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2024 / Club Records/Cool Online
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“バンド”のロマンチシズムを刻印した最新作

14 May 2024 | By Yasuyuki Ono

カナダのオタワを拠点として活動するシンガー・ソングライター、ハンナ・ジャッジによるプロジェクト、ファンクラブウォレットは、例えば、Bandcampで日々、alternative、 indie rock、indie folkなどのタグを駆使しながらあてどなくインターネットの大海を彷徨うインディー・フリークにはおなじみの名前だろう。2020年、パンデミックのさなかにドロップされたトーキング・ヘッズ「This Must Be The Place」のカヴァーへの注目や、TikTokをベースとした「Car Crash In G Major」のヴァイラル・ヒットを経て、2枚のEPと1枚のフル・アルバムをこれまでにリリースしてきた。

ハンナがフェイヴァリットとして挙げるライロ・カイリーの軽やかでカラッとしたフォーク・ロック、オルタナ・カントリーの風合いと、モデスト・マウスのようなシンセとギター・リフを印象的に用いたソリッドでカラフルなサウンドがファンクラブウォレットの音楽を特徴づけている。さらに、これまた影響を受けているという《Saddle Creek》から作品をリリースし、90`sエモ・リバイバル文脈でも重要なホップ・アロングのヴォーカリスト&ソングライターであるフランシス・クインランのような静かだけれどもエモーティヴで、揺らぎのあるヴォーカル・スタイルも魅力的だ。

代表曲である「Car Crash In G Major」も収録された、ファースト EP『Hurt Is Boring』(2021年)はハンナの持病であるクローン病の療養中に自宅のベッドルームで制作されたというエピソードに象徴されるように、これまでファンクラブウォレットはハンナのソロ・プロジェクトとして運営されてきた。しかし、本作に至りハンナはこれまでの作品でもプロデュースで協力を仰いできた幼馴染のマイケル・ワトソン(Dr / Pd)や友人でありツアー・バンドのメンバーでもあるネイサン・リード(Ba)、エリック・グラハム(Gt)といったメンバーを迎え入れ、ファンクラブウォレットを一つの“バンド”とし、本作を作り上げた。

ノイジーでローファイなエレクトリック・ギターがうねり回る「Band Like That」はその題名の通り、自らが憧れてきたバンドという音楽制作形態への憧憬を起点として制作された楽曲だ。バンドの結成から小規模なパーティーでのライブを行う姿を描いたMVもわかりやすくこの楽曲のテーマを説明してくれている。ギター・リフを中心に据えつつも、スネア・ドラムとベースのサウンドを強調させながらどっしりと組み上げられた「Picture Of Her」や、クリーンでヌケのいいアップテンポなギターと細やかに刻まれるドラムスが先導する「Easy」など、本作は過去作以上に、低音域を活かしながらバンド・サウンドの重厚感とダイナミズムを表現しようという意欲を感じる作品となっていることがわかるだろう。

2010年代の後半からパンデミックを経て、折に応じてバンドという音楽制作の形態は苦難の時代と言われてきた。各種サブスクリプション・サービスやYouTube、TikTokといったアーキテクチャが否応なく要求する楽曲リリースのスピード感と消費サイクルの加速? 多人数の移動と接触を伴う身体的な障壁? オーセンティックなロック・バンドが生み出すサウンドのメイン・ストリームからの退行? 色々な理由は語られたけれど、それでもなおバンドという、他者の集合体だからこそ生み出せる音の輝きとケミストリーを、シーンの隆盛やメイン・ストリームからどんなに離れたとしても、私は信じてきた。「Band Like That」について、「すごくいいバンドを見たとき、自分もそのバンドに入りたいと思ったときのことを歌った曲だ。もしかしたら、その答えはずっと目の前にあったのかもしれない。」そんな風にハンナが語り、楽曲のクライマックスでギターが、ベースが、ドラムスが溶け合うなか「あなたのバンドにいて/私はそんな風に歌えた/わかるでしょ?/そんなバンドに私はいる」と歌うように、仲間と共に作り上げる必然を抱えたファンクラブウォレットによる本作は、バンドというコミュニティにしか生み出せない奇跡の種が、きっと埋め込まれているのだと思う。(尾野泰幸)

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