Review

Feeble Little Horse: Girl with Fish

2023 / Saddle Creek
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バンド・サウンドよ、軽やかに輝け

15 August 2023 | By Yasuyuki Ono

ピッツバーグを拠点として活動していた大学生四人組はシューゲイザーと如何わしさ漂うノイズ・ポップがカオティックなバランスで混交した快作『Hayday』(2021年)を卒業記念として制作した。同作がスネイル・メイルよりインスタグラム上でのフックアップを受け、各批評メディアからも高評価を得たことで、バンドの知名度は一気に引き上げられることとなった。そんな彼らがこの度、名門《Saddle Creek》とサインを交わしリリースするセカンド・アルバムが本作である。

サウンドに着目すれば「Freak」や「Steamllower」で顕著なザラついたハードでシューゲイザー・ライクな轟音ギターと近年のフィメイル・フォーク作品の流行でもあるような抑揚を落としたヴォーカル・スタイルがベース。そこに「Tin Man」、「Slide」での軽やかに弾むアコースティック・ギターのアルペジオや「Paces」、「Pocket」で聴こえるチープな音像のシンセサイザーなどを作品中にバランスよく散在させキャッチーなメロディーを添えることで、淡白でぼやけた印象になりがちなシューゲイザー・ルーツのサウンドにはっきりとした彩りと軽やかさを担保する構成が何よりも見事。《Pitchfork》を初めとした各批評メディアが本作のバンド・サウンドへ高い評価を与えているのも頷ける。

そのような彼らのサウンドの“軽やかさ”はバンドのメンタリティに由来するものかもしれない。これから期待するバンド、ミュージシャンを紹介する名物企画《Band To Watch》にて2021年に彼らを取り上げていた《Stereogum》へ、現在はフルタイムの仕事しているというギタリストのライアン・ウォルチョンスキは「音楽と自分たちのバンドに、それを主たる収入源としようとして取り組むことはいつも気が引けるんです」と語った。さらにシンガーでありベースも担当するリディア・スローカムも現在彼らのようなシューゲイザー・ライクなバンドの中心地となっているフィラデルフィアに拠点をピッツバーグから移動しないのかと問われると「もし音楽がわたしたちの人生であったら、そうしたかもしれませんが私たちは学生だし、音楽というのは私たちの人生じゃないんです」と語っている。

上記の発言にもあるようなこのバンドに存在する良い意味で“趣味的”で“アンシリアス”な精神性が、彼らの生み出す音楽の“軽やかさ”の源泉といえるのだろう(誤解を恐れずに言えばそれは私が田中ヤコブや家主の音楽を聴くと湧き出る感情と似ているところもある)。11曲27分。行きつく暇もなく一気に過ぎ去っていく本作から感じる“軽さ”こそが、いまロック・バンドの輝きを担保するものなのかもしれない。(尾野泰幸)


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