、様々なサービスの位置付けや在り方の変遷について話を聞いた。インターネットが音楽とリスナーとの距離を縮めたであろうことはあなたにも実感があるだろう。もちろんアーティストへの収益分配の方法なども同様に変化している。今音楽を作っているアーティストたちがどう考え、どのように発信しているのか。それらを垣間見ることで私たちの間にある差異をも理解し楽しむことができるのではないだろうか。同時に、これからアーティストとして活動していこうと考えている方々にとっても非常に参考になるはずだ。ちなみに筆者の拙連載はインターネット上にある音楽を紹介していくというもので、本稿はその第3回目という形式をとっている。このインタビューはそういったインターネット上で音楽をディグする楽しみを広げてもくれることだろう。
youheyheyについてさらに説明しておくと、彼は音楽一家で育った東京出身の現在26歳。家族とは「27歳の誕生日までに音楽で食べていけるようにならなければ就職する」(音楽活動を辞めるという意味ではない)という約束を交わしているという。ある種タイムリミットが迫っている状況なのだ。だがそれはリスナーにとって、目が離せない状況とも言えるだろう。筆者も彼のファンの1人として、そんな要注目な今後の活動についても伺っている。もし彼の曲をまだ聴いたことがないという方がいたら下記のリンクからチェックした上でお読みいただければ幸いだ。
(取材・文・写真/高久大輝)
Interview with youheyhey
――様々な活動をされていますが、まずは何から始められたんですか?
youheyhey(以下、Y):母親がピアノの先生をやっていたので、自分もピアノを習わされていたのが1番最初になるのかもしれないです。あとは高校ではバンドを組んでドラムをやっていました。オリジナルの曲も作ったりしていたんですけど、他にはBUMP OF CHICKENのコピーとかで。あとはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのコピーをやった時だけボーカルでした。《YouTube》のどこかにライヴ動画がひとつだけ残っていた気がします。(笑)もしかしたらピッチ感やリズム感などにそういった経験が生きているのかもしれないです。今に直接繋がるものでいうとビートメイクが始まりですね。機材はみんなが使ってるようなMPCが欲しかったんですけど、ただ当時高一か高二くらいで(価格が)高くて。結局iPhoneで曲を作れるアプリを1000円くらいで買って始めました。当時はそういったアプリも今と比べてかなり少なかったですね。
――初めはどのような方法で音源を世の中に送り出していましたか?
Y:その使っていたiPhoneのアプリがアップデートして、直接《SoundCloud》に曲をアップできるようになっったんです。そこからですね。時期的には高校三年生くらいだと思います。名義もyouheyheyではなくてWABISABEATS(ワビサビーツ)って名前でやっていました。ただその名前はもう捨てたんですけどね(笑)。今も《SoundCloud》のURLはそのままになってます。
――初めはビートメイクがメインだったとのことなんですが、そこからラップを始めたのは何かきっかけがあったのですか?
Y:フリースタイルもどきみたいなことは高校三年生くらいでちょっとやったりはしていたんですけど。本格的にやるようになるのは早稲田大学のGALAXYっていうインカレに入ってからです。2MCのグループだったんですけど、その相方がGALAXYに誘ってくれて。俺も入ってそのままその相方と組んで始めたって感じですね。その相方とは完全に仲違いしてしまったんですけど(笑)。
――youheyheyさんはCDなどのフィジカルからクラウドで音楽を聴くようになるまでの過渡期にあたる世代だと思います。ネット上で音楽を聴く、あるいはネット上に音源をアップするというのはどういった感覚でしたか?
Y:もちろんCDは買っていました。ただデモCDを作ろうとかは頭に無くて、ネットにアップした方がより多くの人に聴いてもらえるだろうと考えていました。僕は《Myspace》が全盛期の頃はまだ音楽をしっかり始めていなくて、ちゃんと始めたときに音源をアップする方法が《SoundCloud》で、それが違和感なく自然だったんです。
――ネット上で繋がった仲間も多いですか?
Y:ほとんどそれしかない感じですね。そもそも音楽をやっている友達もいなかったし、ヒップホップが好きな友達もいなかったので、《Twitter》で日本語ラップが好きな友達とかを作って。さっき言った相方とかも初めはネットで仲良くなって、いっしょにサークルに入ってという流れでした。ネットの力は大きいですね。
――人間関係を作る上でも役立ってくれたということですね。《SoundCloud》は若手ラッパー/ビートメイカーの名刺替わりにもなっていますよね。
Y:そうですね。逆に《SoundCloud》に曲を上げてないやつどないなっとんねん!て思ったりします(笑)。
――ただyouheyheyさんが使い始めた時期だと日本では音楽好き以外盛り上がっているという感じはなかったですよね。
Y:やっぱり当時はいわゆる玄人の方が多かったイメージがあります。音楽好きな人がディグって聴いたり、使ったりしている印象でした。むしろ今の方が若い子が聴いていると思いますね。無料で聴けるのが大きいのかもしれないです。
――たしかに釈迦坊主さんがやっているイベント《TOKIO SHAMAN》などに集まっている若い子たちは《SoundCloud》を積極的に活用している気がします。
Y:《TOKIO SHAMAN》は出演者も観に来ている人も《SoundCloud》をかなり使っていると思います。僕もそのイベントに何回かDJで出演したことがあるんですけど、最初に行ったときは結構衝撃を受けましたね。「学校行ってんのか?」みたいな明らかに10代らしき若い子がすごいお洒落して来てて。僕の想像だと少し前だったらV系とかを好きになっていたような、いわゆるB-BOYとかではない若い子が来ているんじゃないかなと。特に来ている女の子を見ると思います。こんな子たち俺の高校のクラスにいなかったけどな…みたいな(笑)。あとは、LEXっていうラッパーを僕は全然知らなかったんですけど教えてもらって、聴いてみたらすごいかっこいよくて、《SoundCloud》の再生数もすごくて。若い子たちはSNSだったり口コミとかで広げていってるのかもしれないですね。
――若い子たちにとって無料で使えるストリーミング・サービスとしての《SoundCloud》というのは、大きいかもしれないですね。ちなみにyouheyheyさんが1番《SoundCloud》に熱中していた時期のことも教えてください。
Y:思い返すと記憶がミックステープが流行った時期と混同していて確信が持てないところもあるんですが、ひとつは大学生のときDJを始めて音楽の聴き方が変わったのが大きいですね。ひたすらDJで掛けれる曲を探していって。で、その頃フリーダウンロードがすごい流行っていたのもありますね。今はフリーにしている人も少なくなりましたけど。大学生で曲をたくさん買えなかったので、フリーでダウンロードしてDJで掛けられる曲を増やしていきました。あとはビートシーンみたいなものがあって、単純に《SoundCloud》から新しいビートが生まれている感じがあって。時期的にはカシミア・キャットや《SOULECTION》の面々がバンバン曲を上げてた頃ですかね。ちなみに自分が音楽を意識的に聴くようになったきっかけがKREVAなんですけど、KREVAがシングルとかに収録してるインストを使ったリミックスとかもたくさんアップされていて、《SoundCloud》を使い始めた当初はよく聴いていました。
――youheyheyさんにとって現在《SoundCloud》はどういった位置付けですか?
Y:《SoundCloud》だと日本では現状マネタイズができないので、新卒で就いた仕事を辞めて音楽で食べていきたいと思い始めてから《TuneCore》(ストリーミング・サービス等への配信を代行するサービス)を通して《Spotify》や《Apple Music》など各ストリーミング・サービスにアップしていくようになりました。《TuneCore》は最近スプリット機能(アーティストや楽曲関係者同士での楽曲収益の自動分配ができる新機能)が追加されたとのことなのでさらに利用しやすくなったと思います。ただ《SoundCloud》にはノリでアップして後から気に入らなくなったら消すみたいな気軽さがあったり、サンプリングを使ったビートやマッシュアップとかはクリアランスの関係もあまり気を使わなくていいのでアップしやすいですね。あとはやっぱり名刺替わり的なことと、さっき言ったように《SoundCloud》で聴いている若い子も多いのでそこにいるリスナーへの間口としても考えています。なので今後も更新は切らさないようにとは思っていますね。
――周囲の同世代のアーティストも同じような感覚だと思われますか?
Y:うーん、《SoundCloud》はみんな当たり前に使っていますけど、もっと他のところに露出したらいいのにと思ったりしますね。逆に《SoundCloud》の気軽さに慣れてしまっていて間口を狭めてしまっているかもしれないなと。《SoundCloud》で聴いていない人にも聴いてもらえる機会は大切だと思いますし、《TuneCore》の手続きも簡単なのでどんどんいろんなところで出していけばいいのに!と勝手に思っていますね。
――少々話が飛びますが、これからの活動についても教えてください。リリースを考えているものなどはありますか?
Y:今アルバムを作りたいなと思って制作しています。ただちょっとそこには入らないような曲が先に出来てしまっているのでアルバムの前にEPを頑張って秋中に出して、アルバムは今年中にと考えています。ビートのストックは鬼のように溜まっていますね。
――楽しみです。ちなみにこの先コラボしてみたいアーティストはいらっしゃいますか。
Y:ビートメイカーだと本当にたくさんいて。いつかラップで一緒にやってみたいなと思っているのはSeihoさんとかですかね。あとSnail’s Houseさんとも絶対にやってみたいですし、RAMZAさんも憧れの人です。うまく説明できないのですが立体的な構造をしているビートが好きなので、その上にラップを乗せてみたいです。あとはArµ-2さんともやってみたいですね。
――ぜひ実現することを願っています。少し脱線しますがSeihoさんといえば最近は《LINE》のオープンチャットの活用でも話題になっていましたね。
Y:セイホー界(Seihoの始めたトークルーム名)は僕も入っています。恥ずかしくて発言はしてないですけど面白いですよね。よく言われている《mixi》のコミュニティっぽさというか。流行るのかはわからないですけどこれを今やるっていうのはいいかもしれないですよね。Twitterのように流れていってしまわないので、掲示板というか、クローズドな空間でひとつの話題について話すような環境なので。ちなみに自分もトークルームを作っているので気になる方がいたらぜひ参加してみて欲しいですね。ただ使ってみて思ったのですが、やっぱり僕は《Twitter》みたいに誰に言うわけでもない独り言って感じのスタイルの方が好きかもですが。(笑)
――私もオープンチャットに参加していますが、独特な雰囲気があってワクワクしますね。これからこういったネット上のプラットフォームはどうなっていくと思いますか? あるいはどうなっていって欲しいという希望などはありますか?
Y:《SoundCloud》に関して言えばマネタイズができるようになるとさらにいいなと思いますね。すでに海外ではそういったアップデートがされているようなんですけど、日本は遅れているみたいで。あとこれは今の話ですけど、ビートメイクとかを始めてみたいと思っている人にとってはすごくいい環境があると思いますね。ネットで音楽を作る方法を簡単に調べることができるし、動画とかでも気軽に勉強できるので。僕もめっちゃ勉強していますし、自分もYouTuber的なノリでビートメイクの動画とかをやってみたいなってずっと思っているんですけど今のところまだ手がつけられてないですね。
――まだまだ挑戦したいことがたくさんあるんですね。よろしければ今後出演されるイベントなども教えてください。
Y:そうですね。直近だと9月21日に中目黒の《solfa》で《ROOMIE》という企画でDJします。それからオーガナイズしているイベント《Oll Korrect》(詳細ページ下部)でのDJを挟んで10月5日には福生の《Bar Sure Shot》で行われる《STAR IRIS vol.5》というイベントにも出演します。これから増えていくかもしれないので《Twitter》(@youheyhey)や《Instagram》(@youheyhey)などチェックしていただいて、タイミングが合えば是非遊びに来て欲しいです。
(9月21日編集部追記)10月4日に新宿《LOFT》で行われる《新宿フィールドミュージアム 2019 -SHIN-夜祭》にライヴとDJを合わせたセットで出演予定とのこと!
Text By Daiki Takaku
Oll Korrect
9.27 (Fri)
23:00-5:00
@中野heavysick ZERO
■Release Live
NF Zessho
■Live
ZELLBACH、Yoshinuma、18scott、Mid-S、JIVA Nel MONDO、J’Da Skit、NyQuilCaps
■DJ
Lbrain、Lick、youheyhey、tommy、IORY、YNZ、Bambi、Tatooine、miGkoshit、OK da Computer
■Beat Live
Leo Iwamura、zangi、Goofy Bap