Review

王舟: Big fish

2019 / Felicity
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日本のシティ・ミュージックの真ん中で

22 May 2019 | By Dreamy Deka

細野晴臣、さとうもか、ミツメ、ネバヤンに東郷清丸…数えだすとあっという間に両手の指が足りなくなってしまうほど良作のリリースが続く2019年上半期の日本の音楽シーン。王舟がリリースする3年ぶりのフル・アルバムは、その百花繚乱の中でもひときわ特別な輝きを放つと共に、彼自身のキャリアにおいても決定的な一枚となること間違いなしの、これぞ王舟サウンドの集大成と言いたくなる作品だ。

2010年にリリースした「THAILAND」「賛成」という2枚の傑作CD-Rを皮切りに、英語と日本語、アコースティックとエレクトロニカを自由に往来しながら都市の風景とそこに暮らす人々の生活を彩る歌を紡いできた王舟。全編自宅録音で制作された前作『Pictures』(2016年)以降、イタリア人アーティスト、Mattia CollettiやBIOMAN(neco眠る)とのアンビエント色の強い作品でのコラボレーションを経て、ついに彼は意思のない残響音や生活音、静寂までも音楽に変えてしまう、あるいは本来は無機質な電子音に安らぎという感情を宿す魔法を獲得してしまったかのようである。

  アルバム冒頭を飾る「Sonny」のイントロで、ドアの閉まる音や鳥のさえずり、チューニング音のようなギターリフが、彼の美しい歌に誘われ一つの小川のようなグルーヴへと変容していく様は、何度聴いても鳥肌が立つ。

 そして7インチとしてもリリースされた「Muzhhik」における、小節や拍数といったあらゆる約束事から解放された無重力空間の中で泳ぎ回る音の粒子と、彼にしか歌うことのできない美しく人懐っこいメロディの共演は、王舟の表現がエクスペリメンタルやポップといった概念を超えた高みに到達したことを表している。

そもそも王舟と言えば、cero、シャムキャッツの盟友であり、いわゆる東京インディーシーンの立役者の一人だが、どこか飄々として東京や日本といった内向きの指向を感じさせない、アウトサイダーの雰囲気があった。そんな彼が、最初のリリースから約10年を経て、ついにシーンの真ん中で存在感を発揮する時がきたのかもしれない。ラストに収められた「Family Museum」の大きくて優しいメロディーに乗せて歌われる、日本のシティ・ミュージックにおいて最も有名なフレーズである「風を集めて」という歌詞を聴きながら、ついそんなことを考えてしまった。(ドリーミー刑事)

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