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息苦しい時代こそ輝くアニマル・コレクティヴの遊び心
対談:木津毅×岡村詩野

05 December 2024 | By Tsuyoshi Kizu / Shino Okamura

アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアのニュー・ソロ・アルバム『Sinister Grift』が来年2月28日にリリースされる。先行曲「Defence」はダブを通過した耳で作った新時代のウォール・オブ・サウンド・ポップといった仕上がりで、ソニック・ブームとのコラボレーションやダブ・アルバムを経ての新機軸が俄然楽しみになったというリスナーも多いことだろう。

2020年代に入ってからのアニマル・コレクティヴは、作品のリリース自体少なくなっていたその前の約10年を取り返すかのように精力的だ。『Time Skiffs』(2022年)、『Isn’t It Now』(2023年)と2年連続でアルバムを届けてくれただけではなく、A24制作のテレビ・ドラマ『インスペクション ここで生きる』(原題:The Inspection 2022年)のサントラを手がけたりもした。前述のパンダ・ベアとソニック・ブームとのコラボレーションだけでなく、エイヴィー・テアも昨年ソロ・アルバム『7s』をリリース。エイヴィーは今年6月にはパンダ・ベアとの共演でシングル「Vampire Tongues」を発表している。ジオロジストも来年1月にダグ・ショウとの共演アルバム『A Shaw Deal』をリリースする予定だ。個別の活動を自在に展開しながら、バンドとして持ち前の遊び心に加え、さらに多層的、体系的に捉えて形にする技術を身につけた彼らは、これから新たなピークを迎えそうな予感もする。

そんなアニマル・コレクティヴの『Sung Tongs』(2004年)、『Merriweather Post Pavillion』(2009年)の2作品が先ごろリイシューされた。錯視、知覚心理学を専門とする日本の心理学者の北岡明佳によるジャケットがインパクトを放つ『Merriweather Post Pavillion』が世界的高評価を得て最大の成功を収めた作品だとしたら、実質的にはパンダ・ベアとエイヴィー・テアの二人を中心に制作された通算5作目『Sung Tongs』はその後の『Feels』(2005年)、『Strawberry Jam』(2007年)と段階を踏んで駆け上がっていく輝かしい黄金期の序章と言ってもいいのではないだろうか。そこで、今、改めて他に代え難い彼らの魅力を考えるべく、昨年、日本で制作された冊子『ANIMAL COLLECTIVE GUIDEBOOK』(TURN監修)に掲載されていた木津毅と岡村詩野による対談記事をここに再掲する。窮屈な今の時代にこそ求められるアニマル・コレクティヴの本質を手繰る一助になれば幸いだ。
(文/岡村詩野 協力/小熊俊哉)


Talk Session with Tsuyoshi Kizu and Shino Okamura

ブルックリンの「表」と「裏」

木津毅(以下、K):2023年8月に日本で劇場公開された『インスペクション ここで生きる』という映画があって。黒人でゲイの映画監督、エレガンス・ブラットンが2000年代半ばに海軍に入った際の実体験を基にした作品なんですけど、監督が当時のインディ・ロックをすごく好きだったらしくて、アニマル・コレクティヴ(以下、アニコレ)が音楽を担当しているんですよ。で、この映画のトーク・イヴェントに僕が出演したとき「音楽についても説明してください」と依頼されたんですけど、アニコレって多面的なバンドなので、当時の文脈やシーンをあまり知らない人に説明するのがすごく難しいなと感じました。なので、まずはゼロ年代のUSインディーの空気感、彼らが登場したブルックリンのシーンの様相から振り返ったほうがわかりやすいと思うんですよね。

岡村詩野(以下、O):2000年代初頭のNYやブルックリン周りって、有名どころだとストロークス、ヤー・ヤー・ヤーズとかに代表される「ガレージ・ロックの復権」のような動きが大きなトレンドだったと思うんです。でも、アニコレってそうした潮流にいるバンドではなかったし、そもそも得体の知れない存在だった。最初はメンバーの名前も明かしておらず、顔写真も出していなくて、ブルックリンが拠点ということさえわからなかった。ただ、来日したときに話を聞くと、ダーティー・プロジェクターズとか周辺のバンドとも繋がっているし、みんなで古いものから新しいものまで様々な音源をシェアしていると。そして、聴いているものを自分たちの音楽にフィードバックしながら、それぞれ独自のサウンドを作ろうとしているんだとわかった。そういった環境が当時のNYにおけるアンダーグラウンドなシーンを作っていったんですよね。

K:僕が最初にアニコレを知ったのは2003年の『Here Comes the Indian(現・Ark)』か2004年の『Sung Tongs』だったと思うんですけど、当時はジャッキー・オー・マザーファッカーなんかと一緒にフリー・フォーク〜フリーク・フォークという文脈で語られていましたよね。加えて、エレクトロニカやポストロックとも接続している印象でした。やっぱり初期はブラック・ダイスとの繋がりがすごく重要じゃないですか。ブラック・ダイスは《DFA》からリリースしていましたし、どちらもNYのアンダーグラウンドの空気から出てきたバンドだという感じもありました。

O:ストロークスが当時のNYの表側だとすると、彼らは裏側というか。いわゆる商業的な成功/スターダムに向かう流れとは別のヴェクトルを出発点にしていた。ただ、パンダ・ベアに言わせると、ストロークスなどを嫌っていたわけではないんですね。ブルックリン周辺も決して広くないので、様々なタイプのバンド、アーティストのことを互いに尊重し合いながら活動していたのでしょう。とはいえ、アニコレは華やかさやスター性、記名性といったものと距離を取ろうという意識を明確に持っていました。私は最初そこが面白いと感じました。

K:匿名性であるとか、ロックスター的なものから離れるスタンスというのは、やっぱり当時のポストロック〜エレクトロニカ的な価値観だと思います。初期の彼らのコアがそこにあったというのは重要なポイントですよね。

エスケーピズムと時代精神

O:アニコレは早い段階でフォー・テットことキーラン・ヘブデンとも繋がっていました。彼らにヴァシュティ・バニヤン(フリー・フォークのルーツとして再評価された、ロンドン出身で1945年生まれのシンガーソングライター)を紹介したのもフォー・テットらしいです。メンバー同士でヴァシュティのアルバム『Just Another Diamond Day』(1970年)にハマっていたみたいなんですけど、当時は彼女が生きているかさえもはっきりしない状態だった。そのときに何かのフェスでフォー・テットが紹介してくれて、2005年の共演EP『Prospect Hummer』に結実すると。

K:へぇ〜、そうなんですね。やっぱり初期のアニコレはすごく独特な立ち位置ですよね。音楽的にもフォークがベースにはあるんだけど、音響的な実験をコラージュ的にしていますし、当時からノイズやアヴァンギャルドとの親和性も高くて。

O:とはいえ、パンダ・ベアは初期からずっとアコギの303を使って作曲しているんですよね。だから、曲作りは案外フォークのスタンダードというか。変な楽器を使ったり、変わった音を鳴らしたりという面を中心にはしていない。ただヘタウマなだけとか、技術が伴ってないからアイデア勝負するといったバンドでは最初からなかったと思います。歌や演奏のスキルに重きを置いてはいなかったけれど。

K:「チャイルディッシュ」という形容が当時の批評によく登場していましたよね。実際に『Campfire Songs』(2003年)というアルバムもあるけれど、ちゃんとしたものを作ろうとはせず、仲間内でキャンプファイヤーを囲んで適当に歌っている感じはあった。

O:パンダ・ベアの声って、声変わりする前の少年のようなトーンじゃないですか。マッチョじゃない、成熟していないがゆえの良さがある。

K:初期のアニコレはとくに逸脱的な音楽だと思うんですよね。2004〜2005年のアメリカはブッシュ政権のもとでイラク戦争が起きていた頃。そういう社会背景のなか、ブライト・アイズがインディー発のスターになり、ある種の社会派フォーク・ミュージシャンという役割を担っていた。その一方でアニコレはエスケーピズムを担っていたわけですよね。「社会と対峙するためのフォークではない」というのもポイントだった気がして。

O:メッセージを過剰に乗せるバンドではないですしね。

K:声にもすごくエフェクトをかけるし、歌詞も意味よりも響きを重要視していたように思います。ただ、政治的なメッセージを発していないから、社会的なバンドではないかというと、実はそうでもないんじゃないかなと僕は思っていて。成熟を拒否する態度や逸脱していこうとする態度って、当時の戦時下にあったアメリカでは異質なものとして映ったと思うんです。そうした意識は 2005年の『Feels』以降、アティテュードを変えないままポップ化していく流れに繋がっていくんじゃないかなと。

「最先端」であり続けた黄金期

O:メッセージを過剰に乗せない……と言いましたけど、ある時期から変化していくんです。『Feels』と『Strawberry Jam』(2007年)は日本で彼らを聴く人が一気に増えた時期の作品ですけど、後者に「Cuckoo Cuckoo」という曲が入っていて。この曲の歌詞はアメリカ社会に対しての絶望とか、それでも希望を諦めきれないこと、美しさを見出していくことについて歌っていて、リリース当時すごく驚いたんです。アニコレは実はアメリカの敗北主義を以前から背負っていて、それをついに言葉にしたのか、という印象を受けたんですよね。

K:『Strawberry Jam』の「Fireworks」なんかはすごくポップだし、フレーミング・リップスやマーキュリー・レヴといったソフト・サイケが好きな層もアニコレを聴くようになったり、リスナー層の幅が広がった感じがしましたよね。2007年くらいになると、ダーティー・プロジェクターズやグリズリー・ベアもかなり注目されるようになってきて。

O:そうですね。ヴァンパイア・ウィークエンドやTV・オン・ザ・レディオも登場して、「ブルックリンがおもしろい!」という空気になっていましたよね。

K:音楽性はそれぞれのバンドで異なっているし、すごく多様で折衷的なシーンが形成されていって。全体的に知的なイメージがありました。ただ、そのなかでもちょっとアニコレは浮いていた気がしています。彼らは音楽をインテリジェントに洗練させるのではなく、あえてガチャガチャした感じを残すことをずっと大事にしていたと思うんです。チャイルディッシュな遊び心や実験の遊戯性が根幹にあった。完成形をめざすのでなく、未完成のまま放り出すという感覚こそが、シーンのなかでもアニコレを輝かせていたんだと思います。

O:もともと4人はボルチモアで10代の頃からの遊び友達で、大学に入ってから再び合流してニューヨークで音楽を作るようになっています。手探りで作曲や宅録をしながら、自分たちなりのやり方を探してきて、2000年夏くらいに一つの形が出来上がった、とパンダ・ベアが話してくれたことがあります。そして、『Feels』と『Strawberry Jam』を経て2009年の『Merriweather Post Pavilion』で一気に音がファットになるわけですけど、いきなりプロっぽい作り方にしようとか考えたわけじゃなくて、手作りの感覚は変わらないままでした。これまでの積み重ねがあってこその大きな化学反応が、あそこで起きたんだと思います。

K:『Merriweather……』は「最高傑作を作ってきた!」という感じがしましたよね。同年には当時のインディーを代表する アーティストが集結したコンピレーション『Dark Was The Night』がリリースされ、そのプロデュースを務めたアーロン&ブライスのデスナー兄弟を擁するザ・ナショナルが本格的にブレイクし、ブルックリンの盛り上がりも最高潮に達しているなかで「これが真打ち」という作品がリリースされた。当時は今よりも《Pitchfork》の求心力が強かった時代で、デビュー時からずっと《Pitchfork》が推してきたアニコレがついにとんでもないアルバムを作ったという(レビューで10点満点中9.6を獲得)。いろいろな面でピークだった気がします。

O:すごく洗練されたアルバムでしたよね。あの時代のブルックリンの多彩さを象徴するようなサウンドで、それをよくぞここまで綺麗にまとめたなと思いました。『Merriweather……』は「My Girls」とかポップなフックを持った曲も多いじゃないですか。そこは彼ら自身もトライしたんだと思うし、アニコレはここで頂点に上り詰めたんだと思う。ジャケットもかっこいいですよね。

K:そうそう。目の錯覚で柄が動いて見えるジャケットでしたよね。あの当時、忘れられていたサイケデリック・カルチャー への無邪気な接続があったと思う。ザ・ナショナルが左派の立場からグレイトフル・デッドを再評価していたような視点とは違う、もっとイノセントな感覚でサイケを提示していた。岡村さんが仰るように「My Girls」とか「Summertime Clothes」 といったラジオ・フレンドリーなシングルがあったというのも大きかったと思います。あとは、パンダ・ベアの『Person Pitch』が2007年にリリースされたじゃないですか。チルウェイヴやインターネット以降のアンビエント・ポップの元祖となったアルバムであり、《Pitchfork》の同年のベスト・アルバムにも選ばれた作品。その『Person Pitch』の流れを汲んだうえで、『Merriweather……』で爆発したという感じがします。

再び輝きを取り戻すまでの過程

O:『Merriweather……』のあと、2010年代のアニコレは難しい時期に入りますけど(苦笑)。次の段階に行こうとするけど、なかなか辿り着けないみたいな。もどかしい状態になっていましたよね。

K:シーンとしても移行期に入っていましたよね。例えばフォークにしても、ボン・イヴェールやフリート・フォクシーズなどの台頭もあって様相が変わっていった印象です。

O:ボン・イヴェールはヒップホップと接続していく感覚を持っていたし、カニエ・ウエストから気に入られたみたいなポイントも含めて、新しい世代の登場を感じさせましたよね。アニコレはブラック・ミュージックの要素が表向きは希薄じゃないですか。本人たちは好きで聴いているとは思うけれど。

K:2000年代のUSインディーはTV・オン・ザ・レディオやセイント・ヴィンセントみたいな例外はありつつ、まだまだ白人男性が中心のシーンだったと思うんです。それが2010年代に入ると、人種的にもジェンダー的にもより多様になり、とくに女性やクィアのインディ・ロック・ミュージシャンが大々的に活躍するようになりましたよね。そのなかでアニコレは、自分たちに何ができるのか迷っていた気がします。

O:彼ら自身のモティヴェーションに変化があったわけではないと思うんです。パンダ・ベアって2004年からリスボンに移住しているんですね。彼はいろいろな地域のフォークロアに興味を持っているから、きっとファドも聴いていたと思うし、アニコレというバンド自体、アメリカの音楽以上にエチオピアン・ジャズや西アフリカのフォークとかを掘っていたり、おもしろい音楽を探すというピュアな好奇心を初期から持っていた。

K:そういう無邪気な好奇心は、間違いなく彼らの音楽の魅力ですね。

O:でも、そうやって音楽的なバックボーンが多いがゆえなのか、2010年代のアニコレは雑多さを追求しすぎるあまり収拾がつかなくなっちゃって、飽和しているような印象がありました。あのガチャガチャした感じを気軽に楽しめる時代でもなくなっていましたし。

K:2010年代は『Centipede Hz』(2012年)、『Painting With』(2016年)の二つしかオリジナル・アルバムをリリースしていないんですよね。バンドの活動自体がそんなに活発ではなかった感じがします。

O:『Painting With』は、コリン・ステットソンが参加した「FloriDada」とかいい曲でしたけどね。すごく楽天的とも捉えられるけど、彼らの敗北主義が行くところまで行った曲だなと。「Hocus Pocus」ではジョン・ケイルがドローンを鳴らしていたり、そういうおもしろい部分はいくつかあったんだけど、どこか集中力を欠いている感じはしましたよね。当時はブルックリンのシーンもとっくに瓦解していたし、界隈のバンド自体の求心力も落ちていた。

K:『Merriweather……』で完成した型を守ろうとした結果、初期の無邪気さが薄まった印象でした。加えて、彼らのチャイル ディッシュな感じが、2010年代のアメリカのポップとそぐわなかったというのも大きいと思います。社会性や政治性に意識的なミュージシャンが目立った時代だったし、USインディーも女性やクィアのプレイヤーに注目を置かれることが多くなってきた。そのなかで、白人で、かつ大人になりきれていない男性た ちといった存在は、ちょっと古びて見えていたんだと思う。2010年代はアイデンティティの時代だと言われますけど、アニコレは自分たちのアイデンティティをベースに何かを作ってきた人たちではないし。

O:匿名性を打ち出したり、ロックのヒロイズムを否定したりしていたスタンスが痛快だったわけだけど、そういうものの魅力が伝わりにくいのが2010年代だった。そのなかで、アニコレ本来の良さが埋もれてしまったようにも見えました。

K:あの頃は正直、自分も以前ほど彼らを熱心に聴く感じではなくなっていました。だからこそ、2022年の『Time Skiffs』がストレートにいい作品だったのは嬉しかったです。『Painting With』に参加していなかったディーケンが戻ってきて、メンバー4人で制作したアルバムだし、エイヴィー・テアとパンダ・ベアがそれぞれ作っていた曲を1曲にした「Prester John」なんかも収録されていて。4人で一緒にやることの喜びがピュアな形で戻ってきているのがすごく良かった。

O:『Time Skiffs』は、何より曲が良かったですよね。「We Go Back」という曲があって、わりと地味めではあるんですけ ど、タイトル通り「自分たちが戻ってきたよ」「もう一回、みんなで演奏するよ」というようなことを歌っているんです。だから、彼らも原点に立ち返った結果、こういう曲が生まれたのかもしれない。なかなか感動的な曲なんですよ。しかも、彼ら自身が「自分たちの歌(ソング)」だと言っていて。そこで改めて「歌」にも自覚的なバンドなんだなと再認識したんです。

K:今のは大切な話だと思いますね。アニコレってサウンドのおもしろさ、エクスペリメンタルな面に注目されがちだし、そこも重要だと思うけれど、それこそ『Sung Tongs』の時代から実はソングとしての魅力を持っていた。

時代とシンクロした最新アルバム

O:今回の新作『Isn’t It Now?』は「Defeat」という21分の長い曲があるけれど、基本的にはメロディアスな曲ばかりじゃないですか。実はディアンジェロなどを手掛けるラッセル・エレヴァードをプロデューサーに迎えてアナログ・タッチな作りを目指しているのに、ひたすらにいい曲だなというのを感じさせてくれる作品。音作りのギミックに酔っていないんです。フィービー・ブリジャーズやビッグ・シーフを聴いているような若いリスナーにも届けばいいなと思います。それに最近は、誰 もが気楽に口ずさめる歌というものに世の中のヴェクトルが向かっているような印象も受けているので。

K:『Isn’t It Now?』は、10〜20代のリスナーに対しても案外フレンドリーというか、入っていきやすい作品になっていますよね。『Merriweather……』の時期に背負っていたものがなくなったことによって、リラックスしながら作れたんだろうなと感じました。中年になった彼らが今も一緒に音楽をやっている喜びが、素直に伝わってくるアルバムだなって。2000年代のブルックリン・シーンにいた他のバンドを見ても、ほとんどが止まっていたり離散したりしていたりするじゃないですか。ダーティー・プロジェクターズもデイヴ・ロングストレスのソロ・プロジェクトになり、メンバーを総入れ替えしているわけで。

O:グリズリー・ベアは閉店休業状態ですしね……。ヴァンパイア・ウィークエンドも実質、エズラ・クーニグのソロになった感じですし。

K:ヴァンパイアを抜けたロスタムもそうですけど、バンドから離れてミュージシャンとして1人立ちしていった人が多いと思うんです。その面でもアニコレは稀有な存在というか、停滞感のあった時期もあるだろうなとは思いつつ、2020年代になってまたコレクティヴとして戻ってきたというのは貴重だと思いますね。

O:たしかに。メンバー4人の結束は意外と固かったのかもしれない。

K:4人とも同い年で、少年期からの付き合いだというのも、バンドにとって大きいんだろうなと感じています。メンバーを1人も欠かすことなく、今も一緒にアルバムを作っているというのは魅力的ですよね。それと、アイデンティティによって何かを規定していく2010年代的な潮流に、みんなが少し疲れてきているところもあると思う。だからこそ、アニコレのアイデンティティを溶かしていくような音楽は、時代とシンクロしてきているような印象も持っているんですよね。

O:そうですね、時代が一周した感じはあります。

K:いかに社会性を持ちえているかで表現のリアリティを評価していく時代のなかで、アニコレのチャイルディッシュな感覚や逸脱への志向性、アイデンティティを重要視していない感じは、逆に新鮮に映ると思うんですよね。ここ最近、僕も音楽を聴いているとき、それが社会的であればあるほど、ちょっと息苦しさを感じることが増えていて。普段大切にしているからこそ、「いまは社会のことを少し忘れたい」って思ったりもします(笑)。その気持ちにフィットする音楽がもっと聴きたいし、そういうモードを踏まえると、特に初期のアニコレにあった、社会から離れて子どもが砂場で好き勝手に遊んでいる感じがすごく輝いて見えるんですよね。たとえば最近だと、インディですごく支持されているアレックス・Gなんかは、ベッドルームから出てきた音楽として、逃避的だったり感覚的だったりしますよね。若い世代からどんどんそういう音楽が出てきたらおもしろいんじゃないかなと今は感じています。


<了>

 

Text By Tsuyoshi KizuShino Okamura


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