音楽が聞きたくて知りたくて仙台の店に行く
【後編】
《SUPER GOOD》で知るジェームス・ブラウンのまだ見ぬ魅力。
年に一度の《定禅寺ストリートジャズフェスティバル》、幾つものジャズ喫茶やバー、老舗のレコード店の《ディスクノート》にはたくさんのジャズのレコードが売られている。そんな仙台には、ジャズのイメージがある。これは、高校時代までを宮城県で過ごした私の肌感にもあるものだ。けれど、この春、地元に戻って改めて仙台の街を歩いてみると、それまで思っていたイメージとは、また違う体験をすることができた。それは、《ロックカフェピーターパン》と、ソウルやファンクを聴くことができる《Cafe & Bar SUPER GOOD》で過ごす時間だ。
時々、思うことがある。ストリーミングを利用してずっと同じ姿勢で家で音楽を聴き続けることが、どこか物足りない。もし映画館のように向き合って音楽を鑑賞する場所があったらなと。その望みに近い場所は、クラブであったりライヴハウスであったりするのだけれど、それとはまた別にリスニングする時間を過ごしたい。自室以外で。移動中のイヤホン以外で。ジャズ喫茶も好きだけれど、ロックやソウルやファンクを聴きたいと思う日もある。そんなときに訪れたのが、この二軒だった。
実際に訪れると、音楽を聴く環境は整えられ、何より店主の選曲と会話から得る発見が嬉しい。お店を出るときには、体験や知識として持ち帰るものがあって、また色々な音楽を聴いてみたいという気持ちが湧きあがる。この二つのお店のそんな魅力が気になって、取材をさせてもらった。前編の《ピーターパン》に続き、後編では《SUPER GOOD》を訪ねた。
(取材・文・写真/加藤孔紀)
「ジェームス・ブラウンは多彩な面を持っている人」《SUPER GOOD》が提案する再発見
2018年の7月に地元である仙台にオープンし、今年で5周年を迎えた《Cafe & Bar SUPER GOOD》。店主は、ジェームス・ブラウンの愛好家である佐藤潔さんと、潔さん曰く「ディープ・ソウルやブルースでは敵わない」という佐藤保奈美さんの二人が夫婦で経営。ソウルやファンクを中心に選曲された店内で過ごしていると、思わず体を揺らしてしまう。しかし、ここにはクラブともまた違う体験がある。
「《Sugar Shack》のように開けたロケーションでお店をやりたかった」、そう話してくれた潔さん。以前、仙台の立町にはソウルやR&Bが聴ける《Sugar Shack》というお店があった。そこに通っていた潔さんの希望で、現在の場所に開店することを決めたという。仙台駅から徒歩10分、定禅寺通りと駅前通りが交わる広々とした交差点を見張らせる場所だ。
今回は、保奈美さんの意向もあり、潔さんを中心にインタヴューをしたが、適宜、保奈美さんにも話を聞かせてもらった。ジェームス・ブラウンといえば、多くの人が知るソウル、ファンクのスター。まずは、潔さんがジェームス・ブラウンに夢中になり、国内でも有数のコレクターになるまでの経緯から聞いていった。
「私は今年で61歳なんですけど、幼少の頃は歌謡曲とかを聴いていました。少し上の兄が1970年前後のブラス・ロックを、具体的にはシカゴやブラッド・スウェッド・アンド・ティアーズ、チェイスとかを好きになって、それらを強制的にトランプをしながら聴かされるというのがありまして(笑)。そこで、ブラック・ミュージックに対する下地が付いた感じがあります。それから、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの曲をラジオで聴いて、かっこいいなと。レコードも買うようになって、中学、高校時代はブラック・ミュージック、ディスコが流行っていた時代だったので聴くようになりました」
1970年代のブラス・ロック、ディスコのブームが入り口に、ジェームス・ブラウンの音楽との出会いは一本のカセット・テープの存在があった。「兄の友人が、ウエスト・ロード・ブルース・バンドの小堀さんが作ったカセット・テープをお土産に持って来てくれた」という。そこには、ソウルやR&Bの楽曲が収録されていた。
「その中にジェームス・ブラウンの『Sex Machine』のライヴ・バージョンが入っていて、それを聴いて衝撃を受けて。イントロからリズムのある喋りが始まって、曲もずっと同じって言うと失礼なんですけども(笑)。リズムの塊みたいな内容で、今まで聴いていたアース・ウィンド・アンド・ファイアーみたいなポップな音楽とは全然違うと思ったんです。これは一体なんだ? って。80年代の学生時代は、流行のヒップホップやブラック・ミュージックの新譜を買って聴いてたり、引き続きジェームス・ブラウンのレコードも集めたりしながら、来日したらライヴも観に行って。会社勤めをしていたんですけど、レコードのコレクションも増えてきて、皆さんに聴いていただきたいなと思って、5年前にお店を開くことに至りました」
潔さんはジェームス・ブラウンを軸にしながら、様々な音楽を交え、関連させながら選曲をしてくれる。例えば、私が電子音楽が好きだということを伝えたら、Moogのシンセサイザーの音を聞くことができるディック・ハイマンの『The Age Of Electronicus』(1969年)をかけてくれた。この作品には、ジェームス・ブラウンの「Give It Up Or Turnit A Loose」のカヴァー曲が収録されている。潔さんのリスニングの範囲は多岐に及ぶ。
「ジェームス・ブラウンをメインとした収集にはなるんですけど、カヴァー曲もコレクションしています。ファンクを中心としたジャンルからコレクションを広げて、とはいえジェームス・ブラウンも非常に幅が広い人ですから追いきれないところも。カントリー調の曲があったりとか、未発表ですけどレゲエではスライ&ロビーと一緒にセッションしたものとか。そういう振れ幅が広い人で、追いかけることでコレクションが広がった部分があります」
ジェームス・ブラウンを聴いてもらいたいという想いがある一方で、「お客様とのコミュニケーションを通して、一番親しめるような部分から入って提案させてもらっています」と話す。その選曲は、私たちに音楽の魅力を伝える柔軟で最良の方法ではないだろうか。また、時折、楽曲の詳細や音楽家の紹介も交えながら、文脈を意識させてくれる選曲が印象に残った。
「そこはすごく意識するところです。プレイする曲があったら、その年代、ジャンル、レコーディングをした日、場所、レコーディング・メンバーとか、そういったこととお客様の興味が繋がるような提案とセレクトをすることを心がけています。なかなかバシッと合うことは少ないんですけれども(笑)。関連の無いものにパッと切り替えたりすることもありますが、そこは意識しています」
そんな店内で時間を過ごしていると、まるで本を読みながらダンスしているような不思議な充実感を得ることができる。ふとカウンターの中に目を移せば保奈美さんが音楽でリズムを取りながら接客してくれ、DJブースでは潔さんが知識と経験を元に選曲をしてくれる。そんな二人の役割は、まるでプロデューサーと音楽家または編集者とライターのようなバランスで成り立っているという感じがした。
潔さんは「お店でスイッチが入って、クラブでDJするようにダーッといってしまうこともたまにあるんです(笑)。そうすると妻が『はいはいはいはい』と間に入ってくれて、すごく助かっています」と、保奈美さんの俯瞰した視点に感謝を語る。保奈美さんは「お客様によって音楽に身を委ねたい方、良い音楽で楽しくなりたい方、もっと知りたい深く掘りたい方と、それぞれいらっしゃるので。潔さんが苦労して選曲してるのも見ていて分かるんです」と想いを話してくれた。二人のバランスが、このお店独自のスタイルを成立させていることが分かってくる。
潔さんは、お店以外でも執筆活動や仙台のイベントでDJをしている人だ。店名の由来も開店前に仲間と開催していたイベント名から取られているという。
「以前、ソウルやファンクから歌謡曲までを7インチ・レコードでかけるイベントをやっていて。ジェームス・ブラウンに「Super Bad」という曲があるんですけど、そのアンサーソングでヴィッキー・アンダーソンの「Super Good」という曲があって。そこからとっています。そういった思い入れがあったものですから、お店は《SUPER GOOD》にしたいなと。お客様から『すごい名前つけますね?』と言われることもあるんですが(笑)その度に説明をしています」
店名の由来の他にも、来店したら気になるものがある。店内に設置されたジュークボックスだ。過去にはピーター・バラカンが来店して「当時の音だ」と言ったほどのものだという。1975年あたりに作られたというウーリッツァー社製のモデルで、重さは130kg。実際に音を聴いてみると想像以上の迫力に驚く。
「私が中学校くらいのとき、仙台の《藤崎百貨店》の屋上にジュークボックスがあったんですよね。そこのゲームコーナーにゲームしたさに行っていました(笑)。当時、大ヒットしていた布施明さんの「シクラメンのかほり」(1975年)が自動演奏で何度も何度もかかってるのが、すごく頭の中に残っていて。凄い音だなぁと思いながら聴いていたんです。その音が忘れられなくて、百貨店にあったものとは違うものなんですが、20年位前にコレクターの方から譲っていただきました。当初は部屋に置いてあったんです(笑)」
最後に、2023年に店内で選曲したいレコードを選んでもらった。勿論、ジェームス・ブラウンの一枚だが、「ジェームス・ブラウンは、まだ非常に評価が低いなという気持ちが強いんですね。本国だとしても、レコードが全部聴けるような、アーカイブを持っているような記念館はないですから」という話を聴いて、驚きがあった。世界的に知られているスターだが、まだまだ発見が多いミュージシャンだと潔さんは強調する。
「『Soul On Top』(1970年)というアルバムですね。ジャズ・オーケストラにルイ・ベルソンというジャズのドラマーが入って、オリヴァー・ネルソンというジャズのサックス奏者が指揮とアレンジも行った作品です。一般的にジェームス・ブラウンっていうと『ゲロッパ!』とシャウトするようなイメージが非常に強い。歌が非常に上手いこと、しかもジャズも自分の解釈で歌えるというような認識が、なかなかなされていないなと。一般の方からすると意外な面、多彩な面を知ってもらうために『Soul On Top』の中から何曲かプレイをしていることが多いです。私ももう40年くらいジェームス・ブラウンを聴いてるんですけど、それでも新たな発見があったり。天才というと言い過ぎかもしれませんが、非常に素晴らしいミュージシャンです」
その再発見の可能性を話しながら、《SUPER GOOD》で音楽を聴く体験についての想いを聞かせてくれた。
「今はもう音楽を聴くという行為がほぼ無料で出来るわけですよね。そうではなくて、色々なお客様がいらっしゃる閉じられた空間の中で、スピーカーから出る音を体験してもらう。ほとんどライヴに近い体験という風に、お店を捉えていただけると嬉しいなと思っています」
一方で、保奈美さんが選んだ一枚はサム・クックのライヴ盤だ。選盤の理由と合わせて、5年間で感じたお店の変化について聞かせてくれた。
「何度も何度も聴いたアルバムの『Live At The Harlem Square Club, 1963』(1963年)です。前の仕事がしんどい時もどんな時も、これを聴いて元気が出た。会場の一体感もあるし、何度も聴いています。(お店について)最初の頃は、どんなお客様にも楽しんでほしくて、色んな曲をかけていたんです。けれど、お店の色も少しずつ出していけたらいいなと。今は、お店なりの選曲ができるようになってきたかなと感じています。潔さんが聴いてきた好きな曲ということにはなるんですけれども。聴いてほしい曲をちょっとずつかけられてるかなって思っています」
Cafe & Bar SUPER GOOD
営業日:月曜〜木曜 18:00-22:00
金曜・土曜 18:00-24:00
定休日:日曜・祝日
住所:宮城県仙台市青葉区錦町1丁目1−1錦町スクエア1F
https://cafebar-supergood.com
Text By Koki Kato
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