南部のヒップホップへのリスペクト溢れる、セント・ルイス出身のセクシー・レッドによる“踊れる”ミックステープ
フィメール版グッチ・メインを名乗るラッパー=セクシー・レッドにペンとマイクを渡せば、一晩で、フッドのみならずインターネットをも賑わせるヒット曲を完成させてしまうだろう。しかもそれを、意図せずに。実際に、彼女は友人の勧めにより完全フリースタイルでランダムに作った曲「Pound Town」が、すぐさまTik Tokをはじめにインターネット上でヴァイラル・ヒットとなり、本人も予想をしていなかった旋風を巻き起こすこととなる。テイ・キースによる攻撃的なビートの上で、セクシー・レッドことジャネイ・ウィーリーは、「マイアミに来て淫らな男を探してる/私の子供には新しいダディが必要」とストリートでトゥワークをしながらユーモラスにラップする(レッドの子供の父親は、彼女の高校時代の初恋相手であり、現在刑務所にいる)。
セントルイス出身の25歳がシーンに衝撃的な登場を果たすにあたって、緻密な計画や準備があったわけではない。彼女がキャリアを始めたきっかけは、浮気をした当時の彼氏の話をリリックに書き起こし、その曲を張本人に聞かせたところ、曲を絶賛され、「ちゃんと録音した方がいい」と薦められるがままに曲作りを本気で始めたことだという。また、レッド自身も、ただ単に日々の生活、その日に考えていたことや話したことをリリックに書き出して歌っているだけだと発言している。彼女の成功は、彼女の視点で言語化された現実が、似たような境遇にいる多くの同輩の共感を自然に集めた結果だ。
レッドの新しいミックステープ『Hood Hottest Princess』は、粘着感の強いラップと血気溢れるビートに、セックス・ポジティヴなリリックが30分に凝縮された、サザン・ヒップホップの影響の濃い作品だ。彼女の世界は主に、金、男、セックスの3つで構成されており、セクシー・レッドはフッドの人間が踊れる音楽を作ることを徹底している。レッドは、複数の男性とのストーリーを回想しながら冷酷な物質主義を見せつけ(「Born By the River」)、フェラーリ乗車中にウィッグが飛ばないかの心配をしたり(「Hellcats SRTs」)、札束が欲しいならお尻を揺らしなと仲間のストリッパーたちを鼓舞する(「Strictly for the Strippers」)。「SkeeYee」のMVでは、オープンカーでストリートに凱旋しながらレッドはラップする。「私はコートサイドに座るフッドのビッチ(私がフッド)」。彼女はセント・ルイスのフッドの象徴的な存在になっているだけではなく、南部をはじめ各フッドのアイコンとして捉えられているのだ。
セント・ルイス出身であるレッドの音楽が彼女の地元のみならず、南部の人々から信用されている理由の内の一つが、彼女のサザン・ヒップホップに対する敬意の表し方にあるだろう。ラップを始める前からプロジェクト・パットやスリー・6・マフィアなどのメンフィスのフロウが好きだったと発言しているレッドは、サザン・ヒップホップのスタイルを参照するにあたって、サウスの先駆者と強く連携を示す。DJ・ポール、ジューシー・J、テイ・キースのメンフィス勢の参加に加えて、「Strictly for the Strippers」ではスリー・6・マフィアのアイコニックな「Sippin’ on Some Sizzurp」をサンプル、そしてアトランタからもATL・ジェイコブが参加。人脈的にもサザン・ヒップホップへの敬意が明らかな点が、新顔である彼女のキャリアに箔をつけながら、彼女のスタイルに説得力を持たせている。
しかし、この強烈なエネルギーを放つミックステープの中で彼らの存在はあくまでも脇役であり、『Hood Hootest Princess』の主役であるセクシー・レッドは一貫してその高姿勢を崩さず、自己賛美に励みながら同士を奮い立たすのだ。「あなたがふくよかな体をしてるか痩せてるかなんてどうでもいい/セクシーなウォーキングを披露して/私は自信のある人が好き」(「Sexyy Walk」)。「お尻を振って」と連呼する彼女の音楽は、今宵も、ハッスルするストリッパーのみならず、世の人々を踊らせていることだろう。(島岡奈央)
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