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Alvvays: Blue Rev

2022 / Polyvinyl / Transgressive / P-VINE
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在りし日への郷愁と感傷を奔放に歌い鳴らす、今現在のインディーポップ

27 October 2022 | By Hitoshi Abe

テレヴィジョンのトム・ヴァーレイン、ベリンダ・カーライルの「Heaven Is a Place on Earth」、TVドラマ『ジェシカおばさんの事件簿』のジェシカ・フレッチャーなど、主人公(実体験に基づくものも多いそう)の記憶の断片が散りばめられている、5年ぶりの新作『Blue Rev』。幼少期のモリー・ランキンと両親の写真だというアルバムジャケットもそうで、交通事故で亡くなった父ジョン・モリス(ケルト音楽一家ラスキン・ファミリーのフィドル奏者として活躍)の在りし日の姿や、タイトルのブルー・レヴ(モリーが過ごしたケープブレトンの街で親しまれているアルコール飲料)が、本作に通底する甘くほろ苦い郷愁と感傷を象徴的に示している。

甘いだけならいいのだけど、思い出したくない記憶も多々…。過去とはそういうものだ。だが薬局で元カレの妹と遭遇した気まずさを歌う「Pharmacist」では、ケヴィン・シールズを彷彿とさせるアレック・オハンリーのグライドギターが煌びやかに冒頭を飾り、村上春樹の『after the quake』(原題:神の子どもたちはみな踊る)からインスパイアされ、恋人との破局後の心情を震災後になぞらえた「After The Earthquake」でも、ニューウェイヴの色彩を感じさせるギターがなんとも軽やかに響いている。前作『Antisocialites』以降に加入したリズム隊の2人や、アラバマ・シェイクスなどとの仕事で知られる共同プロデューサーのショーン・エヴェレットも、インディーポップ然としたオールウェイズの持ち味はそのままに、臨場感を増した力強いバンドサウンドをもたらしているようだ。

「Pressed」ではさながらモリッシー&マーのような歌唱とギターで人間関係の葛藤を歌い鳴らしたかと思えば、あからさまに80年代パロディ風なシンセサウンドの「Very Online Guy」ではソーシャルメディア中毒を皮肉ったりと、本作はサウンドもリリックもこれまで以上に奔放ではっちゃけている。とりわけ情感豊かに歌う「Tile By Tile」の哀愁から、間髪入れずに前のめりなパンクナンバー「Pomeranian Spinster」になだれ込む流れは本作随一のハイライトで、モリーが叫ぶ「ブレーキから足を、足を、足…」から、つんざくようなアレックのギターソロに突っ込む様子は、何か吹っ切れたように痛快だ。

今の歩みへの確信と喜びに満ちた「Many Mirrors」やしめやかにショーを終える「Fourth Figure」など、作品を通して過去への未練や後悔、割り切れない葛藤も確実に滲ませながらも、本作はとても前向きで晴れやかに、今現在を生きていく賛歌のようにキラキラしている。歌謡的であたたかみのある歌唱やメロディに宿るどこか懐かしい安心感は、父の影響でもありモリーのルーツというケルト音楽の質感もほんのりと感じさせるが、例えばAlvvaysの“w”が2つの“v”に分かれながらも隣り合っているように、暖かい思い出も時にトラウマティックな記憶も、二度と会えない人と過ごした日々も、それらすべての集積として今の僕らがいるのだ。

いまだに続くパンデミックの影響で、在りし日と今現在が分かたれたような感覚をずっと引きずっている2022年の秋。でも(取り戻せないものもあるけど)僕らは少しずつ“いつも”を取り戻してきた。「Easy On Your Own?」で「だって私たちは“いつも”」と歌う、モノクロームの“震災後”と向き合いながら(時に無理せずやり過ごしながら)、なんとか歩いていこう。本作を繰り返し聴いた今の心境はそんな感じだ。(阿部仁知)

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