Review

JAY-Z: 4:44

2017 / Roc Nation / Universal Music Japan
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"声"にポイントを置いたNo I.D.のトラックも印象的な、作家史上、最高にパーソナルな一枚

02 August 2017 | By Yuta Sakauchi

一聴した印象は、めちゃくちゃフレッシュ。ジェイ・Z、13枚目のスタジオ・アルバムは、”妻に浮気を謝罪し、息も絶え絶えに意気消沈してラップするヒップホップのキング”--つまり現実のジェイ・Zの経験を反映し、さらには同じ件を妻の立場から描いたビヨンセの傑作『レモネード』(2016年)を明確に受けての作品。そのテーマや作家の新たな物語が創造性を更新した一枚だ。

多彩なプロデューサーを起用し、アメリカ音楽のジャンルや歴史を縦横断した『レモネード』とは対照的に、『4:44』は、パーソナルな作品に聴こえることを狙ってのことだろう、No I.D.がトラックのプロデュースを、ほぼ一手に担っている。そして、そのトラックが素晴らしいのだ。サンプリング主体でソウルフルかつグルーヴィでありながら、アタック感の強いビートの曲はほとんどなく、構成要素は削ぎ落とされミニマルとも形容したいシンプルさがある。

そんな良い温度感のトラックの中でも、制作のポイントはおそらく”声”に置かれている。サンプリングでは、ニーナ・シモンやクラーク・シスターズの歌を引用。さらにコーラスも含めたゲスト・ヴォーカルとして、ビヨンセ、キム・バレル、フランク・オーシャン、また(ボーナス曲扱いだが)愛娘ブルーやジェームズ・ブレイクもフィーチャー。それら”声”の存在感が、アルバムにどこかスピリチュアルな感覚をもたらす。他にも、シスター・ナンシーの「Bam Bam」(現在、対立が話題となっている元盟友、カニエ・ウェストが最新作『The Life of Pablo』でもサンプリングした一曲)を引用した「Bam」に、ボブ・マーリーの息子でレゲエ・シンガーのダミアン・マーリーをフィーチャー。一方で、ラッパーのゲストが一人もいないことも本作のポイントだろう。

そんなサウンドと呼応して、ジェイ・Zのラップも過去最高にナイーヴに響く。ジョン・レノンがそうだったように、真の男(表現者)は自らの痛みや弱みも晒すことが出来るもの。とかくビジネスやゴシップの話題が先行しがちなジェイ・Zだが、その凄みはアーティストとしての才能とビジネスを両立する高次元でのバランス感覚にあるのだろう、と腑に落ちる一枚でもある。CD版のボーナス3曲も独特のファンク感が興味深く、アルバムを通して良い塩梅で、末長く聴くことが出来そうだ。(坂内優太)

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