Review

Ezra Furman: Transangelic Exodus

2018 / Bella Union
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16 March 2018 | By Yasuyuki Ono

本作はユダヤ人でありバイ・セクシュアルであるというエズラ・ファーマン自身のバック・グラウンドが反映された物語の集合体として聴くことができるだろう。その中の一物語の主人公は、翼を得て天使となった人間(”Transangel”)という、既存の法や慣習に背くとされる存在を守り、共にどこまでも走り行く。『Transangelの脱出』という作品タイトルに込められるのは、自らが抱える“異形さ”とどこまでも添い遂げ、それを締め出そうとする力と相対し続けるという意思だ。実際に、エズラ・ファーマン自身が本作への影響を受けたと語るのは、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』(2015)とヴァンパイア・ウィークエンド『モダンヴァンパイア・オブ・ザ・シティ』(2013)。前者から現代社会に対する批判的視線を、後者から個人/社会的内省の感覚とメランコリックなポップネスを受け継ぎ、本作は成立している。

そんな今作が、“サイファイ的ビートルズ”と評価されているのが興味深い。前作でのオーセンティックな質感は身を潜め、曲ごとにガレージ、フォーク・ロック、サイケデリック・ロック、ニュー・ウェーヴ等を巡り行きつつ、実験的な難解さに終始しない多彩なアレンジのポップ・ソングたちが並んでいる。

本作の多様性に満ちたサウンドと、不寛容の放擲というテーマは、エズラのそのままどこにも属せない自身の立ち位置をあぶり出している。自らのあるがまま生きよう。そして脱出しよう。過去/今にしがみつき、私たちを縛り付ける奴らから、というメッセージとともに。エズラは自身の異形さを決して難しく伝えず、あくまで軽やかなポップスとすることで、いい意味で“これもまたスタンダード”というテーゼを表出させようとしているのかもしれない。(尾野泰幸)

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