その歌とラップの境目が曖昧な感じやトラックのアンビエントっぽさからしてBryson Tillerのデビュー作『TRAPSOUL』を、ドレイクやザ・ウィークエンドのフォロワーと捉えたくなるのもわからなくはない。ただ、そのスタイルに「トラップ・ソウル」というジャンル名が付けられるほど彼が特別視されたのは、90年代を中心とした過去のR&Bヒットのサンプリングの多さに見られるように、あくまで正統なR&Bの側からサウスのトラップ・ビートに挑んでいたからであった(対してドレイクはあくまでラップ・ゲームに身を置いているし、ザ・ウィークエンドはマイケル・ジャクソンに近づこうとするポップ・スターだ)。本作も基本的にはそのトラップ・ソウルの型を守っているものの、「Blowing Smoke」や「Self-Made」が象徴するようにトラックがタイトに、そしてアップ・ビートになったことで、楽曲はダンス・ミュージック方向へも広がりを見せ、一気にフロアとの親和性も深まった。それを可能にしたのは、いずれも普段からラッパーへもビートを提供しているBoi-1da、Frank Dukes、T-Minusや、計9曲に参加した新人、Nesといった面々の起用だろう。トラップ・ソウルのアイコン的存在の彼自身の作品が、ロウ・テンポ中心だったジャンルの幅を拡げることに成功したとともに、本作を聴いていると同じくクラブとの親和性が強いアッシャーの姿も浮かんできてしまった。(山本大地)