Review

onett: LAST ROMANTIC!

2025 / PASSiON RECORDS
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あと一回、僕らは踊れる

28 February 2025 | By Yasuyuki Ono

都内近郊を拠点に活動するミュージシャン、onett(※1)の最新作『LAST ROMANTIC!』を聴きながら、ニュー・ラディカルズ「You Get What You Give」のことを思い出していた。甘くとろけるメロディー、飛び跳ねるキーボード、メランコリックに響くエレクトリック・ギター、「君にとっての音楽を手放すな」と繰り返すリリック、巨大な郊外型ショッピング・モールの中をいたずらしながら、踊りまわるMV……。

バンドのフロント・パーソンであり、ソングライターでもあるグレッグ・アレクサンダーが夢の中でジョニ・ミッチェルに出会ったことをインスピレーションとして作り上げ、世界で最もCDが売れていた時代、1998年にリリースされたこのポップ・ロックは、当のジョニ・ミッチェルに「“McMusic”の沼の中から一輪の希望の花のように咲いた」と言わしめ、音楽への意欲を失いかけていた彼女が改めて創作へ取り組むきっかけとなった。この一曲のチャート・ヒットとアルバム一枚を残してバンドは音楽産業の表舞台から去った(※2)が、曲の中に閉じ込められた音楽に対する純粋な希望の感覚は、今聴いても一点の曇りもない。

onettの音楽に私が感じてきたのも、「You Get What You Give」のような行く先の見えない未来を、社会を心の底では信じた音楽がまとう逞しさであり、優しさだ。言い方を変えれば、1991年のバブル崩壊後、どうあがいても終わらない暗い時代。それでも、平成のデフレ経済を象徴する存在であったブックオフの店内の端っこに配置された均一料金棚にギュウギュウに押し込まれたCDには、過ぎ去った時代を明るく照らし、励ました音楽が詰まっていた。それらの音楽に似た輝きがonettの音楽にもある。

本作でonettは、Mr.Childrenの、エルヴィス・コステロの、佐野元春の、アズテック・カメラの、岡村靖幸の、R.E.M.のもとを訪れながら、どこまでも、どこまでもバブルガムに構築されたロックを鳴らし続ける。鳴らすことをやめられないのだとすら思う。どのような楽曲であっても、底抜けで愚直なポップネスが耳の中を、心を埋め尽くす。ヴェイパーウェイヴの広がりとともに蔓延した“あの頃”への退行的ノスタルジアなど、どこかに行ってしまえ。自らの音楽を信じて歌われる、曲がりくねり、いびつな形で輝き、鳴り響くonettのポップスは、この暗い時代を生きる僕らにあと一回だけ、ダンスを踊る勇気を与えてくれる。(尾野泰幸)

※1 onettのプロフィールについては、2023年にリリースされたEP『やさしさについて』のレヴューも参照してほしい。

※2 時は過ぎ、バンドは2021年にジョー・バイデンのアメリカ大統領就任式で「You Get What You Give」を演奏するために22年ぶりの再結成を果たした。

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