Review

Killer Mike: MICHAEL

2023 / Loma Vista
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南部とアトランタ、そしてダンジョン・ファミリーの歴史が詰まったソウルフルな傑作

10 July 2023 | By abocado

私がキラー・マイクのラップを初めて聴いたのは確か2005年、カミリオネアのファースト・アルバム『The Sound of Revenge』に収録された「Southern Takeover」だったと思う。固く握りしめた拳のようにパワフルなラップを聴かせるキラー・マイクは大きなインパクトがあり、私は一発でその虜になった。2008年の名作アルバム『I Pledge Allegiance to the Grind II』に収録された、当時旬を迎えていた同じアトランタの故ショウティー・ローとの曲「2 Sides」は夢中になって聴いた。同曲もそうだがキラー・マイクは地元シーンの活性化に積極的で、2009年にはコンピレーション『Underground Atlanta』でOJ・ダ・ジュースマンやトラヴィス・ポーターといった当時のアトランタの旬の面々を起用。そのほかにもフレディ・ギブスとの共演でも知られる超実力派ラッパーのピルをフックアップするなど、キラー・マイクはアトランタを中心とした南部のコミュニティに根差した活動を行ってきた。

しかし、エル・Pとのユニット、ラン・ザ・ジュエルズ作品では少し様子が変化していく。ビッグ・ボーイや故ギャングスタ・ブーのような南部勢の参加はあったものの、作品を重ねるにつれサウンド面も含めエル・P色が強くなっていったように思う。それが悪いわけではないのだが、「Southern Takeover」でファンになった身としては「南部のラッパー」としての側面が薄まりつつあることに寂しさを感じざるを得なかった。

だが、キラー・マイクは2023年、11年ぶりのソロ・アルバム『MICHAEL』で南部に帰ってきた。エグゼクティヴ・プロデューサーは『I Pledge Allegiance to the Grind II』にも参加していたノーI.D.が担当。正直に言って厄介なファンの私はこのシカゴの大物の抜擢に最初不安を覚えていたのだが(ノーI.D.が嫌いなわけではない)、蓋を開けてみたら南部ヒップホップでしか味わえない濃厚なソウルやゴスペルのフレイバーが充満していた。これはキラー・マイクが元々所属していた、ダンジョン・ファミリーの諸作の延長線上にあるスタイルである。特にアンドレ・3000とフューチャー(とEryn Allen Kane)をフィーチャーした今作のハイライトの一つ「SCIENTISTS & ENGENEERS」ではそれが顕著で、ここで聴けるエレクトロニックで刺激的ながらソウルフルなサウンドはまさにダンジョン・ファミリー印だ。ノーI.D.のプロデュース曲は14曲中6曲と意外なほど少なく、テキサスのCory Moやフロリダのクール&ドレー、メンフィスのDJ Paulといった南部のプロデューサーが多数参加。客演にもヤング・サグやFaboなどの新旧のアトランタ勢を中心に、ルイジアナのCurren$yやテキサスのKaash Paigeなどを揃えている。まさに「Southern Takeover」、南部によるシーンの占領を強く感じさせる布陣だ。

また、このアルバムでは南部勢だけではなく、要所で西海岸人脈もキーとなっている。「SHED TEARS」でのモジーや2曲で登場するタイ・ダラー・サインのような客演として記名されたアーティストはもちろんだが、最大の貢献者はオルガンとキーボードで参加したウォーリン・キャンベルだ。このミュージシャンは11曲でプレイしており、単純に曲数だけならノーI.D.以上の参加である。DJ・クイックやアイス・キューブなどの西海岸ヒップホップ仕事から注目を集めたウォーリン・キャンベルは、ヒップホップだけではなくメアリー・メアリーやキエラ・キキ・シェアードといったゴスペル畑でも活躍してきた人物だ。『MICHAEL』で全編に漂うゴスペルの香りもオルガンやキーボードによるところが大きく、まさにキーマンと言える存在である。

それを踏まえてキラー・マイク、そしてダンジョン・ファミリーの歩みを振り返ると、西海岸勢との交流を古くから盛んに行っていたことに気付く。以前ドクター・ドレー『The Chronic』のレヴューでも触れたコリン・ウルフのアウトキャスト作品への参加をはじめ、オーガナイズド・ノイズはクラプト作品を手掛け、ビッグ・ボーイはトゥー・ショートやBoskoを客演に迎え、キラー・マイクも『I Pledge Allegiance to the Grind II』でメッシー・マーヴやアイス・キューブと共演してきた。また、そもそもキラー・マイクはかなりアイス・キューブからの影響が強いラッパーである。南部勢、そしてウォーリン・キャンベルなどの西海岸勢と共に作り上げた今作には、アートワークで笑顔を見せるキラー・マイクの少年時代から現在に至るまでの様々な歴史が詰まっているのだ。(アボかど)




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