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toulavi: 神殿

2022 / i75xsc3e
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生物的なもの、官能的なもの

20 July 2022 | By Suimoku

2021年末、SNS上でのかかわりをきっかけにあるアーティストの作品を聴いた。それはSoundCloudにアップされていた『プロセス』という作品。1曲目の「閃光まで」という曲を再生すると、激しいノイズとリズムマシンの乱打から始まり、そのなかでエモーショナルなメロディがところどころ顔を出す。呆然として聴いていると、とつぜん視界が開けたようにノイズが断ち切られ、レイハラカミなどを思わせるモジュレーションのかかったシンセが鳴り響く「モデルン!(羽虫)」が始まる。そのノイズとメロディとの縫合、ダイナミックな展開にすぐ惹きつけられた。過去の作品も聴いてみたが、同じように音の組み合わせ方や展開作りのセンスを感じさせるものばかり。こんなアーティストがいたのか、と興奮を覚えた。



アーティスト名には「toulavi」とあった。ネット上にあまり情報はなかったが、唯一、《シャビーシック・ポエトリー》という新潟のレコード・ショップのサイトが目に入った。その紹介文によると音楽家は02年生まれであり、小学3年生の時にケミカル・ブラザーズを聴いたことをきっかけにエレクトロニカに興味を持ち、中学入学とともに音楽制作を始めたという。そして、toulaviは2016~18年(だいたい14歳から17歳にあたるだろうか)に『LOW』『HIGH』『檸檬-lemon』というタイトルで立て続けに自主制作のCD-Rを発表している。その音楽は一部YouTube上で聴けるが、プリセットそのままのようなキーボードとリズムマシン、日々の生活音や自らの肉声などを組み合わせた、プリミティヴな創作欲求を感じさせるものだ。だが、それらのCD-Rを経て19~20年に発表された『a posteriori』『our』『#d4dcda』『無意識の亡霊』といった作品になると一音一音が磨き上げられていき、リズムとサウンドの組み合わせ方もより複雑になっていく。



そうして2021年6月に出された『プロセス』は、そうした急激な成長が結実したような作品であり、昨年聴いたすべてのエレクトロニック・ミュージック、いや、すべての音楽のなかでもっとも強くオリジナリティを感じさせる音楽の一つだった。で、ずいぶん前置きが長くなったが、その興奮が冷めやらない2022年初めにリリースされたのがここで取り上げる『神殿』だったのだ。ユニークなリリースで注目を集めていたレーベル、《i75xsc3e》から発表されたこのEPは、「電話」「涙」「避雷針」「天使」「情報熱力学」という5曲入り14分の作品で、2分以下の曲を織り交ぜつつEP全体を一つの作品のように扱う構造は『プロセス』と共通するものだ。そういう意味でも2作は印象が近く、姉妹作的な雰囲気も感じさせる。



“EP全体を一つの作品のように扱う構造”という話にも関連することだが、『神殿』を聴いていて印象に残るのはその「把握しづらさ」だ。たとえば「避雷針」では、ハープシコードのような音色が3拍子を刻むなか、アクセントをずらしてループするサウンドがそこに絡みポリリズミックに展開するが、1分過ぎではそこにノイズによる切断が入り、押し流されるように楽曲は倍以上のBPMに切り替わってつんのめりながら展開していく。このように目まぐるしく展開の変わるトラックが目立つ一方で、曲と曲の継ぎ目は目立たないように縫い合わされ、終曲の「情報熱力学」は1曲目の「電話」へとつながる円環を描く。

こうした要素が重なって、集中して聴かないとどこで1曲が終わったか、どこでEPが終わったかが分かりづらく、全体の展開を把握しながら聴くことが難しいのだ。『プロセス』から受け継がれたこのような作品構造は落ち着かなさと気持ちよさを同時に感じさせるが、それこそがtoulaviの音楽を決定づけているとも思える。繰り返されるビート・スイッチのなかでサウンドは数秒前のサウンドを裏切り、どんどん横滑りしていく。その移ろい方は日常における意識の流れを連想させるとともに、躍動的なポリリズムや伸びやかなシンセと相まって、何か生物的なもの、官能的なものを連想させる。サウンドはどんどんと別のものへと移行し、数秒前の自分を脱ぎ去っていく。そこには変化することの不安と気持ちよさが同居している。そして、その生成変化のなかで、もしかしたら人は電話にもなれるし涙にもなれるし天使にもなれるのではないか……と思わせるのである。



ともあれ、toulaviの『神殿』は、作品そのものの構造とサウンドが有機的に絡み合って、聴く者に斬新な聴取体験をもたらす傑作といえるだろう。この文章では音楽家の歩みを追うのと『神殿』の内容を記述することに終始し、興味深そうな新潟のシーンや、《i75xsc3e》周辺の音楽家たちの動き、あるいは、一種のIDMリバイバルを思わせる近年の電子音楽の流れ…など周辺にあるトピックを拾うことはできなかったが、それは他の機会に、または他のテキストにお願いするとし、まずは新たな才能と、傑作の誕生を言祝ぎたいと思う。(吸い雲)

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