Review

Broken Social Scene: Hug Of Thunder

2017 / Arts & Crafts / Hostess
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民衆の叫びにも似た、あまりにもエネルギッシュで、あまりにも思いやりに溢れたリベラルという名のロック・ミュージック

20 July 2017 | By Shino Okamura

 まるで壮大な反体制デモの渦中にいるような作品だ。そこには戦うエネルギーもあれば、そばにいる人への思いやりもある。時には敵へのエールも送る、紳士的な眼差しもあるだろう。こういうアルバムがロック・フィールドから久々に誕生したことへの手応えで、筆者は今すっかり身体中が紅潮してしまっている。いや、本来ロック・ミュージックはこうであるべきなのだ。と再認識させられる。

 ケヴィン・ドリュー、ブレンダン・カニング、ファイストなど、それぞれにソロでも活動する(できる)メンバーが集結していることから、何かとスーパー・バンドとして評価されてきたが、彼らの強さはそこではない。結束だ。結成以来、ずっとコミュニティとしての結束が彼らに曲を書かせてきた。それは、言い方を変えれば、一定のスター性や才能を持つ者を引っ張り上げるミュージック・ビジネスの安易なシステムへ敢然と立ち向かう勇気であり、一丸となってチームを組むことで得られるパワーにこそその第一歩があると訴える彼らの美学の表れでもある。そんな彼らが久しぶりにチームとして集結した。それが約7年ぶり通算5作目となる本作だ。

 ホワイト・ストライプス、ストロークスなどを手がけたジョー・チッカレリがプロデュース。アラバマ・シェイクスのアルバムでグラミー賞受賞したショーン・エヴェレットがミックスした本作は、全ての曲に、戦うエネルギー、仲間への思いやり、敵への紳士的な眼差しがある。とりわけ圧巻はダイナミックなリズムとヴォーカルが地鳴りのように唸る「Vanity Pail Kids」だが、この曲をちょうどアルバムの折り返し地点として、後半は一定の穏やかさを讃えているのも興味深い。

 活動を停止していたこの7年ほどの間に、世界中で民主主義が崩壊する危機に晒されるようになった。彼らの拠点とするカナダのトロントも、そこに拍車をかける合衆国とは無関係ではない立地にある。だが、彼らは全員平等であることの安っぽい民主主義を決して歌わない。ただ、ただ、民衆としての生きる権利を綴っているだけだ。そこには社会への批判だけではなく、恋愛に埋没することの豊かさ、幸せに生きることの難しさを説く目線も含まれている。これが本当に結束によってもたらせているのだとしたら……筆者は誰かの手をとり、その相手を信用することを今一度試してみようと思うのである。(岡村詩野)

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