Review

Genevieve Artadi: Forever Forever

2023 / Brainfeeder
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穏やかでカラフルな永遠

20 March 2023 | By Koki Kato

この作品のアートワークに写るジェネヴィーヴ・アルターディは金髪。一方で、先行配信された「Visionary」のミュージック・ヴィデオでは80年代風に仮装した出で立ちで、その髪は黒く毛先は紫のような色に染められている。「髪をいろんな色に染めるのが好き」と過去のインタヴューで答えたアルターディ。その言葉やヴィジュアル・イメージが象徴するように、この人の音楽には様々な色が入り込んでいる。

カリフォルニア大学でジャズを専攻、1998年に結成されたエレクトロニック・グループのPollynに始まり、ルイス・コールとのユニット、KNOWERで活動。加えて、ブラジル出身のギタリスト、ペドロ・マルチンスとのユニット、Expensive Magnetsなどその音楽性は多岐に渡る。と思えば、サンダーキャットや(KNOWERとして)スナーキー・パピーらの楽曲への参加もある。アルターディの今日までの活動や関わりは、ジャンルやそれぞれの音楽家のプレイ・スタイルを問わず広範だ。ソロとしては、2020年にリリースした『Dizzy Strange Summer』に続き《Brainfeeder》からのリリースは今回が2作目、2015年に自主リリースした『Genevieve Lalala』を含めると、3作目になる。

これまでロサンゼルス、そして《Brainfeeder》周辺で活動してきたアルターディのソロ作品は、エレクトロニックでビートに重きがおかれたサウンドと感じることが多かった。それは、タイトなビートと電子音がせめぎ合うKNOWERでの活動の、ルイス・コールとの影響関係などから来るものでもあるだろう。しかし、今作『Forever Forever』では、ビートはやや後退し、例えば1曲目の「A Romantic Interlude Will Soon Come Your Way」が、生楽器を主体としたピアノとアコースティック・ギターの優しいタッチのバッキングの上で、伸びやかなハミングを歌うように、作品全体を穏やかさが包み込む。そこには同時に、Bandcampの作品ページに参照が列挙されているように、ドリーム・ポップな「Visionary」やボサノヴァな「Watch For The View」など、アルターディ自身が聴いてきた多様な音楽を表現に落とし込んでいる。また、招集した音楽家たち、ルイス・コール、ペドロ・マルチンス、クリス・フィッシュマン、チキータ・マジック、ダニエル・サンシャインらの個性も渦巻いている。

アルターディの声には、本人と本作に参加したメンバーによって幾つかのハーモニーが重ねられ、リバーヴがかけられ、抽象度は増し、ときに素朴な歌唱も用いながら、歌声それ自体がまるで本作を通底するアンビエンスになっていると言えるかもしれない。ただ、全編に渡って作曲を手掛けながら歌うシンガー・ソングライターの作品として、その歌だけに耳を傾けたとき、そのアンビエンスを伴った歌にはやや平坦なイメージを受けるところがある。そんな本作でアクセントになっているのは、手練れ揃いと言える参加ミュージシャンの演奏だ。

中でも印象に残るのはクリス・フィッシュマンの尽力。近年、パット・メセニーの最新トリオ〈サイド・アイ〉にも参加するロサンゼルス拠点の鍵盤奏者で、ルイス・コールの2022年作『Quality Over Opinion』の「Message」にも参加して静謐な演奏を披露している(ルイス・コールのこの曲にもアンビエンスを感じることに、アルターディやロサンゼルス周辺の音楽家たちとの影響関係を想像してしまう)。今作でフィッシュマンは、ピアノやシンセサイザーを演奏し、「Change Stays」ではペドロ・マルチンスと共にプロデュースを手掛けた。「Change Stays」のピアノのフレーズとリバーヴの残響音は、ピアノの旋律の美しさを携えながら本作のアンビエンスをより豊かなサウンドへと昇華している。まるでパット・メセニー・グループが1978年に《ECM》から発表した『Pat Metheny Group』収録の「San Lorenzo」の、ぼんやりと情景が立ち上がってくるようなサウンドのように。

本作の大半は、元々ビッグバンドのためにアルターディが書き下ろしたものだという。前述の通り大学でジャズを専攻していたアルターディにとって、本作ではプロデューサーをつとめながら、まるで楽器隊を指揮しているような作品だったのかもしれない。ビッグバンドのために書かれた楽曲群は、まるでフュージョン・バンドをバックにしたシンガー・ソングライター作品といった内容に変貌を遂げている。全体の半数以上の曲でソロ・パートがあり、楽器の演奏を聴かせようとする構成からもそういった印象を抱く。

しかし、本作は単なるシンガー・ソングライター兼プロデューサーと演奏者との関係性ではなく、関係を育んできた仲間との作品だということが、これまでのアルターディの、主にロサンゼルスを中心とした関わりから分かる。自宅での作業が多かったという前作までと打って変わって(サンダーキャットのバンドにも参加する鍵盤奏者のデニス・ハムのすすめで)メキシコの森林に囲まれたスタジオ〈El Desierto〉で寝食を共にしながら今作の制作を行っていることも重要な要素の1つだろう。本人が「キャンプのような雰囲気だった」と話すように、和気藹々とした様子が「I Know」のミュージック・ヴィデオの映像にも収められていて、その様子を物語っている。

そんな本作のテーマは、愛である。「私が人生で抱く人々への愛についてのアルバムで、安心感、変化の受容、破裂、喜びなど、さまざまな側面を丁寧に表現しようと試みた作品」とアルターディ自身が話すように、関係性について書かれた歌詞が、そしてLOVEという言葉が随所で歌われている。「I Know」での〈See, the changes never broke us/See, they awoke us(見て、変化は私たちの関係を決して壊さない/見て、それは私たちに気づかせてくれる)」や「Change Stays」では太陽の昇り降りを普遍的な変化として描写しながら「I’ll always want forever(私は永遠をいつまで欲する)」と歌う。やがて訪れる変化。それは時にどうしようもない出来事などによってもたらされるものであるが、人と人との関係性を重要に考えるアルターディの切望がここにはある。「永遠、永遠」と繰り返すアルバム・タイトル『Forever Forever』は文字だけで見ると強調を伴うが、本作を聴いてみると、その語気は穏やかで、変化を受け入れながら関係性を継続していこうとする様子が写し出される。

必ずしもアルターディの歌唱だけが突出して聴こえてこないこの作品には、様々な色が入り込んでいる。それは、自身のスタイルの中に様々な色や変化が入り込む余地、それを受け入れることを楽しんでいるようにも思える。そして、それは本作に参加した音楽家らのそれぞれの個性、関係を尊重することとも繋がって、音になる。穏やかさを伴った、フュージョン・バンドと作り上げたシンガー・ソングライター作品。そんな風に聞こえたのは、そのせいかもしれない。(加藤孔紀)

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