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Young Thug: Business Is Business

2023 / Young Stoner Life / 300 Entertainment
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トラップ・シーンの重鎮=ヤング・サグの言葉は、暗い鉄格子の中で反響する

11 August 2023 | By Nao Shimaoka

ヤング・サグは、音楽レーベル《Young Stoner Life》のアルバム『Slime Language 2』で、一つの上等な椅子に仲間と共に鎮座していた。しかし、現在収監中のアトランタの王様は、自身の最新作『Business Is Business』の白黒カヴァーで、法廷で共同被告人に囲まれ、小さな椅子に座ってこちらを見つめている。トラップを追求し続けたサグは、司法によってトラップされたのだ。

他と一線を画すユニークなフロウに、圧倒的カリスマ、そしてトラップに多様な可能性を宿らせたセンス。類まれな音楽的才能と絶大な影響力を誇るラッパー=ヤング・サグの存在無しにして、2010年代におけるヒップホップ・シーンの盛況は、生まれなかっただろう。しかしそのパワーも、RICO法(米国において主に組織的犯罪を規制し摘発する法令)から逃れることは決してできない。サグは《Young Stoner Life》に所属するメンバー数人と共に、ラッケティア活動(違法行為によって利益を得る犯罪)や殺人容疑を理由に複数の罪に問われている。そしてヤング・サグことジェフェリー・ラマー・ウィリアムズの裁判は、陪審選任手続きの遅延が原因で1年以上続いており、アトランタ州史上最も長い裁判として記録されている。

メトロ・ブーミンがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた『Business Is Business』は、ヤング・サグが刑務所に入る前に大量に制作していた楽曲の一部をまとめた作品だ。「Money On The Dresser」やフューチャーを迎えた「Cars Bring Me Out」では、サグのシグネチャーであるキャッチーなフロウが楽しめる。バンガーとして最も有力な候補は、21サヴェージ、トラヴィス・スコット、ヤック・ゴッティが集った「Wit Da Racks」だろう。

過去に録音された楽曲達を収録したアルバムということもあり、現在の彼の状況と照らし合わせると感情移入しにくい部分が多いが、リスナーと監獄中のサグの現実を結び付ける役割はなんと、トロントの大スター=ドレイクが担っているのだ。浮遊感あるサウンドが夢心地な雰囲気を誘うオープニング「Parade on Cleveland」でシャンペーン・パピは代弁する。「俺が家に帰ったらすぐクリーブランド通り(サグの馴染みの地域)でパレードだ、俺はホームに戻るんだ」。また、同じくドレイクの客演する「Oh U Went」は、暑いアトランタのサマー・アンセムであり、サグの出所を想像して祝うような歓喜の曲だ。彼の故郷アトランタで、ドレイクが彼が不在のシーンを背負うように街の人々と共にラップする姿は、作品の中でも数少ない印象的な瞬間だ。サグの存在感の薄さをドレイクが補うことで、本作はより深い味わいを獲得しているのかもしれない。

さらに、最終曲「Global Access」の最初でFUN.のネイト・ルイスが、以下のように歌う。「彼らはあなたを牢屋に閉じ込めようとする/あなたのことを悪く言う/あなたが成り得る全てを恐れて/なぜならそれがアメリカでの人生だから/だから彼らはあなたの口を塞ぐ/あなたの発言を捻じ曲げる/あなたが世界を変えてしまうと恐れて/それがアメリカでの日常だ」。

サグの後輩にあたるラッパー=ガンナことセルジオ・キッチンズは、2022年12月に司法取引で釈放されており、今作がリリースされる一週間前に彼もアルバムを発表している。ヤング・サグは自身のキャリアだけに専念せず、環境が整っていない地元の同輩に機会と知見を与え、後世の育成にも力を注いできた。結果として、リル・ベイビーやガンナ等の人気ラッパーを輩出した彼のシーンへの功績は、確かに間違いないものだ。

しかし、彼のブループリントを受け継ぐ者はいても、サグに代わる存在は今後も現れることはないだろう。彼が深い洞窟から帰ってくることができるのか、それは依然として不明であり、裁判の現状がかなり厳しいのは事実だ。『Business Is Business』でサグが投獄された後に話した言葉と思われる部分は、「Parade on Cleveland」で間接的にガンナについて言及している通話録音のみ。ヤング・サグの心中の言葉は、暗い鉄格子の中で反響しているのである。(島岡奈央)


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