ベッドルームとダンスフロアの往還から生まれた、ほのかに官能的なディープ・ミニマル・ハウス
フォー・テットことキエラン・ヘブデンの音楽は狂気と正気が紙一重のバランスで共存している。それは、ダンスフロアとベッドルームとの狭間での葛藤から生まれるものだ。いわゆるフォークトロニカの先駆けとして瑞々しい電子音を鳴らしていた彼が、セオ・パリッシュの装飾性のない音響彫刻的なディープ・ハウス、ダブステップやグライムなどのベース・ミュージックに触れることで生み出したのが、『There Is Love In You』(10年)というアルバムや『Locked / Pyramid』(11年)という12インチに収められたディープ・ミニマル・ハウスだった。昨年には『Morning / Evening』いう20分弱の長尺曲を2曲収めただけの実験的なアルバムを出しているが、この新曲「Planet」で彼は前述のディープ・ミニマル・ハウス路線を更に拡張させようと試みている。
BPM128前後の4/4のミニマルなビートが軸となり、最初はパーカッションの役割を柔らかな音色を持ったマリンバのような楽器が担いつつも、途中からそれが叙情性を持ったアコースティック・ギターに置き換わることで、ビートに更に推進力が加えられている。それだけでも十分機能的なのだが、そこにカットアップされた女性のヴォイス・サンプルや光が差し込んでくるような歪んだシンセのリフを絶妙に交錯させることによって、トラック全体に危うさと官能性を持ち込んでいるのだ。
もっとも、彼はこの曲の発表の少し前にニュー・エイジ色の強い「Two Thousand and Seventeen」をリリースしているが、「Planet」はそれも霞んでしまうほどの強固なサウンド・プロダクションで構築されている。今の彼がアルバムという形態をどのように捉えているのかはわからないが、この流れをアルバムでどう構成するのか期待は膨らむばかりだ。今間違いなくいえるのは、キエランはこの「Planet」で彼の最新形を提示し、それが創造的であるということ、我々はこのトラックに合わせ夢中に踊ることができるということ、である。(坂本哲哉)
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