Review

black midi: Schlagenheim

2019 / Rough Trade / BEATINK
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ギター・ロックを再興するセッション。そのヒントは、ジャズ。

21 June 2019 | By Eri Mokutani

細分化した音楽ジャンルの壁が壊れつつある2019年。イギリスから登場した4ピース・バンド、ブラック・ミディもその一翼を担う存在だ。先行シングルやライヴでの印象からは、エレキ・ギターを主軸としたセッションの中で、舌足らずともとれるボーカルが駆け抜けていくような、若さと勢いのあるギター・ロック・バンドのように思われた。しかし、アルバム単位で聴くとそのイメージは変わる。アルバム冒頭を飾る「953」はポスト・パンクよろしく歪んだギターの音で埋め尽くされている。そのような音で埋め尽くしつつも、「Weatern」や「Of Schlagenheim」等、いくつかの曲の構成はヴァース単位でめまぐるしく変わり、しっとりと優しく聞かせる音を奏でたり、ボーカルはラップのように言葉を紡ぐところさえある。加えてこのバンドはジャズの作法を大事にして音楽を作っているのではないかということが、本作では見え隠れする。ウェットな質感の「Speedway」を聞くと分かりやすいのだが、もしも、ドラムとベースだけ取り出したら、ジャズの中でも王道のモダン・ジャズといっても言い過ぎではない。乾いたような音を叩くドラムとウッドベースかと思うような音を奏でるベースから生み出されるリズムは、従来のタイトに正確な位置で刻むギター・ロックのそれとは違い、後ろに重心が置かれ、やや遅れて刻まれる。それにより、ジャズのリズムでもあるスウィングと同様の、大きな渦が回転しているかのように感じられるグルーヴ感を生み出している。その上に乗るロック的なギターとボーカルは、このやや遅れているリズムによって後ろに引きずられていくようにも聞こえる。ここで感じる、前に行くの?行かないの?というもどかしさは、今の先行きが不透明な社会でもがく若者の気持ちを代弁しているようだ。

このように、ブラック・ミディは、リズムはジャズ、メロディはロックというように、それぞれのパートを、それぞれ細分化されたジャンルの範囲で体系的に構築して、組み合わせている。細分化されたジャンルを細分化されたままで音楽を再構築しているのだ。時代の寵児となったビリー・アイリッシュのように、つまみ食いのごとく、部分部分で面白いと思ったジャンルを埋め込んだり、混ぜ込んだりして新しさを生み出すのではない。ブラック・ミディは、マイルス・デイヴィス、トーキング・ヘッズ、レッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、グリーン・デイ、フランツ・フェルディナンドなどの多様な音楽リスナーとしての経験に加えて、音楽を教えて生計を立てることができるほどの豊富な知識や高い演奏技術を、ブリット・スクールで学んだ経験を生かし、体系的に音楽を構築する。だからこそ、ジャンルを大事にしながらも、組み合わせと演奏技術で新しい感覚を持ち込むことに成功しているのではないだろうか。そこには、長い低迷期から抜け出せないイギリスのギター・ロックの復興の一つの案があるような気がするのだ。(杢谷えり)

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■black midi live in Japan 2019
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