Review

The Linda Lindas: Growing Up

2022 / Epitaph
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ポップに彩られる成長と対話のファースト・アルバム

28 April 2022 | By Tatsuki Ichikawa

「何も気にせず踊ろう。問題を共有しよう。歌って見せよう。若さとは何か、成長とは何か」(「Growing Up」)

何よりも大切なのは「声」なのではないだろうか。その声を最初に聴いたのはある映画だ。学校内に蔓延る性差別と現代の女子高生たちのフェミニズム運動を描いたエイミー・ポーラー監督の映画『モキシー』は、ポーラー自身が出演していた『ミーンガールズ』から17年後に、新たな学園青春映画の形を提示するとともに、あるバンドを世間に紹介した。その名はザ・リンダ・リンダズ。劇中でビキニ・キル「Rebel Girl」のカヴァーを披露したこのバンドは、その2ヶ月後、ドラマーのミラ・デラガーザが実際に受けた人種差別の経験を基に書き上げられた、「Racist, Sexist Boy」をロサンゼルス公共図書館で演奏した動画で一気に注目を集めることになる。これが今から1年ほど前の出来事だ。

そんなバンドの待望のファースト・アルバム『Growing Up』はバンドの名を知らしめた「Racist, Sexist Boy」をラストに置く。アルバムは唸るような怒りのボーカルと演奏に向かって、表情を様々に変化させながら鮮やかに展開していく。日々の楽しさと悲しみ、不安と戸惑い、そして怒りが率直に歌われる様は、まさに10代の多様で切実な感情が26分という尺にパッケージされている「成長の記録」と呼ぶに相応しい。そして、その起伏の激しい感情と変化の中で自分を見失わない方法を、なんとか探しているようにも見える。思うに『Growing Up』は対話のアルバムでもある。それぞれの楽曲で作曲を分担したという彼女たちの歌は、まるでそれぞれの日々の出来事や、心の内を、輪になって語り合っているようである。大好きな猫との楽しい日々から、自分が透明人間かもしれないと思うほどの孤独感まで。快活でアップビートな演奏や、キャッチーなフックとヴォーカルのメロディであくまでもポップに彩りながら。

例えば、タイトル・トラックである「Growing Up」では、成長に対する複雑な心境を告白しながら、目の前の問題と向き合う手段、あるいは抱える不安を和らげる手段として、対話を提案する。不公平なことを議論すること、テーブルの下でお互いの耳元で囁くこと……。スケールの大小問わず、考えや感情を共有することを、彼女たちは求めている。

その次に来る曲のタイトルは「Talking To Myself」である。軽やかでポップなメロディに溢れるこの曲では、目の前の相手に向かって「私に話してみて」と何度も呼びかける。彼女たちは誰かに話すこと、誰かの話を聞くことこそが、混乱の時代、感傷的な時期にとって重要であると言っているようだ。

一方でそのことを積極的に求めるのは、彼女たちの日々の生活でそのような対話、あるいは自分たちの声が失われていることを実感しているからかもしれない。4曲目「Fine」や8曲目「Remember」では自分達の話を聞かない者への怒りや戸惑いが綴られている。自分の声は相手に届いておらず、自らの声が本当に出ているのか不安になる「Remember」の歌詞には胸が締め付けられる。9曲目「Magic」では自らのことを透明人間とすら言い、対話不能な世界への哀しみ、それによって孤独感に苛まれていることを綴る。シンプルで多彩な楽曲たちによるタイトなアルバムは、率直だからこそ、彼女たちにとっての「人と対話すること」のリアルが、ヒシヒシと伝わるようなラインに溢れている。

映画『モキシー』でも、抑圧される声と対話不能な世界が描かれていたが、主人公たちは、自らの存在を認識させ、その声を届けるために(または自分らしさを保つために)、行動を起こし、叫び、そして踊る姿をラストで見せていた。そう考えれば、ザ・リンダ・リンダズ『Growing Up』が「Racist, Sexist Boy」という叫びに行き着くまでの感情の旅であることは納得できるだろう。もっとも、彼女たちの好きなものが詰め込まれたアルバムはまるで玩具箱のように楽しいが、同時に、表情を様々に変えるヴォーカルと言葉は、成長という変化の中で、自分達を主張し、失わないための力強く正直な声でもある。対話すること、叫ぶこと、歌うこと。我々はそんな彼女たちの「声」に耳を傾けるべきだろう。そうすればいつしか、誰もが、何も気にせず踊れる日が来るかもしれない。(市川タツキ)


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