「音楽っておもろいか、おもろくないか、そこが一番大事」
自称ヌーヴェルヴァーグ・ラップ?
BYORAが語るファースト・アルバム『jun!』
Interview with Shogo Mochizuki, Urban and MÜKÜ(BYORA)
「他の2人は俺より一個上なんです。もともと俺とUrbanは地元が綾瀬の方でいっしょで、学校もいっしょで、サッカー・チームもいっしょで、家族ぐるみで仲良くて。俺が高校を卒業したあと、サッカーのときに会ったUrbanの高校の友達がMÜKÜ。それからよく3人で遊んでいて、3人でよく遊んでいるならライヴしてもらおう、みたいなことに俺らがいないとこでなっちゃって。ライヴが決まっちゃったから曲も急いで作んなきゃいけなくて。で、それで曲の作り方覚えたから作って出そうって感じでここまできちゃった」
道玄坂の飲み屋街とホテル街を見下ろすように立つ古びたマンションの一室、時間貸しの殺風景なレンタルルームで、Shogo Mochizukiは簡潔にBYORAの成り立ちを説明する。まだ謎の多いこの20代前半、東京の下町出身の3人組は、自身らに付着するイメージを戦略的に動かそうとはしていないようだ。ラップに加え、プロデュースも務めるShogoは続ける。
「名前もテキトーで。Urbanの実家の工場の事務所に集まって、そこに“鋲螺”って文字が書いてあったからそうしただけ。コナンくんといっしょ(笑)。明確な意図なんてないんです」
「本当にだらだら遊んでいて。3人とも共通してウータンとかMONJUが好きだったのはあるけど、流れでなっちゃっただけで、俺らはもともとラッパーを志してないし、それでスターになろうなんて気持ちでは始めていないんです。未だにない」
「『jun!』っていうアルバム・タイトルもUrbanのお父さんからで。ジュンくんって呼んでるんですけど、BYORA工場のボスなんで。それもノリで決めてますね」
左からMÜKÜ、Urban、Shogo Mochizuki
だが、少なくとも12月3日にリリースされたBYORAのファースト・アルバム『jun!』は、現在の──スターへの階段が整備され、評価軸がある程度画一化された──日本語ラップ・シーンに対して、強烈なカウンター・パンチを浴びせている。縦横無尽に躍動するサウンド・コラージュ、薄っすらとくぐもった音像、8小節や4小節と比較的矢継ぎ早に繋がれるマイク……そこにある音は、既存のジャンルに振り分けるための古臭い問いかけを無視して、エネルギッシュに展開し続ける。
あるいは、『jun!』の周辺に目を向けてみよう。ミックス/マスタリングを担当しているのはポップ・ミュージック・シーンを暗躍するGiorgio Blaise Givvn。アーティスト・ヴィジュアルを担当しているのはアーティスト/写真家/ディレクター/キュレーターとして国内外で活躍する蔦村吉祥丸。リード・トラック「goodluck」のMVはスクイッドやbetcover!!の作品も手掛ける映像作家、達上空也が担当。Shogoと共にプロデューサーとしてクレジットされているCULTのMFDPを含め、他にも『jun!』の周辺には感性の鋭いアーティストたちが名を連ねているが、要するにサウンドもヴィジュアルもはっきりと野心的なのだ。
そして、何よりも注目すべきは、彼らが自身らの音楽性をヌーヴェルヴァーグ・ラップと自称している点にある。Shogoは言う。
「ジャンルってマインドじゃないですか。ラップだからヒップホップってわけじゃないし、管楽器が入っていたらジャズってわけでもなく、ギターが入っていたらロックって話でもない。そう思っているときに俺らって何か考えて、最初はプログレッシヴ・ラップって言っていたんです。何でもありだから。で、YouTubeで無断転載されたゴダールのラジオを聴いたときに、ヌーヴェルバーグって言っていてピンときたんです。批評家たちがペンをカメラに持ち替えて、時代が違えばパンクと呼ばれたかもしれないし、ニューウェーヴと呼ばれたかもしれないし、オルタナティヴと呼ばれたかもしれない、みたいなナレーションから始まるんですけど、これだなって(笑)。面白いことやりたいんですよ。音楽っておもろいか、おもろくないか、そこが一番大事なんで」
ヌーヴェルヴァーグとは、簡単に説明すればフランスで興った映画史における一つの潮流であり、若き批評家たちが下積み経験なしに映画監督としてデビューし作品を発表、当時主流とされた詩的リアリズム作品への痛烈なカウンターともなったムーヴメントである。Apple MusicのBYORAのバイオグラフィー(そこにはウータン・クランをはじめ、ピンク・フロイド、ビートルズ、ビョーク、スロッビング・グリッスル、フランク・ザッパといった名前が並ぶ)から彼らの影響元のおおよそは把握できるが、それはそれとして、では、彼らはこの時代にそれらをどう咀嚼しどのようにぶつけようとしたのだろうか。あえて言葉にしてほしいと伝えると、Shogoは首をひねりながら話し始める。
「X-Cetraの『Summer 2000』みたいな、お泊まり会のヴァイブスじゃないけど、MÜKÜの家に集まってみんなで作っている空気、ノリをそのまま投影したかったんです。だから『jun!』に何個か入っているヴォーカルのサンプルをとってみても、普段から観ているわけじゃないのにジャック・リヴェットのインタヴュー音源を引っ張ってくるようなことはなるべくしないようにしていて。観ていたYouTubeの履歴とか、そういう生きている上で得た文脈みたいなものを大事にして作りました。例えば、ある曲にはリアムの音声が入っているけど、俺はオアシスがかっこいいとは全然思っていないし、好きでもない。でもたまたま作っているときに観ていたから使ってる。良いこと言ってるってのもありますけどね(笑)」
彼らの音楽が予測の外側からリスナーを驚かせる理由とシーンに衝撃を与える理由が同時に明かされたとも言えるだろう。つまり、意図しないこと。もしくは意図して打算をなくすこと。言い方を変えれば、『jun!』は金の匂いに敏感にならざるを得ない後期資本主義社会と、それを内面化し続ける人々へ贈られる花束なのだ。そこでは個々の生の実感が瑞々しく花を咲かせている。
例えば「brat」という曲のタイトルや、「attack on titan」に使用されるサンプルなどからは打算めいたものを感じなくもないが、それがこちらの思い過ごしであることをまっすぐ説明するShogoに嘘はないだろう。
「そういうことが起こり続けたんですよね。どちらも曲をリリースする前にチャーリーxcxが『BRAT』を出して、タイラー・ザ・クリエイターが『CHROMAKOPIA』を出しちゃうみたいな。偶然重なっただけで、同時代性なのかもしれないけど悔しいです。気持ち的には、もう5歩先に行きたい」
BYORAの面白いところは、3者が現在のラップ・シーンよりも他のシーンに興味がある点で同意しつつ、それぞれ確固たる個性を持つ点にもある。Shogoがむしろギース(Geese)やブラック・ミディに共感すると語る一方で、静かに話を聞いていたUrbanが口を開く。
「結成した頃はBUDDHA BRANDやOZROSAURUSとか、日本語ラップが好きで聴いていて。今はいろんな国内のラッパーの新譜が出たらとりあえず聴いて、ただヤバいかヤバくないか、みたいな。あと自分たちのものも含めて、アートワークやヴィジュアル面とか、そういうところは正直興味がないんです。音楽の手法の一つのラップってものにすごく集中していて。だからそれ以外に興味がない」
「彼は音楽というよりラップに取り憑かれちゃった男なんです」とShogoが補足すると、2人の間で優しい笑みを浮かべるMÜKÜがおどける。
「俺は90sとかジャズっぽい、ザ・ルーツとかを聴いていて、そこからLightheadedとかアングラに入っていって。そこをずっと聴いていましたね。ヌーヴェルヴァーグ・ラップ、めちゃくちゃ良いですよね。まず響きが最高で(笑)」
ラップの作り方も三者三様だ。
Shogo Mochizuki:基本的に俺らが作るときはテーマとか決まってなくて。いつも俺がMÜKÜん家で作って、MFDPのところに持って行ってトラックを完成させて、2人にラップを入れてほしい場所と曲名だけ伝えてファイルを送るんです。だからみんな言ってることが全然違う。音的に気になることがあれば言うけど、リリックには口出ししないし、俺自身もリリックをめっちゃテキトーに書いているし。そもそもリリックを大事にしないタイプなんで、音楽において。
MÜKÜ:俺は宇宙語でバーっとやってそれをShogoに聴いてもらってノリが合っているかどうか聞いてもらって。それに言葉を当てはめていく。そこからめっちゃ時間がかかる(笑)。
Urban:リリックをいっぱいストックしていて。俺はそれに合うものと気持ちがバチッとハマれば早くて。今回は、というか全部そうだけど結構直接的に、しゃべっている中で出る言葉をそのまま使っているから。平気で死ねとか、クソだのなんだの言っちゃってますね(笑)。
もちろん共通点はいくつもある。目標もそうだ。Shogoは冗談めいた口調で話す。
「俺らの目標は二つあって。一つはクレイジージャーニーに出ること。あとはApple Musicのバイオにも書いてあるんですけど、W杯を観に行くために世界ツアーを組むこと。W杯あるからやろうぜって海外のエージェントがツアーを組んでくれるくらいになれたら嬉しいです(笑)」
まずは、「ハンパじゃないことになる」と彼らが豪語する、12月20日、表参道《WALL&WALL》でのワンマン・ライヴを楽しみに待とう。ちなみにDJでCOMPUMAも出演。ここにも彼ららしさがある。
<了>
(インタヴュー・文/高久大輝 写真/菊地佑樹)
Text By Daiki Takaku
Photo By Yuki Kikuchi
2025.12.20.Sat
jun! release oneman
at WALL & WALL 表参道
OPEN 18:00 / START 18:30
BYORA(LIVE)
COMPUMA(DJ)
チケットは以下から
https://t.livepocket.jp/e/byora_
