Review

CARNATION: Carousel Circle

2023 / Nippon Crown
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枯れることのないシーンの道標

29 November 2023 | By Dreamy Deka

結成から40年を迎えても歩みを止めることなくコンスタントに新作をリリースし、Laura day romance、butaji、ayU tokiOなど世代の異なる気鋭との対バンにも積極的なモンスター・バンド、カーネーションが19作目となるオリジナル・アルバム『Carousel Circle』を発表した。

私にとって2021年11月にリリースされた前作『Turntable Overtrue』は、コロナ禍が生み出した不条理とやり切れなさをレコードの溝に深く刻んだ作品だった。“何がきみを変えた?”という問いかけで始まり、仕事のない街の中で消えていった仲間を思い、最後の「Blue Black」ではそれでもなんとかなると声に出してみる。もちろん大前提として、そこには彼らにしか鳴らせないポップ・ミュージックの大いなる愉悦も存在していたわけだけれども、あの灰色の日々の記憶と密接に結びついた大切なサウンドトラックのような存在だった。

しかし本作の一曲目「ここから -Into the Light-」を再生した瞬間に流れる電流。ブルーズの回廊を一気に駆け抜けて、まっすぐな高速道路を海に向かって突っ走っていくような疾走感。一聴しただけで彼のものと分かる田中ヤコブの過積載気味のギターも乗せたまま突っ走るバンドワゴンの迫力が、あの時に世の中を覆っていた暗雲を一気に振り払っていく。言うまでもなく世界は今だって、いや今の方がはるかに残酷な狂気の中にある。それでも、ワルツのリズムを刻む端正なピアノに絡みつく奔放なギターとトリッキーなドラムが印象的な「カルーセル」、王道のパワー・ポップのフォーマットにスリリングなコードとメロディが惜しみなく投じられた「愛の地図」。こんな曲が鳴っている間だけは、つかの間の生を謳歌してもいいんじゃないか。冒頭の三曲は生命力にあふれた演奏と軽やかな創造性をもって、罪深くも瑞々しいポップソングの世界へ誘ってくる。

しかし中盤に差し掛かり、組曲、あるいはロックオペラのように構成されている「ペインター」と「光放つもの」に差し掛かるとまた違った表情が現れる。前者では未だ衰えることを知らない直枝政広のソングライティングに対する好奇心と喜びが、後者では一転して不穏なメロディに乗せて眩い光を放つ若い才能に対する情念が吐露されているように聴こえるのだ。アーティストとして生きることの光と影、あるいは愛憎をかくも率直に、しかしユーモアをも欠かさない音楽として表現できるところに彼らが培ってきたスキルのすごみと、その根底にある飽くなき好奇心を感じさせる。そしてこの視点でアルバムを聴き込んでみると、この作品が単に最高の11曲を収録したソングブックというだけではなく、直枝政広というソングライターとカーネーションというバンド/ユニットの40年間という大きなテーマに貫かれた作品なのではないかという予感が生まれる。

そんな予感を確かな手触りへと変える楽曲が、長いバンドの歴史の中で初めてベースの大田譲が作詞作曲を手がけたという「深ミドリ」だ。人懐っこいメロディの向こう側に広がる谷口雄によるシタールとウーリッツァーが醸し出すサイケデリア。ここに史上最高のコンセプト・アルバム『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』を生んだ中期ビートルズの幻影を見出さないわけにはいかない。さらに言えば、ビートルズの最良の遺伝子とも言うべきXTCのアンディ・パートリッジとも親交の深い鈴木さえ子がアレンジした最終曲「Sunlight」の誇り高きストリングスとメロトロンの響きもまた、その影をより濃くしている。「Carousel Circle=回転木馬」というタイトルの通り、日々の悲喜交々が込められた楽曲を追いかけていくうちに描かれる大きな円環。人生そのものの縮図という言葉はこのアルバムとこのバンドにこそ相応しい。

思えば小学生の時に初めて「Edo River」を耳にした時からずっと、私にとってカーネーションの音楽はキャッチーでありながらもどこかスモーキーな匂いのする大人のポップ・ミュージックだった。それから30年以上が経った今も依然として深い含蓄を感じさせつつも、枯れることなくシーンにおける道標としてそこに存在し続けている。その得難さと、それがどこからやって来るものなのか、多彩な語彙をもって教えてくれる作品である。(ドリーミー刑事)

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