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フジロック前の徹底論考
アーティストとして既に完成していた「Royals」から4年。ロードは如何にして更なる高みに到達したのか

06 July 2017 | By Daichi Yamamoto

2013年、ニュージーランドから現れたシンガーソングライター、ロードは16歳にして、デビュー・アルバム一枚だけによって、いや、デビュー・シングル一枚によって、既に完成していたように思えた。10代なりの批評眼でエンタメ界の物質主義を揶揄し、それをブリアルやジェームス・ブレイクに影響を受けたミニマムなプロダクションを用いて表現。ステージに立てば彼女にしか醸し出せないオーラが出ていたし、彼女が一度体を動かすだけで観衆からは大きな声が上がった。シングル「Royals」が9週連続全米一位を記録しグラミー賞の最優秀楽曲部門を受賞すると、デビュー・アルバム『ピュア・ヒロイン』は500万枚以上を売り上げた。コートニー・ラヴ、ジョーン・ジェット、セイント・ヴィンセントと共に立ったニルヴァーナのロックの殿堂入りを記念するパフォーマンスや、ブリット・アワードでのデヴィッド・ボウイの追悼パフォーマンスは、アーティストとしてのカリスマ性を備えていた両者に違わない彼女なりの神秘的なヴォーカルで絶賛の嵐。テイラー・スウィフトやレナ・ダナムといったセレブとも親しくなり、シンガーソングライターとしてのアーティスト性もエンタメ界における地位もすべてを確立させてしまっていた。それはもう、「どうしたらこれより更なる高みに達することが出来ようか」、というほどに。

 だが、彼女は更に大きく進化する道を選び、見事にそれを実現させた。このセカンド・アルバム『メロドラマ』は音楽的には前作と180度異なる方向へ向かったと言ってもいい。ソングライティングの力を伸ばし、より普遍的なストーリーを彼女なりにドキュメントすることで、カリスマティック過ぎた彼女はより身近な存在にもなった。結果的に、本作は今年リリースされた作品の中でもケンドリック・ラマーの『ダム.』に匹敵するほどの満場一致の傑作扱いとなっている。何がその変化と成功を可能にし、如何にしてこの『メロドラマ』というアルバムは誕生したのだろうか。

 まず、挙げるべきはリリックにおけるテーマの変化だ。本作は2015年に経験した、長年連れ添ったボーイフレンドとの失恋がきっかけになっており、その恋の一幕を「メロドラマ」と表している。恋の始まりを振り返ったり、次の一歩を踏み出したいけどいままでの恋が諦められなかったり…。気持ちが高まったり、ふと我に返って寂しい気持ちになったり…。これらはどれも10代、20代で誰しもが経験するストーリーといってもいいかもしれない。離れた場所に暮らし、普段は何も共有する事柄が無いように思える人々を結びつけてしまうものとしてのポップ・ソング―私たちはその歌が「自分のことを歌っている」と思った時ほど気持ちが入ってしまうものだ。『メロドラマ』におけるロードは明らかに “私たちのストーリー” を歌っている。

 前作、『ピュア・ヒロイン』におけるロードはどこか自信があって、クールでいて、世界で起きていることに対して少し距離を置いて眼差しを向けているように思えた。だが、『メロドラマ』におけるロードは、感情の起伏を正直に告白していて、不安でさえもいる。本作のエンディング「Perfect Places」では、「私たちは若くて恥を知っているから / 理想の場所へ連れていってよ」と高らかに叫びながらも、「今はもう一人で立っていられない / 理想の場所に “一緒に” 行こう」、そして最後には「理想の場所って一体何?」と歌っている。

 確かにロードというアーティストはファースト・アルバムで完成しきっていた。だが、それ故に若くしてあまりにカリスマティック過ぎた面さえあっただろう。本作は、前作において見つけることの出来なかった彼女の “一人の普通のティーンエイジャーである側面” を補うように、10代にして誰にも追い付けないような派手な成功を収めてしまっている彼女でさえも、私たちの近くにいて共感できるような女性で、完璧な人なんかじゃないことを教えてくれている。

 語られるストーリーがオルタナティブな視点のものからユニバーサルな経験へと変化したことは、それを表現するサウンドの変化も呼び起こした。本作から最初に公開されたダンス・ポップ「Green Light」が衝撃的であったように、『メロドラマ』の楽曲は前作と比べどれも迷いなくポップで、メロディ・ラインも鮮明である。

 そのソングライティングにおける変化を可能にし、本作を制作するうえで誰よりも彼女の力となったのは、他でもない、全曲を共作したジャック・アントノフだ。ファン.のソングライター兼ギタリスト、そしてブリーチャーズのフロントマンとしてお馴染みのアントノフは、テイラー・スイフトやカーリー・レイ・ジェプセン、サラ・バレリスといったポップ・シンガーの楽曲を共作したり、またチャーリー・XCXやシーアに自身の曲をカバーされるなど特に女性シンガーからのラブコールが止まない存在で、実はいまのポップ・シーンで最も欠かせない人物だ。彼の特徴といえばポップであることを一切恐れないようなキャッチ―なメロディのソングライティング、そして彼が影響を受けたという『明日なき暴走』期のブルース・スプリングスティーン譲りのパワフルで重層的に聴かせるウォール・オブ・サウンドのプロダクションである。

 例えば、「Green Lights」は前作の彼女からは想像できないほどアンセミックで躍動感に溢れているし、シンプルなピアノの弾き語りの「Liability」は先日のグラストンベリー・フェスティバルでも数万もの大観衆がスマートフォンを揺らしながら聴き入っていたのも印象的なスタンダードな美しいバラードだ。前作の楽曲はヒップホップの影響も匂わせドラムビートに重きが置かれていたが、本作では彼女とジャックがピアノを使って作曲を始めたというエピソードからもわかるように、メロディに重きが置かれている。

 またブラスが派手に響く「Sober」やカッティングしているだけなのにギターが力強く聴こえる「The Louvre」が象徴するように、本作の楽曲はどれもリヴァーヴが強く効き、アリーナでも通用するかのようにダイナミックに仕上げられている。こちらもポスト・ダブステップの手法に乗っ取ったミニマムなサウンドが主軸だった前作とは正反対である。ジャック・アントノフの力なしに、彼女が潔くポップに向かうことは難しかったかといっていい。

 最後にヴォーカル面での変化にも注目したい。本作における彼女はケイト・ブッシュやロビンと度々比較されている。例えば「Green Light」のクライマックスがブッシュの「Hounds of Love」と比較されているようにソングライティングにおいても彼女からの影響は感じられるのだが、同じことがボーカル・スタイルからも感じ取れる。『ピュア・ヒロイン』におけるロードといえば歌詞の内容がそうさせたのか、一つ一つのワードを重々しく発声していたイメージだったが、『メロドラマ』においては自身のパーソナルな感情の揺れ動きをそのまま表現するように、遠慮なく素直にエモーショナルになっているのだ。「Written in The Dark」に至っては、エフェクトがかけられた声までケイト・ブッシュそっくりだ。本作『メロドラマ』によってロードは自身のボーカルの表現の幅を広めることにも成功した。

 もちろんこの『メロドラマ』に時代に訴えかけるような政治性などはない。シーンの流れを一気に変えるような革新的なサウンドがあるわけでもない。だが、彼女のことを「明日(の音楽)を聴いているようだ」と話したデヴィッド・ボウイの言葉が嘘ではなかったことは明白となった。

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Text By Daichi Yamamoto


Lorde

Melodrama

LABEL : Universal Music / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
CAT.No : UICO-1292
RELEASE DATE : 2017.06.16
PRICE : ¥2,700(TAX included)

FUJI ROCK FESITVAL ’17

7.30(Sun) GREEN STAGE出演

■ロード OFFICIAL SITE
https://lorde.co.nz/

■ユニバーサルミュージックジャパンHP内 アーティスト情報
http://www.universal-music.co.jp/lorde/

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