Review

Drugdealer: Hiding In Plain Sight

2022 / Mexican Summer / Big Nothing
Back

愛を込めて、濃密なるムードミュージック

12 December 2022 | By Ren Terao

例えば、1977年リリースのプレイヤー「Baby Come Back」を初めて聞いた時に感じたのは、静かな熱量と高揚感(と、不思議なノスタルジー)だった。ドラッグディーラー(=マイケル・コリンズ)の新作『Hiding in Plain Sight』を聞いていると近い興奮が湧き上がる。一つに「70年代ウエストコーストサウンド」というキーワードで評価されることが多かったこれまでから、さらにメロウに、グルーヴィーに。情熱的で濃密な“ムード”そのものをより醸し出した1枚となっている。

アルバムの口火を切る「Madison」でエレピが一発鳴らされたその瞬間、この作品の成功を早くも予感し、そして「Someone to Love」でそれは確信に変わってしまう。それまでのフォーキー、サイケと称された要素は「Hard Dreaming Man」などのトラックにも引き継がれているが全体としてやや控えめになり、かわりにヨット・ロックを思わせるスムースなグルーブが紡がれ、「Valentine」など統一感のあるテイストの曲が並ぶ。絡みあうベースとギター、セクシーなサックス、そしてアルバムを通して何度も登場するヴィンテージ・サウンドのエレピ。それらの音と音とが結ばれてまるで地平線のように繋がっていくサウンドスケープが浮かび、あるいはMVで夜の街を車が走り抜けるそのままに、まさにドライヴ・ミュージックとしてのスムースさも持ち合わせている。

マイケル・コリンズ本人のヴォーカルもポイントだろう。レーベルの作品紹介にもある通り、過去作でワイズ・ブラッドなど素晴らしいゲスト・ヴォーカルの参加が多かったが故に、彼自身のシンガーとしての歌声に自信を失い、音楽を辞めて映画制作にシフトするか考えたほどに苦悩していたようだ(彼は映画制作を学んでいた経歴がある)。結果としてはアネット・ピーコックからのアドバイスが良い影響を生み、むしろそれまでの若干の硬さが取れ、彼自身の言葉としてよりエモーショナルにその歌を受け取ることもできる。

 

そしてゲストのラインナップにも言及しなければならない。これまでもマック・デマルコ、アリエル・ピンク、ザ・レモン・ツイッグス……などなどインディー好きなら好奇心そそられるアーティストが毎回参加し、本作ではケイト・ボリンジャー、ビデオ・エイジ、ジョン・キャロル・カービー等がクレジットに乗っている。もちろん共通項を感じられるミュージシャンもいるが、3曲のヴォーカルをゲストに譲ってなおアルバムの軸をぶらすことなく、それでいて効果的なニクいバランス感は、もはやキャリアを通してのストロングポイントの一つになっている。

最後に、タイトルについて『Hiding in Plain Sight』=「わかりやすい場所にあるのに、見つけられない」と意訳できるならば、それは本作のテーマにもなっている広義の意味での“愛”を指しているはずだ。上述したサウンドの変化も、ボーカルの進化も、最高なゲストの招集も、その全てが作品に熱を持たせ“愛”を浮かび上がらせる。この濃密なムードとグルーヴに身を任せたならば、きっと感じ取れるだろう。(寺尾錬)


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