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HYUKOH, 落日飛車 Sunset Rollercoaster: AAA

2024 / DOOROODOOROO ARTIST COMPANY / Sunset / YG Plus
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台湾と韓国のミュージックシーンの最前線を走る二つのバンドが融合した「最高」のアルバム

26 August 2024 | By Yo Kurokawa

台湾と韓国、それぞれ自国のミュージックシーンを超えて世界でも存在感を放つ落日飛車 Sunset Rollercoasterとヒョゴ。2つのバンド固有の世界観が文字通り「完璧に」融合したのが、今回のコラボレーション・アルバム『AAA』だ。

類まれにユニークなキャラクターを持つバンド同士がここまで徹底的に交わりあって、アルバムという一つの確固たる作品を作り上げた例を、浅学な私は寡聞にして知らない。2020年の落日飛車のサード・アルバム『SOFT STORM』を象徴する1曲「Candlelight」にヒョゴのフロントマン=OHHYUK が参加したり、同年のヒョゴのEP『through love』の収録曲「Help」のリメイクを落日飛車が担当したり、いわば部分的なコラボレーションは交流の盛んなアーティスト同士であれば大きな驚きはない。両バンドのファンであれば、直近のBTS・RMのソロアルバム収録曲「Come back to me」での活躍も記憶に新しいだろう。でも、今回のアルバムは違う。今のアジアのインディー・シーンを代表すると言っても過言ではない2つの巨大な才能が溶け合って、曲ごとにそのグラデーションを変化させながら、アルバム全体として美しい一つの宇宙を織りなしているのだ。

冒頭の2曲は、アルバム全体を象徴するもので、絶妙に均等なバランスで両バンドの魅力が溶け合っている。オープニングを飾る「Kite War」の不穏な幕開け! 落日飛車を象徴するきらめくシンセサイザーと、硬派でオーセンティックなバンドサウンドが持ち味のヒョゴらしい、一定のリズムを刻み続けるベースと遠くから近づいてくるギターのせめぎ合いは、両バンドのスリリングな競演を否応なく予感させる。ドラム、さらにシンセサイザーと少しずつ音が重なり、OHHYUKの一度聴いたら忘れられない独特な声色のヴォーカルと、黄浩庭のサックスによる危うげなインプロヴィゼーションが縦横無尽に駆け回る。「Kite War」のこのざらついた質感を削ぎ落し、両バンドの持ち味を活かして作りこみを一歩深めたのが2曲目の「Y」である。ほぼ同じフレーズを執拗に繰り返しながら螺旋状に盛り上がっていく様はまるで落日飛車の「My Jinji」で、OHHYUKが絞り出すようなファルセットで「why?」と問いかける浮世離れした響きはヒョゴの楽曲から常に漂うアンセム風の壮大なスケール感を演出している。今回のアルバムの中でも、この「Y」が両バンドの一番のお気に入りだというのも納得の一曲だ。「My Jinji」のように極限まで緊張を高めて劇的に終わるのではなく、ベース音だけが残り、我々を現実に引き戻すエンディングにはヒョゴらしいバランス感覚が感じられる。

落日飛車のロマンチックな世界観にヒョゴのメンバーが迷い込んできたかのようなバランスなのが、続く「Glue」。抑制のきいたメロウな雰囲気が支配するこの曲は落日飛車の独壇場といえるが、例えばヒョゴからKuoにヴォーカルをバトンタッチする1回目の間奏で急にベースとリズム・パターンだけになる緩急のつけ方は、落日飛車では見られない駆け引きだし、歌うともスキャットともつかない後半のOHHYUKの遊びをもたせたヴォーカルワークはヒョゴらしい余裕を感じさせる。反対にインディー・ロック風の「Young Man」はヒョゴがメインで書いたと思われるが、実は落日飛車もスリーピースバンド時代のファースト・アルバム『BOSSA NOVA』では60年代英ロックに影響を受けたかなりピュアなロック・サウンドを志向していた時代がある。そのせいか、違和感なくギターサウンド主体のヒョゴの世界観に溶け込みつつ、要所でシンセサイザーやサックスで華を添えている。

ヒョゴの作品、特に直近のEP『through love』には「Help」という曲名やジョン・レノンのクールな名曲「Come Together」へのオマージュ「Flat Dog」など、明らかにザ・ビートルズとの関連性が見いだせるが、その影響は今回の『AAA』でも健在だ。例えば3曲目の「Antenna」は、アルバムに通底する緊張感を緩和させる意味で『Abbey Road』における「Sun King」のような効果をもたらしている。さらに、ラストを飾る「2F 年轻人」はシンプルなアコースティック・サウンドと、冒頭に語りが入るラフであたたかな雰囲気はまるで「Two of Us」のようだ。誰かがたわむれに弾いた「Here Comes The Sun」の一節まで微かに聞こえる。落日飛車は特に本人たちからザ・ビートルズに関する言及を聞いたことが無いが、どうなんだろうか。

今回のタイトル「AAA」は、格付けの階級として「最上級」「最高品質」などを意味するのに加えて、両バンドが文化的な境界線をなくそうとする「Access All Areas」の略でもあるらしい。ジャケットも彼らの出身国である韓国や台湾の「東アジア」のイメージよりも、どこか乾いた空気をまとった無国籍風の1枚になっている。活躍の場を世界に向けてどんどん広げていく彼らの今の「最高」が詰まった1枚である。(Yo Kurokawa)


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