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佐藤優介: Kilaak

2019 / 怪獣図鑑(CD) / なりすレコード(アナログ)
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妄想と迷宮のファンタジー・アマルガム

17 June 2019 | By Shino Okamura

タイトルの『キラアク』とはゴジラ・シリーズの映画『怪獣総進撃』(1968年)に登場する星人の名前からとられているという。収録曲の「2+2=5?」は、ジョージ・オーウェルの『1984』の中にも出てくる有名なフレーズだし、「Orange Kid」は鈴木慶一が音楽を担当していたことでも知られるゲーム『MOTHER2』に出てくる博士の名前。「衛星の夜、永遠のWaltz」は町田洋の短編集(漫画)『惑星9の休日』がヒントになっているようだ。というように、おそらくこの男が作る曲のほとんどが、映画、本、漫画、ゲームなどからインスパイアされている。音楽そのものから触発されて作るということは——もちろん伊福部昭、ストラヴィンスキー、ムーンライダーズ、YMOなどなど影響を受けているコンポーザーやアーティストは多数いるだろうが——実は直接的なインスピレーションにおいてはそれほど多くない、あるいはほとんどないのではないか? ということに最近改めて気づかされた。言ってみれば、音楽を作るというより妄想するための手段として音楽制作、作曲を選んでいるのかもしれない。ソロ名義としては初となるこの5曲入りEP(CDと7インチ・サイズの33回転コンパクト盤レコードの2種類でリリース)は、そういう意味では音楽としての音楽ではなく、妄想としての音楽、音を用いたファンタジーなのだろうと思う。

めくるめくカラフルなワンダーランドのような世界を一人で構築してしまった1曲目「Kilaak」、澤部渡(スカート)、井上拓己が参加したオールド・タイミーな「2+2=5?」、スカートでのサポート仲間である佐久間裕太、シマダボーイが力を貸したガレージ・ロック・スタイルの「Orange Kid」まで曲調自体は結構バラバラだ。だが、共通しているのは、これらは全て空想の産物であり、どこまでが本気でどこまでがジョークなのかが全くわからないということ。なのに、まるでアイロニカルなショートショートを独り舞台で再現した時の劇伴のごとく、人を食ったような、と同時に自分をも騙すようなプロットが仕掛けられていること。にも関わらず、こんなのは所詮水泡と化すただのポップスだ、とでもいうような諦念があり、そんな状況でもニヤニヤと妄想し続けてしまう男の得体の知れない不気味ささえあるということ。だから、この5曲は素晴らしくブリリアントな作品だが、明日には消えるかもしれない徒花でもあり、間抜けなマスターベーションの成果でもある。つまりは最高ってことだ。終わりはあるけどとりあえずは当分終わることのない、最高にダスティーなファンタジー・アマルガム。

スカート、カーネーション、KID FRESINO、町あかり、Kaede(Negicco)……鍵盤奏者として、作曲家として、アレンジャーとして今のポップ・シーンにおいて佐藤優介の登場頻度はとにかく高い。でも、そうやって活躍すればするほど彼は自身の妄想の渦の中に入り込んでいく。そして、入り込めば入りこむほど、その迷宮はナンセンスと実存主義との戦いの中で生き生きと輝くだろう。だが彼は言うのだ。「こんな音楽にマジになってどうするの?」。今回のジャケットのアートワークは写真家・桑本正士が遺したドローイングやコラージュ作品を岡田崇がデザインしたものだが(CDとアナログ盤はジャケ違い)、その中にこの男がカタチを変えて潜んでいるのがあなたには視えるだろうか。(岡村詩野)

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