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The Mirraz: 全部メタルになぁ〜れ♥

2025 / KINOI,INC.
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ASMRと柑橘めたる

26 January 2026 | By Shoya Takahashi

ミイラズの『全部メタルになぁ〜れ♥』には正直驚いた。本作はタイトルどおり「いま流行っている音楽にメタルっぽいギターリフをつけたら?」という発想でつくられたミニアルバムだそう。

今年結成20周年を迎えるかれらが、インディーズ・デビュー時以来ずっと引き摺りつづけているものがある。もはや手癖として内面化しきったクラクソンズ譲りのダンサブルな単音リフを、既存のポップソングの語彙と融合する発想。これがミイラズのキャリアを貫いてきた常套手段である。たとえばそれは、ビースティ・ボーイズを恥ずかしげもなく剽窃した「check it out! check it out! check it out! check it out!」(2009年)であり(この曲には印税が入らなかったことを後にソングライター畠山は零している* )、ギターを電子音に持ち替えることでガレージロックのジャスティス化を計った『マジか。と つーか、E.P.』(2015年)であり、トロピカル・ハウスに目配せした「再勇気」(2016年)やヴェイパーウェイブとカルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol.1』(2017年)に目配せした「MoonSongBaby(City Funk Remix)」(2017年)であり、トラップ時代のBPMの遅さを意識することで四分打ち系ダンスロックを更新した「通販番組」(2017年)であった。

* 印税の話 – The Mirraz

そしてもうひとつ。ミイラズが慢性的に抱えてきた課題、音圧の弱さを克服するかのように、『Last Straw』(2020年)以降はアルバムごとに使用機材の変化を伴うサウンド改革を試みている。音楽的にも、たとえば『AM』(2013年)以降のアークティック・モンキーズをはじめMGMTやテーム・インパラといった2010年代サイケデリア勢を思わせる作曲への更新もたしかに感じる。

新作『全部メタルになぁ〜れ♥』の良さはディストーション・ギターの快楽性にある。それはもちろんジャック・ホワイト『No Name』(2024年)で聴けるギターの音色のような、全能感ある豊かな至高性には及ばない。しかし「イェーウォー」や「ギャギャギャギャギャギャ」の、水銀を泡立て器にかけたような粒の多いギターノイズ(≒グリッチノイズ)は好ましい。「これこれこれこれ」や「ローレルローレルローレル」での、針金の束を回転刃で研削しているような鋭角のギターの音質もかなり良い。「ねーよ」や「夕飯にラーメンって勇敢じゃない?」ではベースやバスドラムの低音の鳴りが強調され、プロダクションの腰が座っている。ここにあるのはメタルっぽいという記号というよりも、音の質感そのものがもたらす快楽である。

本作は、かつてWHITE ASHが『THE DARK BLACK GROOVE』(2015年)でアークティック『AM』とジャパニーズR&Bの融合を試みたこと、あるいは8ottoが後藤正文プロデュースの『Dawn On』(2017年)で2010年代の分業制ポッププロダクションへの回答を試みたことに、近似値がとれる作品だと思う。
***固有名詞が頻出する原稿で申し訳ない。***
ただその近似の先でミイラズがやってのけたことは明快だ。かれらは『全部メタルになぁ〜れ♥』で、メタルという記号と手法に足がかりを得ることで、自身の手癖を相対化することに成功している。言い換えれば、キャリアを積んだインディーミュージシャンはしばしば「ノンジャンル化」や「ポップ・アート化」によって自らの音楽的素養の乏しさを露呈してしまうが、ミイラズは“メタル”というジャンルに依拠することで、そのリスクを期せずして回避している。自身の器用さで“何でもやる”方向へ拡散するのではなく、外部の強い型(=メタル)に身を預けることで、むしろ手癖の輪郭を見えやすくしている。

ただし、『全部メタルになぁ〜れ♥』はメタル・レコードではない。全編にわたりブラック・サバスやAC/DCばりの、つまりハードロック〜初期ヘヴィメタル的な単音ギターリフが聴かれるのだが、メタルというにはキックが軽いし、メタル特有の空間全体を覆う煙霧のようなムードも足りない。それじゃあ、ギターリフとリズムだけで構成された音楽という意味で、ここはひとつ“ロックンロール”と呼んでみるのはどうでしょう。ちなみに私は2019年には100 gecsをロックンロールと言っていました。つまりそういう文脈。

最後に、柑橘めたるの話をしようと思う。柑橘めたるは主にYouTubeで活動するインフルエンサー。野原しんのすけのような鼻にかかった低い声が特徴的で、投稿されるYouTube動画の尺は2分前後の短いものがほとんど(100 gecsの曲の尺とほぼ同じ)。動画の内容は、夕方に起床して料理した、一人暮らしの部屋に母がくるので掃除した、といった簡素なものだが、声や話し方がフックになりつい見てしまう。喋っている内容はどうでもよくて、柑橘めたるが喋っているだけで満足という視聴者は多いはずだ。この柑橘めたるの声質は、リンク・レイが真空管アンプをオーバーロードさせたり、オジー・オズボーンがブルースロックに“恐怖”の概念を持ち込んだりしたような類の、生来の発明だと思う。Dr.ハインリッヒの漫才における、狂言のようにこぶしを効かせた発声と比較してもいいだろう。

ミイラズにとっての『全部メタルになぁ〜れ♥』は、柑橘めたるやDr.ハインリッヒの発声表現のようなものだ。自分たちの手垢のついた文体に、ASMRにも近い耳心地を付加することで、「聴きたい」という欲求までの新たな回路を開拓することである。ミイラズはかつて『マジか。と つーか、E.P.』でEDMを意識した音楽性をやったときはその方向性でフルアルバム2枚を発表していた。今回もこの方向性でフルアルバムもう1枚作ってほしいな。(髙橋翔哉)

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