もう一つのロンドンを生きていく/リヴィング・スルー・アナザー・ロンドン
あけましておめでとうございます。本年も音楽Webメディア《TURN》と音楽ライター髙橋翔哉をよろしくお願いいたします。昨年はUKのインディー・バンドとの距離感を掴みあぐねた一年だったが、年末近くにようやく掴んだ。やっぱりエクスペリメンタルですよね。
さて今回紹介するのは、モイン(Moin)の最新作『You Never End』。このアルバムは《Pitchfork》で知った。ミカ・リーヴィ(Mica Levi)がギタリスト/ヴォーカリストを務めるグッド・サッド・ハッピー・バッド(Good Sad Happy Bad)の新作の2週間前にリリースされた。モインの音楽は、ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー的な2000年代のエクスペリメンタル・ロックやポストロックを彷彿とさせるもので、グッド・サッド・ハッピー・バッドとも近似値をとれるものであり、またMarujaのようなマンチェスター勢にも共鳴しそうなニュアンスを感じる。そしてこれは彼らの音楽が、イングリッシュ・ティーチャーやCourtingなどに代表される、2020年代型のいわゆる「UKインディー・ロック」とはまったく異なる位相に存在していることを意味している。
このモインという3人組は、もともとUKベース系ユニット、Raimeを組んでいた2人に、ダブ・ユニット、Holy Tongue等で活動しているパーカッショニスト=Valentina Magalettiが加わったバンドであり、今作は彼らの3枚目のアルバムにあたる。ちなみにHoly Tongueは昨年、シャックルトンと共作した『The Tumbling Psychic Joy of Now』を発表しているが、そちらがトライバルでアンビエント色の強い作風だったのに対し、モインはよりノイジーでコンプレックス。
カタール系アメリカ人アーティスト/作家=Sophia Al-Mariaがスポークン・ワードで参加した「Family Way」と「Lift You」はいずれも象徴的な楽曲。「Family Way」はファズ・ギターのロングトーンとマスロック的な太鼓が絡み、その濃淡のあるリズムにはUKベースのエッセンスが感じられる。一方「Lift You」は、ポストロック的な禁欲的な太鼓にギターのハーモニクスが美しく響き、初期ムラ・マサが得意としたチャイムの音色によるビートを幻視する。「Cubby」や「What If You Didn’t Need A Reason」では、ローファイなギターと気だるげなヴォーカルが、バー・イタリアとの地域性/同時代性を演出。最近GAISTERのメンバーとしてアルバムを出したコベイ・セイ(Coby Sey)が参加している「We Know What Gives」も聴いてみてほしい。わたしのお気に入りは「Anything But Sopo」。ポストパンク的なギターと、うるさいシンバル&スネアドラムがかっこいい。
こうして、UKのシーンに存在するいくつかのレイヤーの中でも見過ごされがちなモインの音楽を聴いていると、自分がUKのローカルからオーヴァーグラウンドに噴出したインディー・バンドたちの音楽にめちゃくちゃ不満を抱いていたことにふと気づき、妙に暗い気持ちになってくる。しかし、モインやグッド・サッド・ハッピー・バッドのアルバムからは、UKの「アンダーグラウンドのバンド」の未来の明るさを感じることができる。それでは、音楽性は暗いけど景気のいいアルバムたちとともに、2025年をより良い年にしていきましょう〜。(髙橋翔哉)
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Coby Sey『Conduit』
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