Review

Whitney: Forever Turned Around

2019 / Secretly Canadian / Big Nothing
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未来に身悶え、紡いだ愛情

07 September 2019 | By Riku Matsuzaki

前作が1日の始まりを告げる眩い朝日だったとすれば、今作はまさに夕焼けである。夏の末、1日の終わりに差し込む暖かい陽光のようなセカンド・アルバム『Forever Turned Around』。しかし決して終わりを告げる作品であるということではない。新たなホイットニーへの始まりを、不安を抱えながらも静かに自信をもって宣言したアルバムなのだ。

  元ウエスタン・スミスとアンノウン・モータルオーケストラのメンバーで結成されたシカゴのインディー・フォーク・ロック・デュオ、ホイットニー。前作同様、アメリカのインディー・レーベル《Secretly Canadian》からのリリース。プロデューサーにはフォクシジェンのジョナサン・ラドー(レモン・ツイッグス、ワイズ・ブラッド他)に加え、新たにブラッド・クック(ボン・イヴェール、ハンド・ハビッツ他)が迎えられている。アルバム・ジャケットの由来は「清涼な朝に結露した草」がモチーフとのことだが、プロデューサーの2人によって、まさにそんな涼しくて潤った朝のように瑞々しい音へと導いてくれた。もしかすると、この朝霧の音作りが、夕焼けのアルバムに込められた始まりを予感させたのかもしれない。カントリー、フォークの要素を土台としたギター、生ドラムを中心に、キーボート、トランペットなどのバロック・ポップ的70年代ソフト・ロックの彩を加え、それら懐古主義的ともいえる音を絶妙に配置することによって全く古臭くなく、むしろ新鮮味を感じさせる作品へと昇華している。

ホイットニーの魅力は、何と言ってもシンプルで広大な大地の香りを漂わせるマックス・カケイセックのメロディアスなギターと、ジュリアン・アーリックの哀愁漂うソウルフルなファルセットだが、ファースト『Light Upon The Lake』から3年ぶりとなる今作にも堂々と、そして信念を感じるほど直向きに表現されている。かつて抱いた大きな夢を掴みきれず、苦悩しながらも生き抜いた庶民が、心の癒しにしていたアメリカン・ポップスをベースとした、フォーキーでメロウな印象を与えるダウン・テンポな曲で構成されたアルバム。歌詞の内容も含めて、一聴すると長期的な関係の中における愛情の浮き沈みを表現しているようにも思えるが、最終的には「いつ終わるかわからない人生」を容認しているように思える。もしかすると、収録分数が32分と短いのも、人生の時限制を表しているのだろうか。

しかも、「Valleys(My Love)」のMVが“Life on the road”をコンセプトとしていること、アルバム・タイトル『Forever Turned Around』の意味自体を考えると、孤独や不安に向き合っただけの作品ではないのではないことを証明しているのではないか。ここまでの人生を振り返った上で、時間に限りがあることへ恐れを感じながらも容認し、身近な人への愛を深めながら、残りのを人生の道をゆっくりと、そして確かに進んでいこうとする意欲作なのではないだろうか。

「永遠に残る過去」を見つめ、これまでの身近な人への愛を紡ぐことと対照的に、終わりのある道への不安を受け入れながらも、道が途絶えてしまうまで側にいたいことを表現した作品なのかもしれない。彼らのこれからの人生で一体どんなドラマが生まれ、その体験を奏でてくれるのだろうと、気が早いかもしれないが僕は胸を高鳴らせてしまう。

インタビューで「みんなが繋がりを感じられるものにするということを僕は常に意識している」と語っているように、リスナーに対してクリアな絆を求めながら紡がれた歌詞だからこそ、本能的に心地よいと感じるメロディーと相まって、なおさら胸にグッときてしまったのだろう。永遠の過去に想いを馳せながら、限りある未来への道を共にする身近な人への愛を、このアルバムを聴きながら、もう一度確かめてみてはいかがだろうか。(松崎陸)

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