Review

Mitski: Be the Cowboy

2018 / Dead Oceans / Hostess Entertainment
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インディー・ロックを導き解放する“ポップ・コンポーザー=Mitski”の誕生

15 September 2018 | By Nami Igusa

いよいよ私達は”インディー”のイメージを本当に改めないといけないと痛感させられた。時にローファイなサウンドさえも、その味となるインディー・ロック。ソニック・ユースやニルヴァーナさえも思わせるようなオルタナ直系の激しいギター・サウンドを掻き鳴らすこともあったこれまでのミツキも、そのうちの1人だった。だが今作は一転、ピアノを主軸に洗練されたアレンジが施された、純度100%のポップ・ミュージック集だ。そしてまさしく、従来の彼女のイメージ、そして“インディー”の認識を覆す傑作である。

そもそも、“ポップ”とは何か? 明るくてアップテンポな曲調だろうか? いや、今作でミツキが求めた”ポップさ”はそれだけではない。それは、シンガロングできるようなド直球のメロディーと、聴き手をワクワクさせるようなアレンジのことなのだ。

彼女のメロディー・ライティングの非凡さは、代表曲「ユア・ベスト・アメリカン・ガール」(2016年)ですでに証明済みだろう。今作の歌メロも、歌謡曲のようなストレートさが美しく、耳に残って仕方がない。ただ今作でより進化を遂げたのは、アレンジや構成力のほうだ。ラストで拍の取り方がコロッと変わる「ガイザー」、ワンコーラスですぐ転調してしまう「ホワイ・ディドゥント・ユー・ストップ・ミー?」のように、いくつもの要素を短い1曲のうちに凝縮してしまうその作編曲は、さながらポール・マッカートニー…というのは少々言い過ぎにしてもやはり刺激的であり、素直に驚嘆せずにはいられない。

1〜3分台のポップソングの詰まったまるでジュークボックスのような今作は、ある意味大衆的なエンターテイメント作だとも言える。ミツキは今年、世界の歌姫=ロードの北米ツアーにも出演していたが、今作からはそれこそロードのようなアリーナ・クラスの風格をも感じるのだ。実際、直近のライブでのミツキは身振りを交えながらマイク1本で歌っていたようで、そこには、作編曲家としての彼女の自信を感じ取れる。と同時に、この洗練されたコンポーザーとして華麗に脱皮したミツキこそが、“インディー・ロック”をあまねく人々に歌われるものとして導き、解放していくような予感さえしてしまうのだ。(井草七海)

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