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The Smile: Cutouts

2024 / XL / Beat
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自由闊達なバンドのダイナミズムを定着

22 November 2024 | By Kenji Komai

今年の1月に新宿の映画館で実施された『Wall Of Eyes』の先行リスニング・イベントの終盤。余韻に浸っていると、スクリーンに「WHAT’S THIS THEN…?(では、これは何だ…?)」とテキストが投影され、これまでのアルバムの流れとはいささか異質な、ジャズ・クラブにいるようなSEまじりの流麗なピアノ、そしてストリングスがボーナス・トラックのように流れ始める。「ニュー・アルバムもまだ出ていないのに新曲か!」とそのサプライズに困惑のような喜びがあった。それがあとになって、このサード・アルバムに収録されることになる「Tiptoe」であることが判明するのだが、そのときに感じた暗闇から抜け出したときのような開放感とカタルシスは、アルバム『Cutouts』にも息づいている。

『Wall Of Eyes』がスタンリー・ドンウッドとトム・ヨークによるアートワークと同じく、リゾームのように生い茂っていくプログレ的な重厚さをたたえていたのに対し、『Cutouts』は実に小気味よい。ヴァンゲリス的なシンセの音色と荘厳なオーケストレーションの間を行き来しながら、2022年5月にライヴで発表され、ちょうど昨日書きあげたばかり、と紹介された「Bodies Laughing」が音源化されているように、変化し続けるバンドの姿が定着している。そのバンドのコンビネーションが手に取るようにわかるのが、「Eyes & Mouth」だ。スキナーのタイトなドラムからスタートし、グリーンウッドのアグレッシヴなギター、キーボード、ベース、ヴォーカルと徐々にビルドアップされていく展開にはほれぼれする。また「Colours Fly」では、イスラエルのドゥドゥ・タッサとのコラボレーション『Jarak Qaribak』(2023年)をはじめとするグリーンウッドの中東音楽への興味が色濃く現れている。

こうした自由闊達さに、プロデューサーのサム・ペッツ・デイヴィスの功績は見逃せないだろう。彼はヨークの映画音楽における最新作『信頼』(ダニエレ・ルケッティ監督)のサウンドトラック『Confidenza』(2024年)ではプロデュース、ミックス、エンジニアとして加わり、「Zero Sum」「Colours Fly」でプレイするロバート・スティルマンをバンドマスターに迎え、トム・スキナーとロンドン・コンテンポラリー・オーケストラとともにジャズ・アンサンブルを構築している。ちなみに今年、日本のイタリア映画祭でも上映された『信頼』は、オーソドックスな人間ドラマと見せかけて、自身の生んだ牢獄のなかで身動きができなくなっていくという設定に『サスペリア』(2018年)から通底するヨークの醸し出す陰鬱なムードがハマりまくっていた。さらにデイヴィスは現在開催中のヨークのソロ・ツアーでも裏側で関わっているほか、ヨークがプロデュースを手掛けたダジャナ・ ロンシオーネの「Stepdaughter」でもミキサーを担当していて、ヨークが全幅の信頼を寄せていることが感じられる。

前作『Wall Of Eyes』リリースの際にスキナーは「他にも曲はあるけれど、この8曲はなんとなくしっくりくる。特に意識したわけではなく、なんとなく全部がうまくまとまっているように思えた」と語っているが、言い換えれば『Cutouts』はそのまとまりから外れた、中心からはじき出されたものたち、と言えるだろうか。もちろんアウトテイク集というわけではないが、むしろ、突発的なアイディアを即効性を持ってかたちにしていき、棚からひとつかみするようにまとめていく方法論は、ザ・スマイルのスタンスそのものだ。ライヴのダイナミズムを持って動き続けるこのフットワークの軽さ、ザ・スマイルの本質を的確に表現したアルバムと呼べるだろう。(駒井憲嗣)

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